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猫の療法食の基本|総合栄養食との違い・切り替え方と「食べてくれない」ときの工夫

対象の目安: 成猫〜シニア猫

ミオ食事・健康担当
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猫の療法食の基本|総合栄養食との違い・切り替え方と「食べてくれない」ときの工夫

健康診断や体調不良をきっかけに、動物病院で「今日からこのフードに変えましょう」と療法食をすすめられることがあります。ところが家に帰って皿に出してみると、いつものごはんとは香りも粒も違うのか、においを嗅いだだけでふいと去っていく。あるいは数口食べて、そのまま残す。療法食にまつわる相談で圧倒的に多いのが、この「食べてくれない」です。

療法食は、パッケージこそ普通のキャットフードに似ていますが、位置づけはまったく違います。ペットフードの表示に関する公正競争規約では、療法食は「獣医療において獣医師の指導のもとで食事管理に使用されることを意図したもの」と定義され、パッケージには獣医師の指導に基づいて与えるべき旨の注意書きを載せることまで定められています。つまり、飼い主が自分の判断で選んだり、続けるかどうかを決めたりするための商品ではありません。

この記事では、療法食が総合栄養食や一般食とどう違うのかという表示のルールから、代表的な種類、自己判断で買い続けたときに実際に起きた健康被害の事例、無理のない切り替えの進め方、そして食べてくれないときの現実的な工夫までを、公的な資料や獣医師会の報告書をもとに整理します。特定の商品をすすめるものではなく、また診断や治療方針の決定に代わるものでもありません。どの療法食をどう使うかは、必ずかかりつけの獣医師の指示に従ってください。

療法食とは何か、総合栄養食・一般食とどう違うのか

キャットフードのパッケージには、そのフードを何のために与えるのかを示す「目的」の表示があります。ペットフード公正取引協議会の解説では、目的は総合栄養食・間食・療法食・その他の目的食に区分されています。毎日の主食になるのは総合栄養食で、これは表示されたライフステージの猫が、そのフードと新鮮な水だけで健康を維持できるよう栄養バランスが設計されたものです。

これに対して療法食は、健康な猫の維持を目的としていません。公正競争規約の第3条第4項では、療法食を「栄養成分の量や比率が調節され、特定の疾病又は健康状態にあるペットの栄養学的サポートを目的に、獣医療において獣医師の指導のもとで食事管理に使用されることを意図したもの」と定義しています。健康維持のためのフードとは、そもそも狙っているものが違うということです。健康な猫のフード選びの土台になる考え方は

で整理しています。

目的の区分位置づけ主食にできるか誰の判断で使うか
総合栄養食健康な猫の毎日の食事。水と合わせて栄養が満たせるできる飼い主が選べる
間食(おやつ)ごほうびやコミュニケーションの手段向かない飼い主が選べる
療法食(特別療法食・食事療法食)特定の疾病または健康状態の猫の食事管理獣医師の指示による獣医師の診断と指導が前提
その他の目的食(一般食・副食・栄養補完食など)嗜好増進や特定成分の調節・補給単独では向かない飼い主が選べる

ペットフードの目的が総合栄養食・間食・療法食・その他の目的食に区分されること、療法食だけが病名を記載できる一方で「治療できるかのような表示はできない」こと、その他の目的食で一般食・副食にあたるものは別途栄養補給が必要である旨を併記することについて。ペットフード公正取引協議会「03.ペットフードの目的について」より。

パッケージの表示から読み取れること

療法食であることは、パッケージの表示からある程度読み取れます。公正競争規約の施行規則では、目的の表示について「療法食」と表示することが定められており、これに代えて「特別療法食」「食事療法食」「食餌療法食」と表示することもできるとされています。店頭やネットの商品名にこれらの言葉が入っていたら、それは一般の総合栄養食ではないというサインです。

さらに給与方法の表示についても、療法食には体重・給与回数・給与量に加えて、「獣医師の指導に基づいて給与するべきものである旨の注意書き」を記載することが定められています。パッケージの裏面や側面に小さく書かれていることが多い一文ですが、これは製品の性格を端的に示した、いちばん大事な注意書きです。

もうひとつ、療法食を表示する事業者は、商品名・適用される疾病または健康状態・表示の根拠である試験結果の保管場所を、ペットフード公正取引協議会に報告することとされています。裏づけとなるデータの所在を届け出たうえで「療法食」と名乗る仕組みになっている、と理解しておくとよいでしょう。

