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猫のQOLを飼い主が測る「FelQoL」|2026年に検証された7つの領域と、わが家版チェックの作り方

対象の目安: 全ライフステージ(シニア期にとくに有用)

ソラ編集長 / 住環境・多頭飼い担当
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猫のQOLを飼い主が測る「FelQoL」|2026年に検証された7つの領域と、わが家版チェックの作り方

「うちの子は幸せだろうか」。猫と暮らしていれば、誰でも一度は考えることです。でも、その問いに答えるのは驚くほど難しい。猫は不調を隠す動物で、病院では本来の姿を見せず、家では「いつもどおり」に見えてしまうからです。2026年、この難問に正面から取り組んだ研究が発表されました。Waltham Petcare Science Instituteとブリストル大学などの共同チームが、米英1324人の飼い主のデータをもとに、猫のQOL(生活の質)を測る飼い主向け質問票「FelQoL」を開発し、統計的に検証したのです。ここでは、FelQoLが何を測っているのかをほどきながら、質問票そのものが手に入らなくても今日から始められる「わが家版QOLチェック」の作り方まで落とし込みます。

なぜ「猫のQOLを測る」のはこんなに難しいのか

犬なら、痛みや不調はわりに分かりやすく出ます。跛行する、鳴く、動かなくなる。ところが猫は違います。International Cat Care(英国を拠点とする猫の福祉団体。獣医向け部門はISFM)は、猫の痛みは伝統的に過小評価されてきたと明言し、猫は犬に比べて痛みを声などで露骨に示しにくいことを挙げています。「猫は犬より痛みを感じにくい」という思い込みは、痛みの経験そのものの違いではなく行動の出方の違いを反映しているにすぎない、というのが同団体の立場です。

International Cat Careは、猫の痛みは従来から過小評価されてきたこと、痛みの評価ツールが獣医療現場で広く使われていないこと、猫の痛みのサインは分かりにくいことを指摘し、「猫は犬より痛みが少ない」という認識は、痛みの経験そのものの違いというより、両種の行動反応の違いを反映している可能性が大きいと述べています。出典:International Cat Care「Cats Deserve Pain Relief Too」

同団体の飼い主向けガイドはさらに踏み込んで、「猫は自分が痛いと言えず、種として不快感を隠すのがとても上手だ」と書いています。そして家庭でいちばん意味のあるサインは、劇的な症状ではなく「いつもの行動の変化」だとしています。人なつこい子が撫でられるのを避ける、家族やほかのペットとの関わりが減る、動く量が減る、食欲が落ちる。派手ではないけれど、確かにその子の日常が変わっている、という類の変化です。

問題は、こうした変化が「気のせい」「年のせい」で流されやすいことです。しかも猫は動物病院では緊張して本来の行動を見せません。診察室で見えるのは「病院にいるときの姿」であって、いつもの姿ではない。だからこそ、家庭での定点観測が必要になります。

ところが、その定点観測を支える道具は、これまで獣医療現場でもほとんど使われてきませんでした。FelQoLのpart 2論文は緒言で、英国の最近の調査を引きながら、獣医師の3分の1はQOL質問票の存在を知っているものの、実際に使っているのは4%未満だと紹介しています。最大の障壁は診察時間が延びること、次いで飼い主側の抵抗感が想定されることでした。

FelQoL part 2の緒言は、ペット向けのQOL質問票が複数存在するにもかかわらず、獣医療現場での一般的なQOL質問票の使用はいまだ限られており、英国の調査では獣医師の3分の1が存在を認知している一方、使用しているのは4%未満であること、主な障壁として診察に追加で必要な時間が挙げられたことを紹介しています。出典:Journal of Feline Medicine and Surgery(2026年)part 2

つまりFelQoLは、「猫のQOLは大事だと誰もが言うのに、それを測る共通の物差しが実務で機能していない」という空白に向けて作られた道具です。

FelQoLはどうやって作られたのか

FelQoLを開発したのは、英国のWaltham Petcare Science Institute(Mars Petcare)を中心に、Royal Canin Global(フランス)、ブリストル大学獣医学部(英国)、Mars Veterinary Health(米国・英国)の研究者が参加したチームです。筆頭著者かつ責任著者(corresponding author)はLuca Albergante氏(Waltham Petcare Science Institute)です。論文はJournal of Feline Medicine and Surgery誌の28巻6号に、2026年6月26日にオンライン公開されました。part 1が「開発と検証」、part 2が「臨床での有用性の初期評価」という2部構成です。

