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猫は男性の飼い主により多く鳴く?帰宅時の「あいさつ鳴き」を100秒観察した研究の読み方

対象の目安: 成猫中心(生後8か月以上)

ハルしつけ・問題行動担当
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猫は男性の飼い主により多く鳴く?帰宅時の「あいさつ鳴き」を100秒観察した研究の読み方

玄関のドアを開けた瞬間、しっぽを立てて「ニャー」と出迎えてくれる。あの数十秒は、猫と暮らす人にとって一日のごほうびのような時間です。この帰宅直後のやりとりをボディカメラで撮り、一頭ずつ数えた研究が発表され、「猫は男性の飼い主により多く鳴いていた」という結果が話題になりました。ただ、数字だけが独り歩きしやすいテーマでもあります。何をどこまで示した研究なのかを、原論文と報道の両方をたどりながら整理します。

ボディカメラで撮った「帰宅直後の100秒」を数えた研究

この研究を行ったのは、トルコのアンカラ大学獣医学部生理学教室のYasemin Salgırlı Demirbaş氏を筆頭に、ビルケント大学心理学教室のKaan Kerman氏らが加わったチームです。論文は動物行動学の専門誌Ethologyに掲載され、2025年6月30日投稿・10月24日受理、雑誌としては2026年の132巻2号(87〜94ページ)に収録されています。オープンアクセスなので誰でも全文を読めます。

方法はシンプルですが、家庭のリアルな場面をとらえている点が特徴です。飼い主自身のスマートフォン(用意できる場合はGoPro Hero 7)を胸に装着してもらい、仕事や学校から帰宅した直後の5分間を、ドアを開ける前から撮影してもらいました。データ収集は2022年から2024年。当初40名の参加者のうち、飼い主が猫の行動を制限してしまった、撮影アングルの都合で観察できなかったなどの理由で9名が除外され、最終的に31組が解析対象になりました。飼い主は女性18名・男性13名、猫はオス18頭・メス13頭、雑種24頭・純血種7頭、単頭飼い24世帯・多頭飼い7世帯で、猫の年齢の中央値は66か月(約5歳半)です。

Salgırlı Demirbaş Y.ら「Greeting Vocalizations in Domestic Cats Are More Frequent With Male Caregivers」Ethology 132巻2号87-94ページ(2026年)。動画の長さがまちまちだったため最も短い動画に合わせて全例の最初の100秒に観察窓をそろえ、行動記録ソフトBORISで22の指標を、15年以上の経験をもつ観察者1名が一貫してコーディングしたと記載されています。出典:ビルケント大学学術リポジトリ(出版社版PDF・CC-BY オープンアクセス)

22の行動指標には、しっぽを垂直に立てている時間、飼い主への接近やすり寄り、あお向けに転がる、伸び、あくび、体をブルブルさせる、自分の体をかく・なめる、フードボウルに寄る、抱き上げられる、そして発声が含まれます。ひとつ注意したいのは、論文の定義では「発声」が「ニャー」だけでなく、トリル(コロコロ)、チャープ、うなり、シャー、さらに長いゴロゴロまで含む幅広いカテゴリーとして数えられていることです。

結果:差が出たのは「飼い主の性別×鳴いた回数」だけ

解析の結果、猫の性別、年齢、血統(純血種か雑種か)、世帯の猫の頭数といった要因は、あいさつ行動の頻度にも持続時間にもはっきりした影響を与えていませんでした。統計的に意味のある関連が見つかったのは、飼い主の性別と発声の回数という組み合わせだけです。

数字は二段構えで押さえておくと正確です。まずノンパラメトリック検定では「男性の飼い主に対して発声の頻度がわずかに高い」という水準(多重比較の補正後でぎりぎり)でした。そのうえで猫の性別・血統・頭数をモデルに入れて調整した回帰分析では、男性の飼い主のほうが100秒あたり約2.4回多いという推定値が得られ、こちらははっきり有意でした。猫の年齢を加えたモデル(26頭)でも推定値はほぼ変わりません。