療法食の定義(規約第3条第4項)、「療法食」に代えて「特別療法食」「食事療法食」「食餌療法食」と表示できること、給与方法として体重・給与回数・給与量と「獣医師の指導に基づいて給与するべきものである旨の注意書き」を記載すること、事業者が商品名・適用される疾病または健康状態・表示の根拠である試験結果の保管場所を公正取引協議会に報告することについて。ペットフードの表示に関する公正競争規約および同施行規則より。

メモ

「腎臓の健康維持に配慮」「下部尿路の健康に配慮したミネラルバランス」といった表現の一般フードもあります。これらは健康な猫向けの総合栄養食で、療法食ではありません。名前や売り文句が似ていても中身の設計は別物なので、病気の食事管理として使えるかどうかは、必ず獣医師に確認してください。

なぜ通販で誰でも買えてしまうのか

「獣医師の指導のもとで使うもの」と定義されているのに、療法食はネット通販でもホームセンターでも普通に売られています。ここに戸惑う飼い主さんは多いと思います。理由は、療法食が法律上は一般のペットフードと同じ扱いだからです。

ペットフードを規制する法律は、環境省と農林水産省が共管する「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)」です。平成21年(2009年)6月1日に施行され、対象は犬および猫用のペットフード。ペットの健康に悪影響を及ぼすペットフードの製造・輸入・販売を禁止する、有害物質の基準や表示義務を定める、といった安全面の規制が中心です。

一方、どんな栄養バランスであるべきかという品質・栄養基準は、この法律の規制対象になっていません。日本獣医師会の報告書は、ペットフードの栄養基準が「ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則」に定められており、これは景品表示法にもとづき事業者団体が運用する自主基準である、と整理しています。つまり療法食は、医薬品のように流通が規制される仕組みがそもそも存在しないのです。

ペットフード安全法が平成21年6月1日に施行され、対象が犬および猫用のペットフードであること、ペットの健康に悪影響を及ぼすペットフードの製造・輸入・販売が禁止されていることについて。環境省「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)」より。

日本獣医師会の報告書は、かつては飼い主が獣医師の指導のもとに動物病院で療法食を購入するのが一般的だったところ、近年はインターネットショップやホームセンター等で獣医師の診療・指導を受けないまま購入・使用されるケースがみられるようになった、と指摘しています。そして、そうした流通経路の拡大が「獣医師による診療や指導を受けずに療法食が給与される事例の増加につながっている」としています。

注意

「買えること」と「自分の判断で使ってよいこと」は別です。療法食は栄養成分の量や比率が意図的に偏らせてあるフードで、日本獣医師会も「長期間に渡る不適切な食事管理が、治療の妨げや健康被害を助長するリスクとなりうる」と注意を促しています。ネットのレビューや同じ症状という自己判断で選ぶものではありません。

代表的な療法食の種類

療法食は、目的とする疾病や健康状態ごとにカテゴリーが分かれています。日本獣医師会の食事療法ガイダンスでは、使用目的による区分の例として次のようなカテゴリーが挙げられています。猫でよく使われるものを中心に、どういう考え方で栄養成分が調整されているのかを整理しました。効果を保証するものではなく、あくまで設計の狙いです。

目的の区分栄養設計の考え方(日本獣医師会ガイダンスより)
腎疾患タンパク質とリンを制限した栄養組成で、機能が低下した腎臓への負担を軽減する
尿石(下部尿路疾患を含む)尿石の構成成分、結石が形成されやすい尿pH、尿量増加を考慮してミネラル類や栄養成分を調整する
肥満および体重管理健康的なエネルギー代謝を維持しつつ摂取カロリーを制限し、満腹感を与えるため高食物繊維に調整する
消化器疾患消化不良には高消化性の原材料、下痢・嘔吐には高食物繊維食、といったように症状や原因に合わせて選ぶ
食物アレルギーアレルゲンと認識されにくい(加水分解または新奇性)タンパク質、または精製アミノ酸を使用する
皮膚疾患炎症性皮膚疾患に対応するため脂肪酸・ビタミン・ミネラルなどを調整する
糖尿病低炭水化物・高食物繊維の栄養組成で、糖質の消化吸収を緩やかにする
肝疾患高品質なタンパク質と高消化性の炭水化物で肝臓への負担を軽減する。銅蓄積性肝炎では銅を制限する
心疾患塩分の制限と電解質バランスの調整で心臓への負担を軽減する
関節炎関節の健康維持に役立つオメガ3脂肪酸の含有量を調整する
栄養回復高カロリーの栄養組成で、少ない食事量でも十分なカロリーを摂れるようにする

