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猫の平熱は何度?体温の測り方と、発熱・低体温のサイン、受診の目安

対象の目安: 全ライフステージ

ミオ食事・健康担当
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猫の平熱は何度?体温の測り方と、発熱・低体温のサイン、受診の目安

抱き上げたときに「なんだか熱い気がする」。耳をさわったら熱くて、鼻も乾いている。うちの子、熱があるんじゃないか——そう思ったことのある飼い主さんは多いはずです。ところが猫の体温は、人のように脇に体温計を挟んで測れるものではなく、そもそも「平熱」の数字自体が資料によってかなり幅があります。この記事では、猫の平熱の目安が資料ごとにどう違うのか、家庭で測るならどの方法が何をどこまで教えてくれるのか、発熱と低体温それぞれのサイン、そして「これは家で粘らないほうがいい」という受診の目安を、動物病院グループの解説と査読論文をもとに整理します。数値は診断の代わりにはなりませんが、いつもと違うことに早く気づくための、とても強い手がかりになります。

猫の平熱は何度?資料によって数字が違う理由

まず知っておきたいのは、「猫の平熱」に唯一の正解値はない、ということです。信頼できる出典を並べても、数字はきれいに一致しません。

出典平熱の目安(直腸温)
VCA Animal Hospitals(体温の測り方の解説)37.7〜39.2℃(100.0〜102.5°F、犬猫共通)
VCA Animal Hospitals(猫の不明熱の解説)38.1〜39.2℃(100.5〜102.5°F)
PDSA(英国の動物慈善団体・発熱の解説)38〜39℃
アニコム損保(猫との暮らし大百科)成猫の直腸温で38〜39℃
ペットニュースストレージ(中島拓人獣医師監修)平均37.8〜39.0℃
Levy JKら(健康な成猫200頭の研究、2015年)36.7〜38.9℃(98.1〜102.1°F、平均37.8℃)

VCA Animal Hospitalsは「犬と猫の正常体温は100.0°F〜102.5°F(37.7〜39.2℃)」と記載し、104°F(40.0℃)を超える、または99°F(37.2℃)を下回る場合は動物病院へ、としています。出典:VCA Animal Hospitals

とくに目を引くのが、いちばん下の研究です。獣医学の教科書に長く載ってきた「37.7〜39.2℃」という範囲には、実は十分な裏づけがなかったという問題意識から、Levyらは室内で飼育されている健康な成猫200頭の直腸温を、環境に6時間以上慣らしたうえで測定しました。その結果得られた基準範囲は36.7〜38.9℃(平均37.8℃)。従来の教科書値より低く、そして幅も広いものでした。EveryCat Health Foundationの解説は、この範囲の下限にいる猫は従来の基準では「低体温」と分類されてしまい、上限にいる猫は従来の基準では「発熱」に当てはまらない、と指摘しています。

EveryCat Health Foundationは、Levy JK, Nutt KR, Tucker SJ(J Feline Med Surg 2015;17:950-2)の研究として、健康な成猫200頭の直腸温の基準範囲が98.1〜102.1°F(36.7〜38.9℃)、平均100.1±1.01°F(37.8±0.6℃)であり、これは複数の獣医学教科書が挙げる基準範囲より低くかつ広い、と紹介しています。あわせて「体温は病歴やほかの臨床症状と合わせて解釈しなければならない」としています。出典:EveryCat Health Foundation

つまり、体温の数字そのものだけを見て白黒つけようとするのは、そもそも無理があるということです。数字は「その猫のいつも」と並べて初めて意味を持ちます。

メモ

数字に幅が出るのは、測る場所(直腸か耳か)、機器、測定時の緊張度、環境温度、そして猫の年齢や体格が影響するためです。離乳後〜若齢の子猫は成猫よりやや高め、シニア猫はやや低めになる傾向があるとされています(ただし生後4週未満の子猫は成猫より低いのが正常です。次の節で説明します)。「38.5℃だから異常」ではなく、「うちの子はいつも37.9℃なのに、今日は39.3℃だった」という比較のほうが、はるかに役に立ちます。

子猫の体温は大人と違う

生まれたての子猫は自分で体温を保てず、母猫と環境の暖かさに完全に頼っています。International Cat Careは、子猫の直腸温は生後1週目で35〜37℃、2〜3週目で36〜38℃、4週目までに成猫と同じ38〜39℃に達する、としています。つまり「子猫の体が冷たい」ときの意味は、成猫の場合とはまったく重さが違います。