Albergante L、Harding A、King T、Schoeman T、Blackwell E、Spofford N、Einerson N、Davey E、Patterson-Kane J、De Risio L著。所属はWaltham Petcare Science Institute(Mars Petcare)、Royal Canin Global、ブリストル大学獣医学部、Mars Veterinary Health。J Feline Med Surg. 2026 Jun;28(6). オープンアクセス(CC BY-NC)としてPMCで全文が公開されています。出典:PMC13309661

65項目から37項目へ

開発の流れは、質問票研究の定石どおりです。

  1. 1

    長い試作版を作る

    先行研究で使われてきた質問をすべて集め、獣医学と行動学の共著者の助言で追加・削除を行い、65項目の試作質問票を作りました。
  2. 2

    統計で削る

    冗長な項目や情報量の乏しい項目を除き、探索的因子分析にかけて、身体的・情緒的ウェルビーイングのどちらにも明確に結びつかない項目をさらに削除。37項目まで絞り込みました。
  3. 3

    1項目を足して38項目に

    食事の満足の領域をよりよく捉えるために質問を1つ追加し、38項目の質問票としてデータを集めました。
  4. 4

    3つのルートでデータを集める

    米英のMars社員(95頭)、英国のBristol Cat Study参加者(250頭)、Banfield Pet Hospitalの来院者(979頭)の3経路で、合計1324頭分の回答を収集。うち385頭(Bristol Cat Study 187頭、病院 198頭)については2週間後にもう一度回答してもらいました。質問票はTypeformで電子的に配布され、ブリストル大学の保健科学部研究倫理委員会の承認(整理番号12065)を得ています。
  5. 5

    1項目を落として最終版へ

    「外に出たがらない」という項目は、ほかの項目の欠測が2%未満だったのに対し、18%が無回答でした。無回答の猫の多くが庭や猫用ドアを持たない室内飼いだったことから、この項目は室内飼いの家庭では答えようがないと判断されます。分析の結果、この項目を外してもスコアへの影響は小さく、汎用性が上がると判断され、最終版は37項目(FelQoL-Q37)になりました。この削除後、83%の回答に欠測がなくなりました。

メモ

1324頭という数は、猫の質問票研究としてはかなり大きな規模です。しかも、健康な猫だけを集めたのではなく、動物病院の来院者を含めているのがポイントです。part 2によると、飼い主が「何らかの病気と診断されている」と答えた猫は414頭(31%)、「健康」は887頭(67%)、「分からない」が23頭(2%)でした。健康な猫と不調のある猫の両方が入っているからこそ、スコアの差を比べられます。

回答は7段階、所要時間は数分

質問票の中身は、「ある形容詞や行動が、あなたの猫にどれくらい当てはまるか」を1から7の7段階で答えていく形式です。項目は「日中の様子(daytime)」と「食事どきの様子(mealtime)」に分かれ、加えて猫の健康状態・住環境・年齢などの背景質問が付いています。

所要時間は現実的です。part 1によると、50%超の飼い主が背景質問を含む全体を9分未満で完了し、7段階で答える項目だけなら4分未満でした。「診察時間が延びるから使えない」という現場の壁を意識した設計がうかがえます。

part 1は、質問票の中核が38個の項目(最終版は37項目)から成り、飼い主が1から7の尺度で形容詞や行動がどれだけ猫に当てはまるかを評価する形式であること、50%を超える飼い主が背景質問を含む全体を9分未満で、項目のみなら4分未満で完了したことを報告しています。出典:同part 1

7つの領域(ドメイン)に何が入っているか

因子分析の結果、37項目は7つの領域にまとまりました。論文が示している領域名と説明、そして各領域と強く結びついていた項目(因子負荷量の絶対値が0.35を超えるもの)は次のとおりです。項目名の後ろの(D)は日中の質問、(M)は食事どきの質問、マイナス記号は「その項目が高いほど領域スコアが下がる」ことを意味します。