療法食の使用目的による区分の例(尿石・肥満および体重管理・皮膚疾患・食物アレルギー・腎疾患・心疾患・肝疾患・消化器疾患・関節炎・栄養回復・糖尿病・高脂血症)と、それぞれの栄養設計の考え方について。公益社団法人日本獣医師会「療法食の適正使用に向けた課題と対応」別紙「療法食の適正使用のための食事療法ガイダンス」より。

同じ「腎臓用」でも、製品によって制限の度合いやカロリー密度、粒の大きさ、ウェットの有無は異なります。また高齢の猫では、腎臓と関節、腎臓と甲状腺のように複数の状態を同時に抱えていることも珍しくありません。日本獣医師会の報告書でも、高齢期では複数の疾患の管理が必要な場合もあるとして、療法食の区分制度として複数の目的区分にまたがる取扱いの検討が必要だと指摘されています。実際にどれを優先するかは、検査結果を見ている獣医師の判断領域です。

慢性腎臓病の食事療法については、日本獣医腎泌尿器学会が日本語訳を公開しているIRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)の提言2016年版でも、猫のStage2で「腎臓病用の食事療法の開始を考慮する」とされ、「CKDでは、食欲不振が生じる前の早期の方が食事療法を実施しやすい」と述べられています。食べられるうちに慣らしておくほうが結果的に楽になる、という視点は覚えておくとよいでしょう。なお、IRISの提言はその後も改訂されているため、最新の方針はかかりつけの獣医師にご確認ください。

猫のCKD Stage2で腎臓病用の食事療法の開始を考慮すること、食欲不振が生じる前の早期の方が食事療法を実施しやすいこと、食事中のリン制限が第一段階として位置づけられていることについて。日本獣医腎泌尿器学会が公開するIRIS提言2016年版日本語訳より。

腎臓病そのものの経過や治療の選択肢は

で、膀胱炎や尿石といった下部尿路のトラブルは

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自己判断で使い続けると何が起きるのか

日本獣医師会の療法食の在り方検討委員会は、療法食の誤使用に起因することが疑われる健康被害について、全国の地方獣医師会を通じて事例を収集しました。その結果、報告が寄せられただけでも犬19例、猫18例の事例が認められたと報告されています。報告書に抜粋掲載されている猫2例は、いずれも「通院が途絶えたこと」が共通しています。

たとえば6歳6か月の去勢オス猫の事例では、ストルバイト結石のため溶解時用の療法食を与え、溶解後は再発防止用の療法食での食事管理を指示していたところ、来院が途絶え、その間に飼い主の判断で「低マグネシウム」と記載された一般のペットフードを与えたところ、ストルバイト結石が再発した、とされています。

もうひとつ、6歳の避妊メス猫の事例では、初診時にストルバイトによる血尿があり溶解時用の療法食の給与を指導したものの来院が途絶え、その間、同じフードを通販で購入して与え続けた結果、3年後に血尿で再来院した際にはシュウ酸カルシウム結石と診断されています。報告書では、溶解時用の療法食を長期給与したことが、逆にシュウ酸カルシウム結石の形成を助長したことが推察される、と述べられています。

注意

この2例目は、療法食の自己判断使用でもっとも起こりやすいパターンです。「前と同じフードを通販で買い続けているのだから大丈夫」と思っていても、猫の体の状態は変わります。日本獣医師会のガイダンスも、できやすい尿石は年齢・代謝・環境の変化により変わる場合があり、同じ療法食を長期間与え続けることで健康被害を招く恐れがあると明記しています。定期的な受診で、いまも同じ療法食でよいのかを確認してください。

療法食の誤使用に起因することが疑われる健康被害の事例が犬19例・猫18例収集されたこと、ストルバイト尿石再発防止用の療法食の中断による結石再発の事例、溶解時用療法食の長期給与後にシュウ酸カルシウム結石と診断された事例、できやすい尿石が年齢・代謝・環境の変化により変わる場合があることについて。日本獣医師会「療法食の適正使用に向けた課題と対応」より。