International Cat Careは、離乳前の子猫の主要な死亡原因の一つとして低体温を挙げ(ほかに低血糖、脱水を並べています)、「子猫の直腸温は1週目で35〜37℃、2〜3週目で36〜38℃、4週目までに成猫と同じ38〜39℃に達するべき」としています。また、子猫箱の環境温度は29〜32℃を保ち(子猫が涼しい場所へ移動できることが前提)、生後7〜10日で約27℃、1か月の終わりまでに22〜25℃へ段階的に下げると解説しています。出典:International Cat Care

保護したばかりの子猫や、手のひらに乗るような週齢の子猫を扱うときは、体温の考え方から変える必要があります。詳しい初期対応は

にまとめています。

「触って熱い気がする」は、なぜ当てにならないのか

耳や肉球、お腹をさわって体温を推し量る方法は、多くの飼い主さんが自然にやっていることです。実際、日本の獣医師監修記事でも、日々のスキンシップの中でお腹・耳・肉球にやさしく触れて平常時の体温を覚えておくことが、異変に気づく方法として紹介されています。PDSAも、発熱している猫は「足・耳・顔がとくに熱く感じることがある」と挙げています。

動物病院サプリ(あおば動物クリニック・牧村さゆり獣医師監修)は、お腹・耳・肉球は体温の変化を感じ取りやすく、通常よりも熱く感じる場合は発熱している可能性があるとしつつ、「運動後や興奮しているときは一時的に熱くなることがあるため、リラックスしているタイミングでチェックするとよい」と説明しています。出典:動物病院サプリ

ただし、それは「気づくきっかけ」であって「測定」ではありません。アニコム損保の解説は、この点をはっきり書いています。

アニコム損保「猫との暮らし大百科」は、「耳や肉球が熱いからといって、必ずしも体温自体が上がっているとは限りません」とし、耳の温度はあくまでも参考程度にして、ほかに気になる症状がないかもよく観察するよう促しています。出典:アニコム損保

耳や肉球は、体の末端で環境温度の影響を強く受けます。日なたで寝ていた直後、こたつから出てきた直後、ひとしきり運動会をした直後——どれも体温が上がっていなくても熱く感じます。逆に、寒い部屋にいれば発熱していても末端は冷たく感じることがあります。

鼻の乾きも同様で、健康な猫の鼻は湿ったり乾いたりを一日のうちに何度も繰り返します。「鼻が乾いている=熱がある」は、根拠のある指標ではありません。触った印象は「体温計を出す理由」にはなりますが、「熱があるかどうかの結論」にはならない、と考えておくのが安全です。

基準は直腸温:測り方と安全に測るコツ

猫の深部体温の代用として、もっとも正確で一般的に用いられているのは直腸温です。2025年のJournal of Veterinary Behavior掲載論文も、冒頭で「猫の深部体温の代用値は、直腸温の測定によってもっとも正確かつ一般的に得られる」と述べています。家庭で測る場合の流れは次のとおりです。

  1. 1

    動物用の体温計を用意する

    先端がやわらかい動物用のデジタル体温計を使います。ガラス製(水銀)の体温計は、割れたときの水銀曝露が危険なためVCAは推奨していません。人用の硬い棒状体温計を直腸に使うのも避けます。
  2. 2

    潤滑剤をつける

    先端にワセリンなどの潤滑剤を塗ります。ペットニュースストレージの解説でも、直腸を傷つけないよう先端のやわらかい動物用体温計に潤滑剤をつけることが勧められています。
  3. 3

    やさしく保定する

    できれば2人で。1人が猫の胸元と前足をやさしく支え、もう1人がしっぽを軽く持ち上げます。バスタオルで体を包むと、ひっかき事故を減らせます。
  4. 4

    浅く、まっすぐ入れる

    肛門から1〜2cm程度(資料により2〜3cm)をゆっくり挿入します。抵抗があるときは無理に押し込まないこと。VCAも「ペットが抵抗するなら無理に挿入しないように」と注意しています。
  5. 5