飼い主の性別を主要な説明変数とした線形モデルで、猫の性別・血統・世帯の猫の頭数を考慮しても男性の飼い主に対する発声頻度が有意に高かったと報告されています(表3の値で推定値2.44、95%信頼区間0.68〜4.19、t=2.72、p=0.01。なお本文中では同じモデルが推定値2.39、95%信頼区間0.60〜4.18、t=2.75、p=0.011と記載されており、表と本文で数値が一致していません)。年齢を含めたモデル(26頭)でも推定値2.39、95%信頼区間0.27〜4.52、p=0.04でした。出典:ビルケント大学学術リポジトリ(出版社版PDF・CC-BY オープンアクセス)

一方、報道でよく紹介されているのは「男性には100秒あたり平均4.3回、女性には1.8回」という数字です。これは論文の表には載っていない記述的な平均値として報じられているもので、上の回帰の推定値(差にして約2.4回)とは別の切り口にあたります。向きは同じですが、出どころが違うことは知っておくとよいでしょう。

「On average, cats produced 4.3 meows in the first 100 seconds of greeting men compared to just 1.8 with women.」(平均すると、猫は男性を出迎える最初の100秒で4.3回鳴いたのに対し、女性ではわずか1.8回だった)と報じられています。日本語の報道でも「鳴いたりゴロゴロ喉を鳴らしたりする回数」として同じ数字が紹介されています。出典:Phys.org(2025年12月2日)、ニューズウィーク日本版(2025年12月9日)

メモ

対象は生後8か月以上、かつその飼い主と半年以上暮らしている猫でした。子猫を迎えたばかりの家庭や、まだ関係づくりの途中という状況には、そのまま当てはめられません。

「男性は猫に嫌われている」という話ではない

ここがいちばん誤解されやすいところです。研究チームの解釈は「男性は猫に好かれない」ではなく、むしろ逆に近い読み方をしています。論文の考察では先行研究をふまえ、女性の飼い主のほうが一般に猫へ言葉をかける頻度が高く、鳴き声を読み取るのも得意で、猫の声をまねて返すことも多いと整理されています。そのため、女性が相手なら小さなサインでも気づいてもらえるのに対し、男性が相手だともう少しはっきり声を出さないと反応が返ってこない、という関係を猫が学習しているのではないか。つまり、猫の側が相手に合わせて発信の強さを調整している可能性がある、という読み方です。

研究者のコメントとして「男性の飼い主は女性に比べて言葉によるやりとりが少ないかもしれない。この違いが、猫が男性から反応を引き出すためにより積極的に声のシグナルを使うことにつながっている可能性がある」という趣旨の説明が紹介されています。出典:Phys.org

そもそも「ニャー」は猫同士のあいだではほとんど使われません。国際的な猫の福祉団体International Cat Careも、ニャーは多くの場合人に向けられていて成猫同士ではめったに聞かれず、人が応えることで鳴き方が形づくられていく、と説明しています。だとすれば、よく鳴かれる家族は「声で呼べば動いてくれる相手」と猫に認識されている、とも受け取れます。

ニャーはほとんどの場面で他の猫ではなく人に向けられており、成猫同士のやりとりではめったに聞かれないこと、人に向けたニャーが多いのは人がその声を強化(反応)しているためと考えられることが説明されています。しっぽを立てる姿勢が友好的な意図のサインであることも同ページに記載があります。出典:International Cat Care「Cat communication」

この研究の限界

著者らは自分たちの研究を「パイロット研究」と位置づけ、限界をはっきり書いています。31頭では一般化に十分でないこと、参加者が全員トルコ在住で地域の文化やジェンダー役割が影響している可能性があること、留守の正確な長さや猫の空腹度をそろえられなかったこと、同居する他の家族の属性を考慮できなかったこと。文化差の解釈も「推測の域を出ず、今後の研究が必要」と明記されています。海外の報道でも、猫に普遍的な行動とは限らないという但し書きが添えられています。

注意

この結果を、家庭内で誰が猫に好かれている・好かれていないという話に結びつけるのは適切ではありません。研究が測ったのは100秒間の発声回数であり、愛着の強さや関係の良し悪しを測ったものではありません。

鳴き声だけじゃない、あいさつのサインを読む

同じ研究では22の指標がどう関係し合っているかも調べられていて、ここが日々の観察にいちばん役立ちます。浮かび上がったのは2つのまとまりでした。1つ目は親和的な社会行動のグループで、しっぽを垂直に立てている時間、飼い主への接近、すり寄りが互いに中〜強い正の相関を示しました。逆に飼い主から離れていく行動は、すり寄りと負の相関でした。2つ目は転位行動(自分に向かう行動)のグループで、あくび、体をブルブルさせる、自分の体をかく、自分をなめるが互いに関連していました。転位行動は、高ぶりをいったん別の行動に逃がして自分を落ち着かせる働きがあると考えられています。