「登録療法食マーク」という手がかり

この報告書の提言を受けて、療法食の品質と適正使用を推進するための第三者組織として、一般財団法人獣医療法食評価センター(VDEC)が活動しています。VDECは、ペット栄養学会の監修協力を得て作成した「療法食基準」への適合が確認された製品を登録・管理しており、登録された療法食のパッケージには「登録療法食マーク」が表示されます。

VDECの説明によれば、このマークは、特別な栄養特性である療法食であることを一目で気づいてもらうために導入されたもので、登録製品の情報は獣医師の食事療法指導に利用できるようウェブサイトで公開されています。ここからは当サイトの補足ですが、飼い主の側からすると、マークは「これは獣医師の指導のもとで使うフードだ」と気づくための目印として受け取るのが実際的です。どの療法食を選ぶかを決めるのは、あくまで診察した獣医師です。

登録療法食マークが、療法食基準に適合することが確認され獣医療法食評価センターに登録された療法食に表示されること、療法食基準がペット栄養学会の監修協力を得て作成されたこと、同センターが第三者組織として登録管理を行っていることについて。一般財団法人獣医療法食評価センター(VDEC)より。

療法食への切り替えの進め方

療法食は、今までのフードとは香りも食感も違います。いきなり全量を入れ替えると、食べ渋りや消化不良を招きやすくなります。日本獣医師会のガイダンスでは、療法食の切り替えについて「今までのフードに新しいフードを徐々に混ぜていき、その分、今までのフードを徐々に減らして行き、1週間程度で切り替えます」とされています。

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    切り替え前に、獣医師に確認しておく

    与える量と回数、どのくらいの期間で切り替えるか、これまでのおやつやトッピングを続けてよいか、次の来院はいつかを、療法食をすすめられたその場ではっきり聞いておきます。あとから電話で聞き直すのは案外おっくうなので、その場でメモを取るのがおすすめです。
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    1〜3日目は、今までのフードを多めに

    ここからの割合は一般的な目安なので、実際のペースは獣医師の指示を優先してください。今までのフードを4分の3、療法食を4分の1くらいから始めます。ここで食べないようなら割合をさらに下げ、ひとかけらから慣らしても構いません。焦って進めても良いことはありません。
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    4〜6日目で半々を目指す

    便のかたさ、嘔吐の有無、食べ残しの量を見ながら、半々くらいまで療法食の割合を上げます。軟便が出たら一段階戻して、そのまま数日ようすを見ます。
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    7日目前後で療法食に移行する

    問題なく食べていれば療法食のみに移行します。移行できた日、食べた量、便の状態を簡単に記録しておくと、次の受診での説明がぐっと楽になります。
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    1〜2週間後に受診して見直す

    日本獣医師会のガイダンスでは、新たに食事療法をはじめ切り替えに1週間程度を要する場合、次回来院予定日を1〜2週間後に設定するとよいとされています。食べているか、体重や検査値がどうかを確認し、必要なら種類や与え方を見直します。

療法食の切り替えを今までのフードに徐々に混ぜて1週間程度で行うこと、切り替えに1週間程度を要する場合は次回来院予定日を1〜2週間後に設定するとよいこと、消化器症状や栄養回復など病状の変化が著しい症例ではさらに短い間隔で評価と見直しが必要になることについて。日本獣医師会「療法食の適正使用のための食事療法ガイダンス」より。

切り替えの途中で軟便が出ること自体は珍しくありませんが、下痢が続くときは切り替えのペースだけが原因とは限りません。便の見方や受診の目安は

でもまとめています。

袋のサイズは「使い切れる大きさ」で選ぶ

療法食は割高なので、つい大袋を選びたくなります。ただ、日本獣医師会のガイダンスでは、初回の見直しを1〜2週間後に実施するのであれば2週間程度で使い切るサイズを推奨し、長期継続で大きなサイズを購入する場合も、開封後1か月程度で風味や鮮度を保つことが難しくなることを考慮してサイズを選ぶ、としています。

香りが落ちたフードは、それだけで食べなくなる原因になります。せっかく慣れた療法食を「急に食べなくなった」と感じたとき、原因が病気ではなく開封から時間が経ちすぎたことだった、というのは実際によくある話です。フードの保存については

もあわせてご覧ください。

ヒント

切り替え中は、便と食べた量を1行メモしておくと役に立ちます。「9月5日朝ほぼ完食・便やや軟らかい」程度で十分です。次の診察で「なんとなく調子はいいです」と伝えるより、はるかに正確な情報になります。