    表示が確定したら抜いて記録する

    日時・数値・そのときの様子(食欲、元気、呼吸)をあわせてメモします。体温計は毎回洗浄・消毒します。

注意

直腸温の測定は、猫にとって強いストレスになりうる処置です。暴れているときに無理に行うと、直腸を傷つける事故につながる恐れがあります。嫌がるそぶりが強い、うなる、体をひねって逃げようとする——このようなときは中断してください。「測れなかったこと」より「無理に測って怪我をさせること」のほうがずっと大きな問題です。測れないまま様子がおかしいなら、測定は動物病院に任せて、受診そのものを早めるほうが確実です。

参考までに、前述のJournal of Veterinary Behaviorの研究では、動物病院での直腸温測定に必要だった保定時間は平均31秒(±17秒)でした。つまり、ふだんから短時間の保定に慣らしておくことが、そのまま測りやすさに直結します。

耳式(鼓膜)体温計:手軽さと引き換えに、直腸温とはズレる

猫用の耳式体温計は、耳の中に1秒ほど当てるだけで測れる手軽さが魅力です。では、直腸温の代わりになるのでしょうか。2025年にVeterinary Sciences誌に掲載された研究が、この点を丁寧に検証しています。

自宅の健康な猫と、動物病院で低体温・正常・高体温と判定された猫、合計61頭を対象に、鼓膜温と直腸温を比較した結果は次のとおりでした。

  • 低体温〜正常域の猫では、鼓膜温が直腸温より平均0.4±0.4℃高く出た
  • 高体温(38.9℃超)の猫では、鼓膜温が直腸温より平均0.1±0.3℃高く出た
  • 直腸温が高かった猫は、鼓膜温でもすべて「高体温」と正しく分類できた(ただし高体温の猫は8頭のみ)
  • 一方、動物病院で直腸温が正常だった猫34頭のうち10頭は、鼓膜温では38.9℃を超え「発熱」と判定された(正常な猫を発熱と誤判定するリスク)
  • 正常域(36.7〜38.9℃)の猫では、鼓膜温の約半数が直腸温の±0.5℃以内に収まったが、自宅環境では一致の幅が広く精度は低かった
  • 測定中のストレス評価(FASスコア)は、直腸測定が2.9±0.9、耳測定が1.6±0.9で、直腸測定のほうがほぼ2倍高かった

Veterinary Sciences(2025年)掲載の研究は、左耳で2回測定した鼓膜温の平均値は、動物病院における発熱スクリーニングとしてストレスの少ない方法になりうるとしつつ、結論で「正常体温の猫が発熱と誤って分類されるリスクがある」「一致の幅が広く精度も低いため、この方法は家庭環境では推奨されない」「耳温が低い(36.7℃未満)猫では直腸測定に切り替えるべきである。低体温は鼓膜温が示すより重篤な可能性があるため」と述べています。あわせて、低体温5頭・高体温8頭と対象が少なく、これらの群での精度を確定するにはさらなる研究が必要だとしています。出典:Veterinary Sciences(PMC)

要するに、耳式体温計は動物病院で「熱が出ていないか」をストレス少なく拾う用途には向いているが、直腸温の置き換えにはならない、という位置づけです。しかもこの研究は、家庭では測定のばらつきが大きく精度も落ちるとして、家庭環境での使用そのものを推奨していません。家庭で使うなら「発熱かどうかの判定」ではなく「同じ条件で測った値の推移を見る」用途に限定し、判断は動物病院に委ねてください。また「冷えているかどうか」の判断にも向きません。低体温が心配な場面(子猫、術後、真冬にぐったりしている、など)では、耳の数字を信用しすぎないことが大切です。

ヒント

前述のとおり、家庭での耳式測定は研究上は推奨されていません。それでも記録の道具として使うなら、毎回同じ側の耳で、同じ角度・同じ深さで2回測って平均を取ると、値が安定しやすくなります。得られた数字は発熱の判定ではなく、推移をつかむための目安として扱ってください。耳が汚れている、耳の中が赤い、耳垢が多いといった状態では正確に測れません。VCAも、感染している耳では正確な値が得られないため使用しないよう注意しています。

