猫も薬剤耐性菌を持っている?|2026年発表、犬猫712株のクレブシエラ・ニューモニエ解析の読み方と家庭でできること
対象の目安: 全ライフステージ

「犬や猫の多くが、人と同じ薬剤耐性菌を持っている」。2026年9月、そんな見出しの海外ニュースを目にして、ひざの上の猫を見つめてしまった人もいるかもしれません。もとになったのは、英国のBournemouth Universityの研究者らが学術誌Transboundary and Emerging Diseasesに発表した論文です。ただ、ニュースの数字は論文の中で定義や母数が決まっているもので、見出しだけで受け取ると実際より怖く感じてしまいます。研究者自身も「ペットが人を病気にしているという意味ではない」と話しています。この記事では、住環境担当の視点から、論文本文で確認できた数字の意味と限界、日本での調査、そして家庭で無理なく続けられる衛生習慣を整理します。猫の体調の判断や治療は、必ずかかりつけの動物病院で相談してください。
そもそも薬剤耐性菌とクレブシエラとは
薬剤耐性菌は、細菌感染症の治療に使う抗菌薬が効きにくくなった菌のことです。厚生労働省の動物由来感染症ハンドブック2025では、抗菌薬を飲むと病原菌が退治される一方で、その薬に耐性を持つ菌だけが生き残ることがあり、耐性菌が増えるとこれまで効いていた抗菌薬が効きにくくなって治療に影響することがある、と説明されています。そして、人でもペットでも抗菌薬を飲むことで耐性菌が増える可能性がある、とも書かれています。
今回の研究で扱ったクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)は、人でも動物でも感染症の原因になることがある細菌です。論文では、人ではこの菌が腸に保菌されている状態が感染の前段階として認識されつつあり、犬や猫でも似たパターンが報告されていると述べられています。日本の農林水産省の調査でも、病気の犬や猫の尿や生殖器から分離される菌として、クレブシエラ属菌が調査対象に入っています。
2026年の研究は何を調べたのか
論文のタイトルは「Companion Animals Harbour Globally Circulating Human-Associated Klebsiella pneumoniae Lineages and High-Risk Antimicrobial Resistance Clones」です。著者はBournemouth Universityの生命・環境科学部門のStephen Fordham氏らで、英国の病院の微生物部門やImperial College Londonの所属者も加わっています。PMCの書誌情報では、2026年8月28日に公開されています。大学の発表をもとにした報道は、2026年9月11日にPhys.orgへ掲載されました。
研究の特徴は、新たに犬猫から菌を採ったのではなく、欧州や米国の公開データベース(ENA、NCBI)に2026年5月27日までに登録されていたゲノムを集めて解析した点です。
| 項目 | 論文での内容 |
|---|---|
| 犬猫由来の株 | 712株(犬567株、猫145株) |
| 国の情報 | 706株で国の情報があり、25か国 |
| 比較した人由来の株 | 2019年以降の38,106株(88の国・地域) |
| 多剤耐性の定義 | 3系統以上の抗菌薬に対する耐性遺伝子を持つこと(遺伝子からの判定) |
報道の数字は、論文ではこう書かれている
ニュースで見かけた数字を、論文本文の定義と母数に置き換えて整理します。
| 報道での表現 | 論文本文での内容 |
|---|---|
| 動物由来の87%が人でも見られる株 | 犬猫由来株の87.2%が、人でも検出されている配列型(ST)に属していた(型の種類で数えると71.1%) |
| 猫由来の検体の80%が多剤耐性 | 猫由来145株のうち116株(80.0%)が、3系統以上の耐性遺伝子を保有 |
| 犬由来の検体の56%が多剤耐性 | 犬由来567株のうち319株(56.3%)が、3系統以上の耐性遺伝子を保有 |
| 動物由来の検体の約半数が、臨床的に重要な抗菌薬への耐性遺伝子を持つ | 国の情報がある706株のうち345株(48.9%)が、ESBL遺伝子またはカルバペネマーゼ遺伝子を保有 |
最後の行について、報道の「約半数」が論文のどの数値を指すかは報道に明記されていません。報道は「臨床的に重要な抗菌薬(clinically important antibiotics)への耐性遺伝子」と限定しており、論文でもESBL遺伝子またはカルバペネマーゼ遺伝子を持つ48.9%の株について、重要度の高いβ-ラクタム系抗菌薬への耐性遺伝子が広がっていると述べています。この対応から、本記事では報道の「約半数」を論文の48.9%にあたると考えていますが、これは推測です。ESBL遺伝子は第3世代セファロスポリン系などの抗菌薬を分解する酵素の遺伝子、カルバペネマーゼ遺伝子は人の医療で重要なカルバペネム系抗菌薬を分解する酵素の遺伝子です。論文ではESBL遺伝子が706株中303株(42.9%)、カルバペネマーゼ遺伝子が98株(13.9%)で見つかり、どちらも猫由来株のほうが犬由来株より多かった(ESBL遺伝子は猫58.6%、犬39.2%。カルバペネマーゼ遺伝子は猫26.2%、犬10.8%)と報告されています。
また、人の医療で流行が問題になっている「ハイリスククローン」と呼ばれる型(ST11、ST147、ST307など)に属する株は、犬猫由来で712株中262株(36.8%)、人由来で38,106株中15,061株(39.5%)でした。なかでもST147は猫で目立ち、猫由来株の16.6%(24株)を占めていました。