療法食を食べてくれないときの工夫

ここが本題という方も多いはずです。日本獣医師会のガイダンスは、療法食への切り替えがうまくいかないときに試せることとして、次のような方法を挙げています。猫に当てはまるものを中心にまとめました。

療法食を食べないときに試せること

  • 体温ぐらいに温める。香りが立って食欲が増進する
  • 好物を少し混ぜて香りづけをする。ただし病気によっては使えないものがあるので、事前に必ず獣医師に相談する
  • 安心して食べられるよう、手から与えてみる
  • 食事のときに嫌なことをしない。とくに薬を混ぜると、食事そのものが嫌な記憶と結びついてしまう
  • 今までのフードと新しいフードを別々の皿に盛り、どちらかは必ず食べられる状態にしておく

療法食への切り替えがうまくいかないときの工夫として、体温ぐらいに温める、好物を少し混ぜて香りづけする(病気によっては使用できないものがあるため事前に獣医師へ相談)、手から与える、食事の時に嫌なことをしない(薬を混ぜるなど)、猫では食事を拒絶し肝リピドーシスとなるリスクを低減するため切り替え時に今までのフードと新しいフードを別々の皿に盛りつけていずれかの食事が必ずとれるよう準備しておく方法があることについて。日本獣医師会「療法食の適正使用のための食事療法ガイダンス」より。

最後の「別々の皿に盛る」は、猫に特有の重要なポイントです。ガイダンスでは、猫では食事を拒絶して肝リピドーシスとなるリスクを低減するため、この方法があると説明されています。混ぜてしまうと療法食を嫌がった時点で全部食べられなくなりますが、別の皿にしておけば少なくとも従来のフードは口にできる、という考え方です。

温め方と香りの立たせ方

猫は味よりも香りで食べるかどうかを決めているところがあります。ウェットタイプの療法食なら、人肌程度(体温くらい)に温めるだけで香りの立ち方が変わります。電子レンジを使う場合は加熱ムラができやすいので、短時間ずつ様子を見ながら、必ず全体を混ぜて温度を確かめてください。熱すぎると口の中をやけどする危険があるうえ、猫は熱いものを警戒します。

ドライタイプについては、先ほどのガイダンスは「犬ではドライフードを水でふやかすと、柔らかく食べやすくなります」と犬に限って書いており、猫についての記載はありません。ここからは当サイトの一般的な補足ですが、指示された給与量を増やさない範囲で、ぬるま湯を少量かけてふやかす方法は、猫でも行われることがあります。ただし療法食は水分量や成分の設計に意味があるため、水分を足してよいか、ウェットタイプの同じ療法食に変えられるかは、事前に獣医師に確認したほうが安全です。

トッピングとおやつをどう扱うか

「これをかけたら食べるのに」というトッピングは、療法食では扱いが難しいところです。日本獣医師会のガイダンスは、おやつについて「療法食以外の食事を与えると、食事療法の有用性が期待どおりに発揮されない場合があるため、一般のおやつは与えないでください」としたうえで、「使用する療法食と同じ栄養特性のおやつタイプの療法食であれば与えることができます」と説明しています。

腎臓用の療法食を与えているのに、リンやタンパク質の多いおやつを毎日与えていては、食事療法の意味が薄れてしまいます。多くのメーカーは主要な療法食に対応したおやつやウェットタイプを用意しているので、「どうしても何か足したい」と思ったら、まずは獣医師に「同じシリーズで使えるものはありますか」と聞くのが近道です。

腎臓用のフードに変えたら、いつものカリカリのおやつを欲しがって鳴くようになって。先生に相談したら、同じシリーズのウェットを少しトッピングにする方法を教えてもらえました。自己流でかつお節をかけなくてよかったです。

食器と置き場所も見直す

意外に効くのが、環境のほうを変えることです。深い器はひげが当たって食べにくく、途中でやめてしまう子がいます。浅めで縁が広い器に替える、高さのある食器台を使う、人の動線から外れた静かな場所に置く、水飲み場と少し離す。これらは療法食に限らない工夫ですが、フードそのものへの抵抗が強いときほど、環境側の抵抗を減らしておく価値があります。食器選びは