非接触の赤外線体温計はどうか

コロナ禍以降おなじみになった、額にかざすタイプの非接触赤外線体温計。ペット用の製品もありますが、猫での精度は厳しい評価が出ています。

Nutt・Levy・Tuckerによる研究(J Feline Med Surg, 2016年)は、188頭の成猫を対象に、3機種の非接触赤外線体温計を耳介・歯肉・会陰の3か所で測定し、直腸温と比較しました。結果は、非接触の測定値が直腸温より平均0.7〜1.3℃低く出たものの、そのズレ方は一定ではなく、低体温の猫では逆に高めに、正常〜高体温の猫では低めに出る傾向がありました。相関係数はr=0.10〜0.42と弱く、著者らは「非接触赤外線体温計による測定の精度は、猫の臨床使用には信頼できない」と結論しています。ズレ方に一貫したパターンがないため、補正式を作ることもできなかったとされています。

Nutt KR, Levy JK, Tucker SJ「Comparison of non-contact infrared thermometry and rectal thermometry in cats」(J Feline Med Surg 2016)は、188頭の猫で非接触赤外線体温計と直腸温を比較し、平均で0.7〜1.3℃低く出るが変動に一貫性がなく、相関はr=0.10〜0.42と弱いとして、「非接触赤外線体温計による測定精度は猫の臨床使用には信頼できない」と結論しています。出典:PMC(J Feline Med Surg)

その後、2024年にVeterinary World誌で、184頭の猫を対象に肛門周囲と鼠径部の赤外線温度を組み合わせ、年齢・体格・被毛のタイプや色で補正する予測モデルの研究も行われています。ただしこの研究でも、モデルの説明力(調整済み決定係数)は低く、単一部位の予備モデルで7.3〜8.9%、最終的な予測モデルでも12.8%にとどまりました。著者ら自身が、実用性を評価するには外部の集団での検証が必要だとしています。家庭用として「かざすだけで体温がわかる」段階には、まだ達していないと考えるのが妥当でしょう。

脇に挟む方法、人用体温計はどうか

「人の体温計を脇に挟めばいいのでは」と考えたくなりますが、これも当てにはなりません。PECOの獣医師監修記事は、後ろ足の付け根に体温計を挟んで測る方法もあるとしつつ、「この場合は肛門での検温と比べ、0.5〜1℃ほど低く測定されます」と明記しています。つまり、得られた数字は直腸温とは別物であり、そのまま平熱の基準表と比べることができません。

PECO(ますだ動物クリニック・増田国充院長監修)は、猫の平熱は人より1〜2度高い38度台とし、後ろ足の付け根で測る方法は肛門での検温と比べて0.5〜1℃ほど低く測定される、と説明しています。出典:PECO

加えて、猫の脇は被毛があり、人のようにセンサーを密着させ続けることが難しく、じっとしていてくれる時間も限られます。どうしても脇や後ろ足の付け根で測る場合は、「直腸温より低く出る前提で、同じ場所・同じ体勢で毎回測り、その値の推移だけを見る」という使い方に限定してください。単発の数値を絶対値として扱うのは避けたほうが安全です。

平常時の平熱を測っておく価値:ストレスで体温は上がる

家庭で測る最大の意義は、実は「異常を見つけること」よりも「平常値を知っておくこと」にあります。それを裏づけるのが、2025年にJournal of Veterinary Behaviorに掲載されたカナダ・モントリオール大学のグループによる研究です。

ケベック州の11施設で、健康診断や予防で来院した猫の直腸温とストレス度(簡易ネコストレススケール)を記録したこの研究では、次のことがわかりました。

  • 動物病院の診察は、猫の62%で中等度から強いストレスを伴っていた
  • ストレスの少ない猫(スコア1)は、中等度(スコア2)の猫より直腸温が有意に低く、強い(スコア3)猫に対しては第2部でのみ有意差が確認された。第1部の平均は順に37.8℃・38.4℃・38.1℃、第2部では38.4℃・38.5℃・38.6℃
  • 体温が異常と判定された猫の79%が、中等度から強いストレスの状態にあった
  • それらの猫で治療方針が変更されたケースはなく、診療スタッフはその上昇をストレスによるものと考えていた
  • 獣医師176名へのアンケートでも、80%が「健康だが緊張している猫の直腸温が高くても治療方針は変えない」と回答した