領域論文の説明強く結びついていた項目の例分類
Active(活動)活動性と遊び好きさを測る活動的(D)、周囲に好奇心がある(D)、いつもすることを楽しんでいる(D)、いつもどおり毛づくろいしている(D)、よく関わってくる(D)、ジャンプや上り下りをする(D)、遊び好き(D)、狩りの行動を見せる(D)日中
Talkative(発声)声によるやりとりの強さを測る鳴く(M/D)、ゴロゴロ言う(M/D)、よくしゃべる(M/D)日中
Satisfied(食事の満足)食事まわりの満足度を測る好みがうるさい(M-)、うれしそう(M)、ためらう(D-)、無関心(M-)、食べ物を気に入っている(M)、選り好みする(M-)食事どき
Relaxed(くつろぎ)くつろぎの度合いを測る攻撃的(D-)、落ち着いている(D)、不機嫌(D-)、うれしそう(D)、神経質(D-)、リラックスしている(D)日中
Mobile(動きやすさ)動きやすさを測る食べにくそうにしている(M-)、被毛の状態が落ちている(D-)、動きにくそう(D-)、遊ぶ元気がない(D-)、ふらつく(D-)日中
Appetite(食欲)食べ物への関心を測る食べ物を要求する(M)、おなかを空かせている(M)食事どき
Sociable(社会性)飼い主との社会的交流の度合いを測る隠れている(D-)、無気力(D-)、一日中疲れている(D-)、引きこもっている(D-)日中

この表を眺めると、いくつか腑に落ちることがあります。

ひとつめ。7領域は、身体的ウェルビーイング(ActiveとMobile)、情緒的ウェルビーイング(RelaxedとSociable)、食事の満足(SatisfiedとAppetite)、コミュニケーション(Talkative)の4つに整理できると論文は述べています。「元気か」だけでなく「機嫌はいいか」「ごはんは楽しめているか」「よくしゃべるか」までを別々の軸として扱うわけです。

ふたつめ。Sociable(社会性)の項目が、すべてマイナス方向であることです。「よく甘えてくる」ではなく、「隠れている」「無気力」「一日中疲れている」「引きこもっている」が当てはまらないほどスコアが上がる設計です。猫の社会性は、積極的な甘え行動より「引っ込んでいないこと」で測るほうが安定する、と読めます。体調を崩した猫がまず「隠れる」という、飼い主にはおなじみの変化ともよく符合します。

みっつめ。Mobile(動きやすさ)に「被毛の状態が落ちている」が入っている点です。毛づくろいには体をひねる動きが要るため、関節の痛みや肥満で動きにくくなると被毛が荒れる。臨床でよく語られるこの連関が、統計的にもひとつの因子にまとまった格好です。

注意

領域名は、因子分析が自動でつけたものではなく、研究者が中身を見て後から名づけたものです。part 2はこの点を明示し、たとえばMobileは猫の運動能力を直接測ったものではなく、「動きにくそう」「遊ぶ元気がない」「ふらつく」といった項目から構成される、移動能力に関連した概念にすぎないと注意しています。そのため、ほかの器具や尺度で測った可動性スコアとFelQoLのMobileを直接比べるのは不適切だ、とも述べられています。

スコアはどう出て、どれくらい信頼できるのか

スコアの計算は単純な合計ではありません。まず「攻撃的」「神経質」のようにマイナスの意味を持つ項目は、8から回答値を引く変換(y=8-x)で向きをそろえます。そのうえで、因子分析で得られた領域ごとの重みを各項目にかけて合計し、もとの1〜7の目盛りに戻す形でスコア化します。どの領域も1が最も低く7が最も高いスコアとして読める形です。

信頼性の検証結果は次のとおりです。

  • モデルとデータの整合(Tucker Lewis指数)は0.87
  • 内的整合性(クロンバックのα)は0.88、ωh=0.52、ωt=0.92
  • 2週間後の再検査で、同じ猫の領域スコアの相関は中程度から強い範囲。日中の領域は0.61〜0.76で安定していたのに対し、食事どきの領域は0.48〜0.74とやや変動が大きかった

part 1は、Tucker Lewis指数0.87、クロンバックのα0.88(ωh=0.52、ωt=0.92)という良好な信頼性を報告し、2週間間隔の再検査では日中の領域が0.61〜0.76、食事どきの領域が0.48〜0.74の相関を示したこと、ウェルビーイングに関連する日中の領域のほうが、食事の満足や関心より時間的に安定していることを述べています。出典:同part 1