で詳しくまとめています。

食欲不振全般の考え方や、受診の目安の整理は

もあわせてご覧ください。

絶対に避けたいのは「食べるまで待つ」こと

療法食を食べないとき、いちばん危険なのが「お腹が空けばそのうち食べるだろう」と待つ対応です。犬でも食べない状態を放置してよいわけではありませんが、猫ではとくに危険です。

猫は食事が十分にとれない状態が続くと、エネルギー不足を補うために体内の脂肪が急速に分解され、その脂肪が肝臓にたまって機能が落ちる肝リピドーシス(脂肪肝)を起こすことがあります。姉ヶ崎どうぶつ病院の解説では、リスクが高い猫として肥満傾向のある猫、ストレスや環境変化で食欲が落ちやすい猫、口内炎・糖尿病・膵炎などの慢性疾患を抱える猫、急なダイエットを経験した猫が挙げられています。療法食を出される猫は、慢性疾患を抱えていたり体重管理中だったりすることが多く、まさにこのリスク層と重なります。

初期には食欲不振や体重減少、毛づやの悪化、元気の低下、嘔吐がみられ、進行すると白目・耳・歯ぐきが黄色くなる黄疸が現れるとされています。同院は、2日続けてほとんど食べない場合はすぐに動物病院に相談することを目安として示しています。

食事がとれない状態が数日続くと体内の脂肪が急速に分解されること、リスク要因として肥満傾向・ストレスや環境変化で食欲が落ちやすい・口内炎や糖尿病や膵炎などの慢性疾患・急なダイエットが挙げられること、初期症状(食欲不振・体重減少・毛づやの悪化・元気の低下・嘔吐)と進行時の黄疸、2日続けてほとんど食べない場合はすぐ相談という目安について。姉ヶ崎どうぶつ病院の解説より。

日本獣医師会のガイダンスも、療法食を急に食べなくなったときの対応として「2日以上まったく食べない場合や、食事を十分に食べない日が3〜5日以上続く場合には、早めに獣医師に相談しましょう」としています。数字の出どころは違いますが、示している方向は同じです。

状況目安となる対応
療法食は残すが、従来のフードは食べている切り替えを一段階戻し、次の受診で相談する
2日以上まったく食べない早めに獣医師に相談する(様子見しない)
十分に食べない日が3〜5日以上続く早めに獣医師に相談する
元気がない・嘔吐が続く・黄疸が疑われる日数に関係なくすぐに受診する

注意

「療法食しか与えない」と決めて絶食させるのは、猫では危険な対応です。切り替えがうまくいかないときは、食べないまま粘るのではなく、従来のフードでもいいので何かを食べさせながら、早めに獣医師に相談してください。日本獣医師会のガイダンスも、重篤な状態であればまずその改善を優先し、状態が安定して食事管理ができるようになってから療法食を与えはじめる、という考え方を示しています。

多頭飼いでの分け方

多頭飼いの家庭では、療法食のいちばんの難所が「対象の猫だけに食べさせる」ことです。療法食は特定の状態の猫のために栄養バランスを意図的に偏らせたフードなので、健康な同居猫が長期間食べ続けるのは望ましくありません。逆に、療法食を出されている猫が同居猫の総合栄養食をつまみ食いしてしまえば、食事療法の効果は薄れます。

多頭飼いで療法食を分けるための工夫

  • 置き餌をやめ、決まった時間に出して食べ終わったら下げる方式に切り替える(ただし食欲が落ちている猫では摂取量が減りやすいので、切り替え中や食べムラがあるうちは獣医師に相談してから)
  • 食べる場所を部屋や高さで分ける。ケージや別室、キャットタワーの上など、その子だけが行ける場所を使う
  • 食事の時間をずらし、片方が食べ終わってから次の猫を出す
  • 食器の位置を離し、互いの器を見に行けないよう飼い主が付き添う
  • マイクロチップや専用タグで登録した猫にだけ開く自動給餌器を使う
  • 食べ残しはすぐ片づけ、他の猫が後から口にできないようにする

もっとも確実なのは、時間と場所を分けて飼い主が見ている前で食べさせることです。手間はかかりますが、誰がどれだけ食べたかが正確にわかるという副次的な利点もあります。マイクロチップ対応の自動給餌器は、留守番が長い家庭では有力な選択肢です。給餌器の選び方は

でまとめています。

メモ

同居猫が療法食を少し口にした程度で、ただちに問題が起きるわけではありません。ただし常態化するのは避けたいところです。「うちは同居猫がいて完全には分けきれない」という事情は、獣医師にそのまま伝えてください。ウェットに変える、給与回数を変えるなど、現実的な落としどころを一緒に考えてもらえます。