Bigras-Fontaine C, Bazin I, Desmarchelier M「Clinical relevance of rectal temperature measurement in cats showing marked signs of stress during routine veterinary examinations」(Journal of Veterinary Behavior 80, 2025)は、動物病院の受診が猫の62%で中等度から強いストレスを伴い、ストレスの少ない猫(スコア1)は中等度のストレスを示す猫(スコア2)より直腸温が有意に低かったこと、健康な猫では体温測定の臨床的意義が低いことを報告しています。直腸温測定に要した保定時間は平均31秒(±17秒)でした。出典:Journal of Veterinary Behavior(PDF)

この研究が示しているのは、「病院で測った体温は、緊張の影響を受けて高めに出ることがある」という事実です。裏を返せば、自宅で落ち着いているときに測った値こそが、その子の本当の基準線になります。年に何度か、機嫌のいいときに測って記録しておくと、体調を崩したときに「いつもより1℃高い」という具体的な情報を獣医師に渡せます。

平熱の記録でそろえておきたい項目

  • 測定した日時(できれば同じ時間帯にそろえる)
  • 測定した場所(直腸/耳/後ろ足の付け根)と使った体温計
  • そのときの室温
  • 数値
  • そのときの様子(食欲・元気・遊んだ直後かどうか・寝起きかどうか)
  • 体重(同じタイミングで測っておくと変化に気づきやすい)
健康診断のたびに「ちょっと高めですね、緊張ですかね」と言われるので、家で落ち着いているときに耳式で測って手帳に書くようにしました。あるとき明らかに高い日があって、それを見せたら診察がすごくスムーズで。数字が1行あるだけで、こんなに違うんだと思いました。
飼い主

なお、家庭で耳式を使って記録する場合も、前述のとおりその数字は発熱の判定には使えません。記録として残す価値は十分にありますが、受診するかどうかは数字だけでなく、食欲・元気・呼吸の様子とあわせて判断してください。

体重も一緒に記録しておくと変化に気づきやすくなります。測り方は

を参考にしてください。

発熱のサイン:体温計がなくても気づけること

体温を測れなくても、発熱している猫にはわかりやすい変化が現れます。VCAは、発熱している猫の様子として次のように挙げています。

  • 元気がなくなる(活動性の低下)
  • 動きたがらない
  • 食欲がなくなる
  • 心拍数と呼吸数が増える
  • 脱水する
  • 震えたり、体をこわばらせたりすることもある

PDSAも、発熱時の猫は隠れて出てこない、食べたがらない、震える、呼吸がいつもより速くなる、といったサインを挙げています。日本の獣医師監修記事でも、いつもは元気に遊ぶ猫が急に元気をなくして動きたがらなくなる、食欲が落ちる、呼吸が速い・浅い・苦しそう、といった様子が発熱を疑うきっかけとして紹介されています。

VCA Animal Hospitalsは、発熱している猫は「元気がなくなり、動きたがらず、食欲を失い、心拍数と呼吸数が増え、脱水する」と説明し、猫の正常体温を100.5〜102.5°F(38.1〜39.2℃)としています。出典:VCA Animal Hospitals

「発熱」と「高体温」は別のもの

同じ体温上昇でも、原因のしくみが違います。Today's Veterinary Practiceの解説は、発熱(fever/pyrexia)は体内で視床下部の設定温度そのものが上げられた状態、高体温(hyperthermia)は外的な要因によって体温が上がった状態、と区別しています。熱中症は後者の代表で、対応も緊急度もまったく違います。暑さによる体温上昇が疑われる状況なら、

を先に確認してください。

原因不明の発熱(FUO)という考え方

熱があるのに、診察と基本的な検査では原因が特定できないことがあります。これを「不明熱(fever of unknown origin, FUO)」と呼びます。VCAは、FUOとされるには「体温が103.5°F(39.7℃)を超える状態が数日以上続き、病歴と身体検査から明らかな原因が見つからないこと」が条件だとしています。Today's Veterinary Practiceは、より厳密に「2週間の間に4回以上、39.7℃(103.5°F)を超える体温が確認され、原因が特定されない状態」と定義しています。

原因としてもっとも多いのは感染症で、VCAは猫白血病ウイルス(FeLV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)、猫伝染性腹膜炎(FIP)、パルボウイルス(汎白血球減少症)、ヘルペスウイルス、カリシウイルスといったウイルス感染を筆頭に、細菌感染、腫瘍、真菌感染、鈍的外傷を挙げています。Today's Veterinary Practiceは、屋外に出る猫では咬傷による膿瘍などが多く、多頭飼育の若い室内猫ではFIPが第一に考えられる、としています。