食事まわりのスコアが揺れやすいのは、フードや量を変えたといった日常の出来事に敏感だからだと論文は説明しています。裏返せば、日中の様子に関わる領域(Active、Relaxed、Mobile、Sociable、Talkative)は2週間ていどでは大きくぶれない指標として使えます。ごはんまわりのスコアが1週間で動いても慌てず、日中の指標がじわじわ下がっているときこそ注意する、という読み方です。

part 2が示した「何がQOLを下げるのか」

part 2は、この物差しを使って、猫のどんな属性・健康状態・環境がスコアと関連するかを調べました。ここが飼い主にとっていちばん実用的です。

加齢の影響は「活動」に最も強く出た

年齢の影響を見るために、研究チームは飼い主が「病気なし」と答えた猫だけを取り出して、ライフステージ間でスコアを比べました(この論文でのライフステージは、成猫1〜6歳、中高齢7〜10歳、高齢11〜14歳、超高齢15歳以上)。

結果は、Active・Mobile・Sociableの3領域で、加齢とともに統計的に有意な低下が見られたというものでした。成猫(1〜6歳)を基準にすると、平均値で次のような差になります。

ライフステージActiveMobileSociable
中高齢(7〜10歳)11%低い2%低い2%低い
高齢(11〜14歳)14%低い5%低い3%低い
超高齢(15歳以上)26%低い17%低い9%低い

part 2は、飼い主が健康と回答した猫に限った解析で、加齢に伴いActive・Mobile・Sociableの各領域が統計的に有意に低下すること、成猫(1〜6歳)と比べて中高齢(7〜10歳)・高齢(11〜14歳)ではActiveが11%・14%、Mobileが2%・5%、Sociableが2%・3%低く、超高齢(15歳以上)ではActiveが26%、Mobileが17%、Sociableが9%低かったことを報告しています。出典:同part 2

注目すべきは、いちばん早く大きく落ちるのがActive(活動)だという点です。7歳を過ぎたあたりから活動量の目減りが始まり、動きやすさや社会性の低下はそのあとから、しかも15歳を超えて急に大きくなる。「よく寝るようになった」が最初のサインになりやすい、という実感とよく合います。シニア期の変化の見取り図は

でも整理しています。

「健康な猫の下限」という基準線

part 2でとくに実用的なのが、飼い主が健康と答えた猫の下位5%にあたるスコアを、ライフステージごとに「下限の目安」として示した表です。ここを下回る猫は、飼い主が健康と考えている猫の大多数の範囲から外れており、健康やウェルビーイングの低下の兆しを見つけるために、より注意深い観察が必要かもしれない、という位置づけです。

ライフステージActiveTalkativeSatisfiedRelaxedMobileAppetiteSociable
成猫(1〜6歳)3.42.04.54.05.32.74.3
中高齢(7〜10歳)3.01.94.14.25.12.94.3
高齢(11〜14歳)3.01.94.04.24.72.74.2
超高齢(15歳以上)2.21.93.84.13.33.13.9

メモ

論文自身が、超高齢で健康と報告された猫は28頭と少なく、この行の代表性はほかの区分より落ちる可能性があると但し書きをしています。また、この表はあくまで「健康と報告された猫の分布の下端」であって、病気の診断基準ではありません。実際、病気があると報告された猫のうち、この下限を割っていたのはMobileとSociableで最大22%程度で、多くの猫は下限より上にいました。スコアが下限を上回っているからといって、病気がないことの証明にはなりません。

病気とスコアの関係

飼い主が報告した病気ごとにスコアを比べると、次のような差が出ました。

  • Active(活動)が有意に低下:歯の問題、消化器の問題、内分泌の問題、腎臓の問題、肥満、変形性関節症
  • Mobile(動きやすさ)が有意に低下:歯の問題、消化器の問題、腎臓の問題、内分泌の問題、肥満、変形性関節症
  • Sociable(社会性)が有意に低下:腎臓の問題
  • Appetite、Talkative、Satisfied、Relaxedは、今回検討した病気との統計的に有意な差は見られなかった

part 2は、飼い主報告の歯・消化器・内分泌・腎臓の問題および肥満・変形性関節症でActive領域が有意に低下(補正後P<0.01)し、歯・消化器・腎臓・内分泌の問題および肥満・変形性関節症でMobile領域が有意に低下(補正後P<0.05)、腎臓の問題でSociable領域が有意に低下(補正後P<0.05)したこと、Appetite・Talkative・Satisfied・Relaxedでは検討した疾患との有意な変化が見られなかったことを報告しています。出典:同part 2