興味深いことに、発声は他のどの指標とも相関しませんでした。著者らは、これは特定の感情ひとつから出てくる行動ではなく、社会的なやりとり全般を求める気持ちの表れなのかもしれない、と考察しています。フードボウルに寄る・食べるといった行動も社会行動のまとまりとは独立していました。つまり「帰宅時に鳴くのは単にごはんが欲しいだけ」とは言い切れないということです。

しっぽを垂直に立てる姿勢は、他の猫や動物、人に近づくときの友好的な意図のサインとされます。このとき耳はふつう前を向いて立ち、ひげはリラックスした状態です。頬や口まわりをこすりつけるすり寄り(アロラビング)、鼻をちょんと合わせるあいさつ、ゴロゴロやトリルといった口を閉じたまま出す音も、あいさつの文脈で使われます。

ヒント

帰宅時の動きを順番で見てみてください。しっぽがすっと立つ -> 近づいてくる -> 足やすねに頬をこすりつける -> ゴロゴロが始まる、という流れがそろっていれば、かなり分かりやすい歓迎のサインです。逆に、あくびや体ブルブル、その場での毛づくろいが目立つときは、うれしさと同時に少し気持ちが高ぶっているのかもしれません。

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なお「今日は特によく鳴くな」と感じる日は、留守の長さが関係しているかもしれません。2017年にスウェーデンのグループがPLoS ONEに発表した研究では、14頭の飼い猫に30分と4時間の留守を経験してもらい再会時の行動を比較したところ、4時間離れていたあとのほうがゴロゴロと体の伸びが増えました。同時に、飼い主の側も長く留守にしたあとほど猫に話しかける回数が増えていました。あいさつは片方向ではなく、人と猫が互いに影響し合うやりとりだということです。

Eriksson M.ら「Cats and owners interact more with each other after a longer duration of separation」PLoS ONE 12巻10号(2017年)。4時間の分離のあとは30分のときより猫のゴロゴロと体の伸びが増え、飼い主も猫に言葉をかける回数が増えた一方、体をこすりつける身体接触自体は増えなかったと報告されています。出典:PubMed Central

帰宅時、飼い主ができる応え方

研究を暮らしに落とすなら、ポイントは「猫の発信に、猫が分かる形で返す」ことに尽きます。難しいことは必要ありません。

帰宅直後の30秒でできること

  • ドアを開けたら、まず名前を呼んで声で応える。声のやりとりは猫が届けたシグナルへの一番わかりやすい返事になる
  • しっぽが立って近づいてきたら、しゃがんで目線を下げ、猫が体をこすりつけられる高さをつくる
  • いきなり抱き上げず、猫からのすり寄りや頭突きを待つ。触るなら猫が寄せてきた部位から
  • あくび・体ブルブル・その場での毛づくろいが続くときは、興奮が高いサインかもしれないので少し距離を保つ
  • 鳴いたらすぐ食事、を毎回セットにしない。声への応答と食事の時間はゆるやかに切り離しておく
  • 荷物を置く・手を洗うなどで待たせるときも、「いま行くよ」と声だけは返しておく
うちは夫が帰ってきたときのほうが、明らかにおしゃべりになります。私だと「ニャッ」と一声でおしまいなのに、夫には玄関からリビングまでずっと鳴きながらついていく。この研究を読んでからは、夫のほうが猫の小さいサインに気づきにくいぶん、猫が声を大きくしてくれているのかもしれないと思うようになりました。夫に「まず名前を呼んであげて」と伝えたら、以前より短いやりとりで満足して離れていく気がします。

鳴き声そのものをもっと読み解きたいという方は、AI翻訳アプリでどこまで分かるのかを検証した記事もあわせてどうぞ。

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鳴き方が「急に」変わったときに考えたいこと

ここまでは元気な猫のあいさつの話ですが、鳴き方の変化が体調のサインになることもあります。注意したいのは量の多い・少ないよりも「急な変化」です。静かだった猫が急に鳴くようになった、夜中に大きな声で鳴くようになった、逆にいつも出迎えていた猫が出てこなくなった、といった変化には理由があるかもしれません。ふだんの帰宅時の様子を知っているからこそ、早く気づけます。