くしゃみや目やに、鼻水を伴う発熱なら、猫風邪(猫上部気道感染症)の可能性もあります。詳しくは

にまとめています。

低体温のサイン:とくに子猫・シニア・術後は要注意

見落とされがちですが、体温が下がっていることも同じくらい重大なサインです。VCAは37.2℃(99°F)を下回る場合を受診の目安に挙げています。

低体温になりやすい場面は、おおむね次のとおりです。

場面背景
生後間もない子猫自力で体温を保てず、環境の暖かさに完全に依存している
高齢・痩せた猫熱をつくる筋肉量・体脂肪が少なく、活動量も落ちている
手術・麻酔のあと麻酔中は体温調節が働きにくく、低体温は代表的な周術期合併症
冬の寒い部屋・脱走からの帰宅長時間の寒冷曝露
重い病気やショック状態体が熱をつくれない、循環が保てない

体が冷たい(耳や肉球が冷たいまま戻らない)、ぐったりして反応が鈍い、震える、動きがぎこちない、呼吸が浅く速い——こうした様子が重なるときは、暖めながら急いで動物病院へ向かってください。ペットニュースストレージの解説は、毛布などで全身を包んで段階的に温めることを勧めつつ、「急激な復温は状態を悪化させる場合がある」と注意しています。熱いお湯や高温の湯たんぽを直接当てるのではなく、タオルで包んだ湯たんぽや部屋全体の暖房でゆっくり温めるのが基本です。

注意

生後間もない子猫の低体温は、命に直結します。National Kitten Coalitionは、低体温の子猫にはミルクを与えないよう強く注意しています。理由は「低体温は食べたものが腸を適切に通過するのを妨げるため、冷えた子猫に授乳することは危険で、致命的になりうる」から。加温は1〜3時間かけて穏やかな熱で行い、急激に温めないこと、そして意識があって反応していても、加温器具ごと動物病院・救急動物病院へできるだけ早く連れて行くことが推奨されています。

National Kitten Coalitionは、低体温の子猫の徴候として元気消失、皮膚の冷たさ、歯ぐきの蒼白、脱力、筋肉のこわばり、呼吸困難、心拍数低下、瞳孔散大、意識消失を挙げ、「低体温は食物が腸を適切に通過するのを妨げるため、冷えた子猫に授乳することは危険であり、致命的になりうる」と警告しています。加温は1〜3時間かけて中程度の熱で行い、急速な加温は避けるべきとしています。出典:National Kitten Coalition

冬場の寒さ対策そのものについては

も参考になります。

人の解熱薬は絶対に与えない

これは体温の話で、もっとも強く伝えたい一点です。人用の解熱鎮痛薬を猫に与えてはいけません。

VCAは「アセチルサリチル酸(アスピリン)とアセトアミノフェン(タイレノール)は猫にとってきわめて毒性が強く」、獣医師の明確な指示なしに与えてはならない、と明記しています。MSD/Merck Veterinary Manualはさらに具体的で、猫ではアセトアミノフェン40〜50mg/kgの摂取で中毒が起こるとされ、10mg/kgで臨床症状を示した報告もある、としています。猫はグルクロン酸抱合を担う酵素の活性が低く、薬物を無害化する能力が限られているためです。中毒では数時間のうちにメトヘモグロビン血症が起こり、続いて赤血球にハインツ小体が形成され、元気消失、食欲廃絶、脱力、嘔吐、低体温、顔や足のむくみ、チアノーゼ(粘膜が青紫になる)、呼吸困難といった症状が現れます。

危険

人の風邪薬・解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンなど)を、自己判断で猫に与えないでください。猫はこれらを解毒する能力が低く、体重4〜5kgの猫では市販薬1錠でも命に関わることがあります。誤って口にした、あるいは飲ませてしまった可能性がある場合は、様子を見ずにただちに動物病院へ連絡してください。飲ませた薬の名前・量・時刻を伝えられると治療が早く進みます。人用の薬は猫の手の届かない場所に保管し、床に落ちた錠剤は必ず回収しましょう。