歯の問題が、食欲(Appetite)ではなく活動と動きやすさに効いているのは示唆的です。論文の考察も、口腔の健康の悪さがQOLに与える影響の大きさを飼い主に示す根拠になりうるとしています。口が痛くても食べる猫はいるけれど、その痛みは「動かなくなる」形で表に出ている可能性がある、ということです。口腔ケアの見直しは

も参考にしてください。関節の痛みのサインは

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高い居場所があるとActiveとMobileが高かった

環境要因では、次のような関連が見つかりました。

  • 高い居場所(perch、キャットタワーや棚など見晴らしの利く止まり場)がある猫は、ActiveとMobileが有意に高かった(補正後P<0.01)
  • 庭や猫用ドア(キャットフラップ)がある猫は、ActiveとSatisfiedが有意に低かった(補正後P<0.01)
  • 天候(寒暖など)については、多重比較の補正後に有意差は見られなかった
  • 飼い主自身のQOL(1〜100の自己評価)と猫の領域スコアの相関はきわめて弱く(ρは0.1〜0.18)、飼い主が答えた「猫の全体的なQOL」との相関がやや強かった(ρ=0.38)

庭やキャットフラップがある猫でスコアが低く出たのは意外に思えますが、論文は、外で活動する時間が長い猫は飼い主の前では活動的に見えにくく、外で狩りをしたり近所で食べ物をもらったりして食事への満足が下がって見えるのではないかと説明しています。飼い主が見ている時間そのものが短いため、質問票での評価が室内猫ほど正確でない可能性にも触れられています。完全室内飼いが主流の日本では、この行はあまり当てはまらないと考えるのが妥当でしょう。

ヒント

日本の家庭で真っ先に効きそうなのは、高い居場所の確保です。part 2の結果は観察に基づく関連であり、因果を示すものではありません(飼い主が猫の様子を見て後から止まり場を足した可能性もある、と論文自身が述べています)。それでも、上下運動ができる場所を用意することは、既存の環境エンリッチメントの推奨とも一致します。設置の考え方は

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FelQoLは今すぐ使えるのか

ここが多くの人の関心事だと思います。結論から言うと、2026年9月時点で、誰でもダウンロードして使える公開版は確認できません。part 1論文には「試作版または最終版の質問票へのアクセスを希望する読者は、責任著者に連絡してほしい」と書かれています。また、Mars Petcareのプレスリリースによれば、このツールはMARS PETCARE BIOBANKを通じて猫のウェルビーイングの理解に活用されており、すでに開発されていた犬のウェルビーイング測定ツールと並んで運用されています。

2026年7月1日付のプレスリリースは、Waltham Petcare Science InstituteがMars Veterinary Health、Royal Canin、ブリストル大学と共同でFelQoLを開発・検証したこと、米英1324人の飼い主のデータを用いたこと、Mars Science & DiagnosticsのJanet Patterson-Kane氏が「猫は読み取りにくいという認識はよく知られています。だからこそFelQoLは重要な進展なのです」と述べたことを伝えています。出典:PR Newswire

日本語版の存在も公式には確認できませんでした。したがって現状は、「猫のQOLはこの7つの軸で測れる」という枠組みを知り、その考え方を家庭の観察に取り入れる使い方が現実的です。かかりつけの動物病院で家での様子を伝えるときにも、この7領域は共通言語として役に立ちます。

注意

FelQoLは診断ツールではありません。part 1の結論も、飼い主が家庭でウェルビーイングを把握し、獣医療の評価を補完する情報を集めるための道具だ、という位置づけを取っています。スコアが下がったからといって病名が決まるわけではなく、逆にスコアが良くても病気がないとは言えません。気になる変化があるときは、スコアの計算より先に動物病院に相談してください。

わが家版QOLチェックを作る

ここからは、FelQoLの7領域という枠組みを借りて、家庭で使えるチェックを組み立てます。以下の項目はFelQoLの設問そのものではなく、7領域の考え方に沿ってこの記事で作成した自作のチェックです。スコアの重みづけも公開されていないため、単純な平均で使う簡易版として扱ってください。それでも、毎回同じ質問で同じように記録するだけで、「なんとなくの印象」よりはるかに信頼できる変化の検出ができます。