10歳以上の高齢猫では、認知機能の低下(認知機能不全)にともなって夜中にきっかけなく大きな声で鳴くエピソードが見られることがあります。ただしCornell Feline Health Centerは、こうしたサインを認知機能不全と決めつける前に、甲状腺機能亢進症や腎臓病といった原因になりうる病気を除外することが重要だと解説しています。加えて、関節炎や高血圧なども高齢猫で似たサインを起こしうる病気として挙げられています。

10歳以上の猫のサインとして、空間的な見当識障害、遊びへの関心の低下、睡眠と覚醒のサイクルの乱れ、しばしば真夜中に起こるきっかけのないような大きな鳴き声のエピソードなどが挙げられ、甲状腺機能亢進症や腎臓病といった原因になりうる病気を除外したうえで治療を検討するとされています。また、関節炎の痛みや、夜間の鳴き声が比較的よく見られる甲状腺機能亢進症・高血圧の猫など、高齢猫の病気が似たサインを起こしうることも別途説明されています。出典:Cornell Feline Health Center

甲状腺機能亢進症は中年齢以降の猫に多く、体重減少、食欲の増加、飲水量と尿量の増加、嘔吐、下痢、活動性の亢進などが挙げられています。出典:Cornell Feline Health Center

注意

鳴き方の変化に、体重の減少、食欲や飲水量の変化、トイレの回数の変化、隠れる時間が増えるといった様子が重なるときは、様子を見続けずに動物病院に相談してください。ここに書いた内容は診断や治療の代わりにはなりません。

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よくある質問

男性の飼い主に多く鳴くのは、猫が男性を苦手だからですか?
研究チームはそうは解釈していません。むしろ、女性の飼い主のほうが猫に声をかける頻度が高く鳴き声を読み取るのも得意なため、男性が相手だともう少しはっきり声を出さないと反応が返ってこない、という関係を猫が学習している可能性が考えられています。ただしこの解釈自体、著者が推測の域を出ないと明記しているものです。
うちの猫は帰宅時にほとんど鳴きません。関係が良くないのでしょうか?
鳴く回数はあいさつの一部にすぎません。同じ研究では、発声は他の行動指標のどれとも相関していませんでした。しっぽを垂直に立てる、近づいてくる、体をこすりつけるという行動がそろっていれば、声が少なくても十分な歓迎のサインです。個体差もあるので、その子のふだんを基準に見てあげてください。
この研究は日本の家庭にもそのまま当てはまりますか?
そのまま当てはめるのは難しいと考えられます。参加者は全員トルコ在住で31頭のみのパイロット研究であり、著者自身も地域の文化やジェンダー役割が影響している可能性を指摘して、異なる文化圏でのより大規模な追試が必要だと述べています。
帰宅時に鳴かれたら、すぐごはんをあげたほうがいいですか?
毎回「鳴く=すぐ食事」というパターンにすると要求鳴きが強まりやすくなります。まずは声で応え、目線を下げてあいさつを受け止め、食事のタイミングはそれとゆるやかに切り離しておくのがおすすめです。同研究でも、フードボウルに寄る行動は社会的な行動のまとまりとは独立していました。

まとめ

飼い猫31頭の帰宅直後100秒を解析した今回の研究では、猫の性別や年齢、血統、頭数では差が出ず、飼い主の性別と発声回数の組み合わせだけに有意な関連が見られました。回帰分析では男性の飼い主で100秒あたり約2.4回多いという推定値が示され、報道では平均4.3回対1.8回という数字も紹介されています。ただしトルコ1か国・31頭のパイロット研究であり、著者自身が一般化の限界を明記しています。

ここから読み取れるのは「男性は猫に好かれない」ではなく、猫が相手ごとに発信の仕方を変えている可能性がある、ということです。そして日々の観察でより頼りになるのは、しっぽを垂直に立てる・近づく・すり寄るという親和的なサインのまとまりでした。今日の帰り道、玄関を開けたらまず名前を呼んで、しっぽの角度を見てあげてください。声の数より、その一連の流れのほうが多くを教えてくれるはずです。

出典・参考

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