MSD/Merck Veterinary Manualは「猫では一般に40〜50mg/kgの摂取でアセトアミノフェン中毒が起こるが、10mg/kgで臨床症状を発現した猫の報告もある」とし、猫はグルクロニル転移酵素の活性が低くグルクロン酸抱合の能力が限られていること、また「猫はアスピリンに対してもきわめて感受性が高い」ことを記載しています。出典:MSD Veterinary Manual

米コーネル大学獣医学部は、アセトアミノフェン中毒で来院した8歳の猫の症例を紹介しています。嘔吐と元気消失で受診し、開口呼吸・低体温・粘膜のチアノーゼが認められ、血液は褐色でメトヘモグロビン値は43.7%(健常対照猫は3.1%)、赤血球の80〜90%にハインツ小体が見られました。N-アセチルシステインの静脈内投与により、治療開始から24時間以内に完全回復しています。出典:Cornell University College of Veterinary Medicine

誤飲・誤食全般の予防は

で詳しく扱っています。

動物病院に行くべき目安

体温の数字と、それ以外の様子を合わせて判断します。以下は「様子見をやめて連絡する」ためのラインです。

受診を検討したいサイン

  • 直腸温が40.0℃(104°F)を超えている、または37.2℃(99°F)を下回っている(VCAの目安)
  • 39.5℃前後の発熱が丸一日以上続いている
  • 熱の有無にかかわらず、食欲がない状態が24時間以上続いている
  • ぐったりして動きたがらない、呼びかけへの反応が鈍い
  • 呼吸が速い・浅い・苦しそう、口を開けて呼吸している
  • 震えている、体がこわばっている、隠れて出てこない
  • 脱水が疑われる(皮膚をつまむと戻りが遅い、歯ぐきが乾いている)
  • 子猫・シニア猫・持病のある猫で、いつもと違う様子がある
  • 人の薬を口にした可能性がある(この場合は最優先で連絡)

注意

40℃を超える体温上昇は、感染症だけでなく熱中症でも起こります。PDSAの熱中症の解説は、体温が40℃/104°Fを超えると熱中症のリスクがあり、重度の脱水、けいれん、血液凝固の異常、臓器障害、昏睡、死に至りうると警告しています。暑い環境にいた後の高体温は緊急事態です。この場合は解熱を待つのではなく、涼しい場所へ移して体を冷やしながら、すぐ動物病院へ連絡してください。

PDSA「Heatstroke in cats」は、猫の正常体温を38.1〜39.2℃(100.5〜102.5°F)としたうえで、「体温が40℃/104°Fを超えると熱中症のリスクがあり、重度の脱水、けいれん、血液凝固の異常、臓器障害、昏睡、死を招きうる」と説明しています(上の表に載せた38〜39℃は、同じPDSAでも発熱の解説ページの値です)。出典:PDSA Pet Health Hub

かかりつけの動物病院を決めておくと、こうした「いま連絡していいのか」を迷わずに済みます。選び方は

にまとめました。

家庭での測定は「診断」ではない

最後に、いちばん大事な前提を確認しておきます。家庭で測った体温は、あくまで受診を判断するための材料であり、診断ではありません。

前述のとおり、平熱の基準範囲そのものが資料によって異なり、緊張だけでも体温は動きます。数字が正常範囲に収まっていても、元気がない・食べない・呼吸が苦しそうなら受診が必要です。逆に、数字が少し高くても、直前まで走り回っていた、キャリーに入れられて緊張していた、という背景があれば、それだけで病気とは言えません。

体温計は、「いつもと違う」を言葉にするための道具です。「なんとなく元気がない」よりも「昨日から食べていなくて、平熱は37.9℃なのに今朝は39.6℃でした」のほうが、獣医師にとってはるかに有用な情報になります。測ること自体が目的にならないよう、猫が嫌がるなら無理をせず、観察と記録で補ってください。