多頭飼いの食事まわりの相性や競争については

もあわせてご覧ください。日本獣医師会のガイダンスでも、同居動物との摩擦がストレス要因になりうること、ストレスが猫の下部尿路疾患に悪い影響を与えることが知られていると述べられており、食事の場の落ち着きは意外に軽視できません。

やめどき・見直しのタイミング

療法食でもっとも判断を誤りやすいのが、「調子が良くなったからもう戻していいか」というところです。日本獣医師会のガイダンスは、この問いにはっきり答えています。食事療法を続けるかどうか判断するには獣医師の診療を受けること、適切なフードの選択は獣医師が行うこと、疾病の進行や健康状態の変化に合わせて療法食の種類や給与方法の見直しが必要となる場合があること。つまり、やめどきを決めるのは飼い主ではありません。

また、療法食がなくなったときに猫を連れずに来院してフードだけ買い足してよいか、という問いにも「定期的に来院し、診療を受けてください」と答えています。フードの買い足しのタイミングを受診のタイミングに合わせる、というのは実用的な習慣です。

目的の区分見直しの考え方(日本獣医師会ガイダンスより)
切り替え直後(全般)切り替えに1週間程度かかる場合、次回来院は1〜2週間後を目安に設定する
消化器症状・栄養回復など病状の変化が著しい症例では、さらに短い間隔で評価と見直しが必要になる
肥満・体重管理最初の1か月は週1回程度、減量ペースが安定しても月1回程度の間隔で栄養評価(BCS・筋肉量・皮膚被毛の状態)を行う
皮膚疾患・食物アレルギー皮膚の新陳代謝には3週間以上かかるため、すぐに変化が見られない場合がある。獣医師の指定した間隔で受診する
尿石(下部尿路疾患)できやすい尿石は年齢・代謝・環境で変わりうる。同じ療法食の長期給与が健康被害を招く恐れもあるため定期受診が必須
慢性腎臓病失われた腎機能の回復は難しく、進行を遅らせてQOLを維持する。定期的な生化学検査に合わせて種類や給与方法を見直す

食事療法を続けるかどうかの判断には獣医師の診療が必要で適切なフードの選択は獣医師が行うこと、療法食がなくなったときも定期的に来院して診療を受けること、体重管理では最初の1か月は週1回程度その後は月1回程度の栄養評価を行うこと、皮膚の新陳代謝には3週間以上かかること、慢性腎臓病では失われた腎機能の回復が難しく進行を遅らせてQOLの維持管理に努めることについて。日本獣医師会「療法食の適正使用のための食事療法ガイダンス」より。

減量目的の療法食はとくに慎重に

体重管理用の療法食は、飼い主が自分の判断で始めやすいカテゴリーです。しかし日本獣医師会の報告書には、体重管理用の療法食をホームセンターで継続購入し、体重や体型の変化に合わせた食事量の調整ができなかったために、1年後の再来院時に重度の削痩と低タンパク血症がみられた犬の事例が掲載されています。猫では急激な減量が肝リピドーシスの引き金になりうるため、なおさら注意が必要です。ガイダンスも「急激な減量は健康への悪影響が懸念される」として、適切な減量計画の作成と定期的な健康診断の重要性を強調しています。

ヒント

受診のたびに聞いておくと良い質問を決めておくと、通院が実のあるものになります。「いまの療法食は続けてよいか」「量は変えなくてよいか」「おやつやトッピングは何なら使えるか」「次はいつ来ればよいか」。この4つを毎回聞くだけでも、自己判断で迷う場面がかなり減ります。かかりつけ選びは

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費用と続けやすさの話

療法食は一般の総合栄養食より高価なことが多く、しかも慢性疾患では長期間続くことになります。「続けられないかもしれない」という不安は、遠慮せず獣医師に伝えてよいものです。同じ目的のカテゴリーでも複数のメーカー・複数のラインがあり、価格帯もドライとウェットの構成も違います。取り扱いのある範囲で相談すれば、現実的な選択肢を提示してもらえることがあります。

黙って安い一般フードに戻してしまうのが、いちばん避けたい結末です。先に挙げた事例のように、良かれと思って選んだ「低マグネシウム」表示の一般フードで再発した例もあります。困っていることを伝えるほうが、結果的に猫にとっても家計にとっても良い方向に進みます。