7領域に対応した観察項目

わが家版QOLチェック(FelQoLの設問ではありません。各項目を1〜7の7段階で。7がいちばん当てはまる)

  • 活動:自分から遊びに誘ってくる、高い所へ上り下りする、窓の外や物音に興味を示す
  • 活動:いつもどおり自分で毛づくろいをしている(舐め残しやフケが増えていない)
  • 発声:いつもと同じくらい鳴く、ゴロゴロ言う(急に増えた・減った場合はどちらも要注意)
  • 食事の満足:出したごはんを迷いなく食べ始め、途中でやめずに食べ終える
  • くつろぎ:体を伸ばして寝ている、触られても嫌がらない、不機嫌そうな時間が少ない
  • 動きやすさ:段差やジャンプをためらわない、着地がふらつかない、食べる姿勢がつらそうでない
  • 食欲:ごはんの時間に自分から来る、量をいつもどおり食べる
  • 社会性:隠れて出てこない時間が長くない、家族のいる部屋で過ごす

注意

このチェックの数字は、上で紹介したFelQoLの「健康な猫の下限」の表と比べないでください。FelQoLのスコアは因子分析で得た領域ごとの重みづけを経た値で、ここでの単純な自己採点とは計算方法が異なります。わが家版で意味があるのは、他人や論文の数字との比較ではなく、同じ猫の過去の記録との比較だけです。

ヒント

7段階が難しければ、3段階(いつもどおり=3/少し違う=2/明らかに違う=1)でも構いません。大事なのは段階の細かさではなく、同じ物差しで繰り返すことです。スマートフォンのメモやカレンダーに数字だけ書く、体重測定のついでに記録する、といった軽さで続けるほうが結果的に長続きします。

運用のしかた

  1. 1

    まず「元気なときの基準値」を取る

    元気そのものの時期に、1週間あけて2回記録します。ここが、その子の平常値になります。FelQoLでも2週間の再検査で安定性を確かめており、日中に関わる領域は短期間では大きくぶれません。
  2. 2

    月1回、決まった日に記録する

    体重測定と同じ日にすると忘れません。体重の記録も併せて残しておくと、受診時の情報量が一気に増えます。体重計の選び方はこの節の後の関連記事で紹介しています。
  3. 3

    変化があった日はメモを添える

    フードを変えた、来客があった、模様替えをした、通院した。スコアが動いたとき、原因の候補が書いてあるかどうかで解釈がまるで違います。
  4. 4

    2か月続けて下がったら受診の相談を

    1回だけの落ち込みは、たまたまその日の機嫌かもしれません。ただし、同じ領域が2回続けて下がっている、あるいは複数の領域が同時に下がっているときは、様子見にせず相談します。
  5. 5

    受診時は「点」ではなく「線」で伝える

    「最近元気がない気がします」より、「6月は活動6・動きやすさ6でしたが、8月は活動4・動きやすさ4に下がっています」のほうが、獣医師が拾える情報がはるかに多くなります。

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14歳の子で、「年だから寝てばかりなんだろう」と思っていました。月1回の記録をつけ始めて3か月目に、活動と動きやすさだけがはっきり下がっているのに気づいて受診したら、歯の状態がかなり悪くなっていました。処置のあとは高い場所にもまた上がるようになって、記録の数字も戻りました。あのまま「年のせい」で片づけていたら、と思うとぞっとします。
飼い主

痛みのサインは別枠で見る

QOLのスコアは、ゆっくりした変化をとらえるのに向いています。一方で、急な痛みは別枠で見たほうが確実です。

痛みの行動サインについては、2016年にリンカーン大学のMerolaとMillsが、19名の専門家によるデルファイ法(4ラウンド、80%の合意を基準)でまとめた合意研究があります。ここでは、25個のサインが「痛みがあることを示すのに十分」と判断されました。跛行、ジャンプの困難、歩き方の異常、動きたがらない、触られたときの反応、隠れる・引きこもる、毛づくろいをしない、遊ばなくなる、食欲の低下、全体的な活動量の低下、人にすり寄らなくなる、機嫌の変化、性格の変化、背中を丸めた姿勢、体重のかけ方が偏る、特定の部位をなめ続ける、頭を低く下げる、目を細める(眼瞼けいれん)、食べ方の変化、明るい場所を避ける、うなる、うめく、目を閉じている、排尿にいきむ、しっぽをぴくぴく振る、の25個です。ただし論文は、どれか1つが必ず出るわけではない(どの単一サインも痛みの必要条件ではない)とも述べています。