猫の平熱は何度ですか?
資料によって幅があります。日本の獣医師監修記事やアニコム損保の解説では直腸温で38〜39℃前後、VCAは37.7〜39.2℃(体温の測り方の解説)または38.1〜39.2℃(不明熱の解説)としています。一方、室内飼育の健康な成猫200頭を測ったLevyらの研究(2015年)では36.7〜38.9℃、平均37.8℃という、より低く広い範囲が報告されています。絶対値で判断するより、元気なときに測った「その子の平熱」と比べるほうが確実です。
耳式の体温計だけで大丈夫ですか?
動物病院で発熱の有無をストレス少なく確認する用途には向いています。2025年のVeterinary Sciences誌の研究では、直腸温が高かった猫は鼓膜温でもすべて正しく高体温と分類できました。ただし高体温の猫は8頭のみで、著者らはさらなる検証が必要だとしています。逆に正常な猫が発熱と誤判定されるリスクもあり(直腸温が正常だった34頭のうち10頭が鼓膜温では38.9℃超)、同研究は「一致の幅が広く精度も低いため、家庭環境ではこの方法を推奨しない」と明記しています。鼓膜温は直腸温より高めに出る傾向もあります(低体温〜正常域で平均0.4℃高い)。家庭では判定の道具ではなく推移を見る道具として使い、耳温が36.7℃未満と低いときは直腸測定に切り替えてください。低体温が心配な場面では耳の数字を信用しすぎないでください。
人用の体温計を脇に挟んで測ってもいいですか?
数値は直腸温とは別物になります。PECOの獣医師監修記事では、後ろ足の付け根で測ると肛門での検温より0.5〜1℃ほど低く出るとされています。猫は被毛があり密着させにくく、じっとしていてくれる時間も限られるため、値も安定しません。どうしても使うなら「直腸温より低く出る前提で、毎回同じ場所・同じ体勢で測り、推移だけを見る」という使い方にとどめてください。
耳が熱いのですが、熱があるということですか?
それだけでは判断できません。アニコム損保の解説も「耳や肉球が熱いからといって、必ずしも体温自体が上がっているとは限らない」としています。耳や肉球は末端で環境温度の影響を受けやすく、日なたで寝ていた直後や運動した直後は熱く感じます。触った印象は体温計を出すきっかけとして使い、あわせて食欲・元気・呼吸の様子を確認してください。
熱があるとき、家で解熱剤を飲ませてもいいですか?
絶対にやめてください。VCAはアスピリンとアセトアミノフェンが猫にきわめて毒性が強いと明記しています。MSD/Merck Veterinary Manualによれば、猫はアセトアミノフェン40〜50mg/kgで中毒が起こるとされ、10mg/kgで症状が出た報告もあります。猫は解毒に関わる酵素の活性が低いためです。解熱の判断と薬の選択は動物病院に任せてください。誤って口にした場合はすぐに連絡を。
体温を測ろうとするとひどく嫌がります。どうしたらいいですか?
無理はしないでください。暴れているときの直腸測定は、直腸を傷つける事故につながる恐れがあります。ストレスの少ない耳式に切り替える、寝ているときや落ち着いているときを狙う、短時間の保定に日ごろから慣らしておく、といった工夫を試し、それでも難しければ測定は動物病院に任せて受診を早めるほうが安全です。動物病院での測定は緊張で高めに出ることもあるため、その旨を伝えると解釈の助けになります。

まとめ

猫の平熱は、日本の獣医師監修記事やアニコム損保の解説では直腸温で38〜39℃前後、VCAは37.7〜39.2℃、健康な成猫200頭を測ったLevyらの研究では36.7〜38.9℃と、出典によって幅があります。だからこそ、教科書の範囲より「元気なときに測った、その子の平熱」のほうが役に立ちます。測定の基準は直腸温ですが、猫にとって負担の大きい処置でもあり、耳式(鼓膜)体温計はストレスが約半分で済む代わりに直腸温より高めに出やすく、研究では家庭環境での使用は推奨されていません。非接触の赤外線体温計は臨床使用に耐える精度がないと報告されています。耳や肉球の熱さ、鼻の乾きは、気づくきっかけにはなっても測定の代わりにはなりません。発熱では元気消失・食欲低下・呼吸数の増加・脱水・震えが、低体温ではぐったりして体が冷えたままといった様子が現れます。とくに生後間もない子猫の低体温は緊急で、冷えた子猫にミルクを与えることは危険とされています。そして、人の解熱鎮痛薬は猫にとってきわめて危険です。VCAの目安である40.0℃超・37.2℃未満はもちろん、数字が正常でも様子がいつもと違うなら、迷わずかかりつけの動物病院に相談してください。家庭での測定は診断ではなく、受診を判断するための材料です。

出典・参考

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