フード価格の考え方全般は

でも触れています。ただし療法食は、価格や口コミで選ぶ商品ではないという前提を忘れないでください。

よくある質問

療法食は動物病院でしか買えないのですか
法律上は一般のペットフードと同じ扱いのため、通販やホームセンターでも購入できます。ただし公正競争規約では、パッケージに獣医師の指導に基づいて給与するべき旨の注意書きを表示することが定められており、獣医師の診断と指導が前提のフードです。日本獣医師会は、購入時期に合わせて定期的に受診することをすすめています。
健康な猫が予防目的で療法食を食べても大丈夫ですか
療法食は特定の疾病または健康状態の猫のために栄養成分の量や比率を調整したもので、健康維持を目的とした総合栄養食とは設計が異なります。日本獣医師会は、長期間の不適切な食事管理が治療の妨げや健康被害を助長するリスクとなりうると指摘しています。予防目的で自己判断で使うものではありません。気になる点があれば動物病院で相談してください。
療法食に切り替えたら軟便になりました。どうすればよいですか
切り替えのペースが速すぎた可能性があります。いったん前の割合に戻し、数日かけてゆっくり進めるのが基本です。ただし下痢が続く、嘔吐を伴う、元気がないといったときは切り替えの問題とは限らないため、様子見を続けず動物病院に相談してください。
療法食と一般のフードを混ぜて与えてもよいですか
自己判断で混ぜるのはおすすめできません。療法食は栄養成分の量や比率を調整していることに意味があり、他のフードを足すと設計が崩れます。日本獣医師会のガイダンスでも、療法食以外の食事を与えると食事療法の有用性が期待どおりに発揮されない場合があるとされています。どうしても食べないときは、混ぜてよいか・何なら混ぜてよいかを必ず獣医師に確認してください。
以前使っていた療法食が余っています。同じ症状が出たら使ってよいですか
使わないでください。同じように見える症状でも原因が違うことがあり、たとえば尿石は種類によって適した食事療法が異なります。日本獣医師会の報告書には、溶解時用の療法食を長期に与え続けたことが別の種類の結石の形成を助長したと推察される、という猫の事例が掲載されています。まずは受診して、いまの状態に合う療法食を選んでもらってください。
療法食のおやつはありますか
日本獣医師会のガイダンスでは、一般のおやつは与えず、使用する療法食と同じ栄養特性のおやつタイプの療法食であれば与えることができるとされています。多くのメーカーが主要な療法食に対応した製品を用意しているので、かかりつけの動物病院で使えるものを確認してください。
うちの子は2日食べていませんが、療法食に慣れるまでの辛抱でしょうか
辛抱させないでください。猫は食事が十分にとれない状態が続くと肝リピドーシス(脂肪肝)のリスクがあります。日本獣医師会のガイダンスは、2日以上まったく食べない場合や十分に食べない日が3〜5日以上続く場合は早めに獣医師に相談するよう示しています。動物病院の解説でも、2日続けてほとんど食べないならすぐ相談という目安が示されています。すぐに連絡してください。

まとめ

療法食は、パッケージが似ているだけで、総合栄養食とはまったく別のものです。公正競争規約では「獣医師の指導のもとで食事管理に使用されることを意図したもの」と定義され、パッケージにもその旨の注意書きが表示されます。法律上は一般のペットフードと同じ扱いのため通販でも買えてしまいますが、買えることと自己判断で使ってよいことは別だ、というのが日本獣医師会の報告書が繰り返し伝えているところです。

切り替えは今までのフードに少しずつ混ぜて1週間程度、そして1〜2週間後に受診して見直す。食べないときは温める、別の皿を用意する、環境を整えるといった工夫を試しつつ、混ぜてよいものは事前に獣医師へ確認する。そして何より、食べないまま粘らないこと。猫にとって絶食は、療法食を食べさせられないことよりずっと大きなリスクです。

やめどきや切り替えどきを決めるのは獣医師です。調子が良くなっても、フードが切れても、猫を連れて定期的に受診する。この習慣ひとつで、報告書に載っているような「来院が途絶えたあとの再発」はかなり防げます。この記事は一般的な情報の整理であり、診断や治療方針の決定に代わるものではありません。療法食のことで迷ったら、自己判断を続けるより、かかりつけの動物病院に相談してください。

出典・参考

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