Merola IとMills DS(PLOS ONE、2016年、11巻2号e0150040)は、19名の専門家を対象とした4ラウンドの修正デルファイ法(合意基準は80%)により、25個の行動サインが痛みを示すのに十分と判断されたこと、ただしどの単一のサインも痛みの存在に必須ではないことを報告しています。出典:PMC4765852

さらに手軽なのが、表情から急性の痛みを評価するFeline Grimace Scale(FGS)です。モントリオール大学のEvangelistaらが2019年にScientific Reports誌で発表したもので、耳の位置、目のすぼまり(眼窩の緊張)、マズルの緊張、ひげの変化、頭の位置という5つの部位(action unit)を、それぞれ0・1・2の3段階で採点します。臨床では、合計を1.0に換算して0.39を超えると鎮痛が必要と判断する基準値が示されています。

Evangelista MCらは、痛みのある猫35頭と対照20頭の動画から、耳の位置・眼窩の緊張・マズルの緊張・ひげの変化・頭の位置という5つのaction unitを同定し、各0〜2で採点するFeline Grimace Scaleを開発。別の妥当性検証済み評価法との強い相関(rho=0.86)、良好な評価者間信頼性(ICC=0.89)、鎮痛薬投与後のスコア低下を確認し、カットオフ値を1.0満点中0.39超と定めたと報告しています。出典:PMC6911058

心強いのは、FGSが飼い主にも使えると検証されている点です。2021年の研究では、飼い主・獣医師・獣医学生・動物看護師の各5名が100枚の画像を採点したところ、最終スコアの評価者間信頼性はいずれの群も良好(ICCは0.80〜0.88)で、飼い主グループと獣医師グループの一致もきわめて良好でした。International Cat Careの飼い主向けガイドも、無料のFGSアプリは非専門家が使っても信頼できると示されており、家庭での痛み評価に役立ちうると紹介しています。

Evangelista MCとSteagall PV(Scientific Reports、2021年)は、飼い主・獣医師・獣医学生・看護師の各5名がFGSで100枚の画像を採点した結果、最終スコアの評価者間信頼性はいずれの群も良好(飼い主0.80、獣医学生0.88、看護師0.83、獣医師0.86のICC)、飼い主の評価者内信頼性も良好(ICC=0.87)で、獣医師グループとの一致も非常に良好(バイアス<0.1)だったとし、経験の異なる人が使っても猫の急性痛評価に信頼できると結論づけています。出典:PMC7933168

ヒント

FGSは急性の痛み(手術後、けが、急な病気)を対象に開発・検証されたものです。関節炎のような慢性の痛みをそのまま測る道具ではありません。慢性の不調は、この記事で紹介したQOLの定点観測のほうが向いています。急性はFGS、慢性はQOL記録、と役割を分けて考えると混乱しません。

受診を考える目安

注意

次のような様子があるときは、記録の継続より受診を優先してください。食べない・飲まない状態が24時間以上続く/急に隠れて出てこない、触ると怒る、いつもの寝床を使わない/歩き方がおかしい、ジャンプしなくなった、着地でふらつく/背中を丸めてうずくまり、体を伸ばして寝ない/排尿にいきむ、トイレに何度も行くのに出ない(とくにオス猫は緊急性が高いことがあります)/呼吸が速い、開口呼吸をしている/体重が短期間で減っている。QOLのスコアはあくまで日常の変化を拾う道具で、診断は動物病院でしかできません。

家庭の記録が生きるのは、かかりつけの動物病院があってこそです。2021年のAAHA/AAFPのライフステージガイドラインも、猫の年齢によるライフステージを子猫(1歳未満)、若齢成猫(1〜6歳)、中高齢成猫(7〜10歳)、高齢(10歳超)の4つに整理し(年齢によらず生じうる終末期を加えた5区分構成)、段階ごとに行うべき評価と飼い主との話し合いの項目を示しています。年齢に応じて見るべきものが変わるからこそ、家庭の記録と病院の評価をすり合わせる意味があります。病院選びや通院のハードルの下げ方は

で扱っています。

なお、活動や社会性の低下は、痛みや内臓の病気だけでなく、高齢期の認知機能の変化が背景にあることもあります。夜鳴きや徘徊、トイレの失敗が同時に増えているときは

もあわせて確認してください。

FelQoLの質問票は日本語で手に入りますか?
2026年9月時点で、一般に公開された日本語版は確認できていません。part 1論文には、試作版または最終版の質問票へのアクセスを希望する読者は責任著者に連絡してほしい、と記載されています。現状は、7つの領域という枠組みを知って家庭の観察に取り入れる、という使い方が現実的です。この記事の「わが家版QOLチェック」は、FelQoLの設問そのものではなく、7領域の考え方に沿って独自に作成したものです。
スコアが下がったら、病気があるということですか?
そうとは限りません。FelQoLは診断ツールではなく、家庭でのウェルビーイングの変化を拾い、獣医療の評価を補完するための道具です。part 2でも、病気があると報告された猫のうち下限値を割っていたのは領域によって最大22%程度で、多くはそれより上にいました。逆にスコアが良くても病気がないことの証明にはなりません。気になる変化は動物病院に相談してください。
7領域のうち、まずどれを見ればいいですか?
日中に関わる領域、とくにActive(活動)から見るのがおすすめです。part 1の再検査では、日中の領域(相関0.61〜0.76)のほうが食事どきの領域(0.48〜0.74)より時間的に安定していました。またpart 2では、加齢に伴う低下がいちばん大きく早く出たのもActiveでした。食事まわりのスコアはフードの変更などで動きやすいので、1回の変動で慌てないことも大切です。
うちは完全室内飼いですが、庭やキャットフラップの結果は関係ありますか?
ほとんど関係しません。むしろ、その結果は「外に出る猫は飼い主が見ている時間が短く、質問票での評価が正確になりにくい」という解釈が論文で示されています。完全室内飼いの家庭では、高い居場所(止まり場)がある猫でActiveとMobileが有意に高かった、という結果のほうが参考になります。
猫が痛がっているかどうか、家庭で判定できますか?
急性の痛みについては、Feline Grimace Scaleという表情の評価法が飼い主でも信頼して使えると検証されており、無料のアプリも公開されています。ただし、それは「痛みがありそうかを見立てる」ための道具であって、原因を特定するものではありません。痛みが疑われるときの判断と鎮痛薬の選択は動物病院の役割です。市販の人用鎮痛薬は猫に重い中毒を起こすため、絶対に与えないでください。
論文は無料で読めますか?
読めます。part 1(PMC13309661)とpart 2(PMC13309670)はいずれもCC BY-NCのオープンアクセス論文として、PubMed Centralで全文が公開されています。図表や補足資料も確認できます。

まとめ

猫のQOLは、これまで「なんとなく元気そう」という感覚でしか語れませんでした。2026年にJournal of Feline Medicine and Surgery誌に発表されたFelQoLは、米英1324人の飼い主のデータから、Active・Talkative・Satisfied・Relaxed・Mobile・Appetite・Sociableという7つの領域を統計的に取り出し、37項目・数分で答えられる質問票としてまとめた道具です。part 2では、加齢がとくにActiveを大きく押し下げること、歯や腎臓の問題、肥満がActiveとMobileの低下と関連すること、高い居場所がある猫でActiveとMobileが高かったことなどが示されました。

一方で、これは1つの質問票の開発と初期評価の報告であり、因果関係を示すものでも、病気を診断するものでもありません。質問票そのものも、今のところ一般公開されているわけではありません。それでも、この研究から持ち帰れるいちばん大きなものは、道具ではなく発想のほうです。猫のQOLは7つの別々の軸として見ることができ、その変化は、同じ物差しで定期的に記録してはじめて見えてきます。

月に一度、体重を測るついでに、活動・くつろぎ・動きやすさ・食欲・社会性を数字で書き留める。それだけで、「年のせい」で流していた変化が線として浮かび上がってきます。猫は不調を隠す動物ですが、積み重ねた記録までは隠せません。気になる変化が続くときは、その記録を持って、かかりつけの動物病院に相談してください。

出典・参考

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