この研究から言えること、言えないこと
数字だけを見ると不安になりますが、論文自身が多くの限界を書いています。飼い主として押さえておきたい点をまとめます。
「同じ型」は「うつった」証拠ではない
87.2%という数字は、犬猫の株が人でも見つかっている配列型(ST)に属していた割合です。論文では、同じ型であることは近縁さを大まかに示す指標にすぎず、直接の感染や疫学的なつながり、感染の向きは証明できないと明記されています。猫で目立ったST147については、より細かい遺伝子の比較で人の株ときわめて近いものも見つかっていますが、それでも「動物と人のあいだで直接うつったのか、調べられていない別の場所からそれぞれ獲得したのかは区別できない」とされています。
さらに論文は、カルバペネム系抗菌薬は一般に動物用として承認されておらず、獣医療で日常的には使われていないため、犬猫がカルバペネマーゼ遺伝子を持つのは、人や環境、医療に関連した場所から耐性菌や遺伝子を獲得したことを反映している可能性がある、と考察しています。つまり、ペットが耐性菌の出どころだと示した研究ではありません。
猫の80%は「世の中の猫の80%」ではない
解析した株は、公開データベースに登録されていたものです。論文では、公開データには地域や解析体制、集団感染の調査、耐性株が優先して登録されやすいといった偏りがあること、特に猫由来の株はもともと数が少なく、臨床的に重要なものや珍しいもの、耐性のものが優先して解析されている可能性があることが限界として挙げられています。個々の動物の治療歴や入院歴のデータも使えていません。
そのため、猫で80.0%という数字は「データベースに登録された猫由来の株のうちの割合」であり、家庭で暮らす健康な猫のうち80%が多剤耐性菌を持っている、という意味にはなりません。なお、論文では、データベースの採取部位などの記載(便、直腸、スクリーニングなど)から保菌・スクリーニング由来と分類した株でも、多剤耐性が見られました(132株中82株、62.1%。尿や血液、傷などの感染症由来は368株中193株、52.4%)。ただし、この差は統計的に有意ではありませんでした。また、この分類は記載の語句によるもので、採取された動物が健康だったかどうかはわかりません。感染症の検体に限った現象ではない、という程度に受け止めておくのがよさそうです。
研究者のメッセージ
報道の中でFordham氏は、この研究はペットが私たちを病気にしていると伝えるものではないが、動物と人のあいだで非常に近い菌株が見つかることを示している、と述べています。あわせて、飼い主が心配する必要はなく、薬剤耐性を理解し対策する取り組みにペットも含めることの重要性を示している、とも話しています。論文の結論も、犬猫を薬剤耐性の全体像から切り離して考えるのではなく、人と動物と環境をまとめて見る「ワンヘルス」の遺伝子監視に含めるべきだ、というものです。
メモ
日本ではどう調べられているのか
日本では、農林水産省の動物医薬品検査所が、1999年から動物由来薬剤耐性菌モニタリング(JVARM)を実施しています。もともとは主に牛・豚・鶏などの家畜が対象でしたが、2016年(平成28年)の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を受けて、2017年度(平成29年度)から病気の犬と猫を対象にした全国調査が始まりました。動物医薬品検査所の「動物由来薬剤耐性菌の割合」のページには、過去の報告書として、病気の愛玩動物は2017〜2020年度分(大腸菌、クレブシエラ属菌など)、健康な愛玩動物は2018〜2020年度分(大腸菌、腸球菌属菌)が掲載されています。菌種ごとの耐性率をまとめたExcelも公開されており、病気の犬猫の尿・生殖器由来クレブシエラ属菌は2024年までの値が載っています。一方、健康な犬猫の結果は大腸菌と腸球菌属菌だけで、健康な猫のクレブシエラ属菌の耐性率はこのページからはわかりません。
初回となった2017年度(平成29年度)の調査結果は、日本獣医師会のAMR対策検討委員会報告に農林水産省の資料として収録されています。臨床検査機関に保管されていた病気の犬猫由来の株を、地域の偏りに配慮して集めたもので、クレブシエラ属菌の結果は次のとおりでした。
| 抗菌薬(系統) | 犬由来(72株) | 猫由来(26株) |
|---|---|---|
| セフォタキシム(第3世代セファロスポリン系) | 41.7% | 80.8% |
| シプロフロキサシン(フルオロキノロン系) | 44.4% | 84.6% |
| メロペネム(カルバペネム系) | 0.0% | 0.0% |
この資料でも、多くの薬剤で犬由来株より猫由来株のほうが耐性率が高かったとされています。一方で、猫由来株は26株と少ない点にも注意が必要です(本記事の補足)。また資料では、病気の動物由来の細菌の調査は、抗菌薬による治療や病気の発生状況の影響を受ける可能性があることに留意する必要がある、としています。英国の研究とは調べ方も対象も違うため、数字を直接比べることはできませんが、「病気の猫から分離される菌では、重要な抗菌薬が効きにくいものが一定の割合で見られる」という点は、日本の調査でも読み取れます。
JVARMが1999年から実施されていること、抗菌剤の使用量の調査・健康な動物由来の耐性菌の調査・病気の動物由来の耐性菌の調査で構成されることについて。農林水産省 動物医薬品検査所より。
家庭でできること
厚生労働省の動物由来感染症ハンドブック2025では、薬剤耐性菌をペットから人、人からペットへと広げないために特別な対応が必要なわけではなく、ほかの動物由来感染症対策と同じように日常生活のルールを守ることが大切だとされています。わが家でも取り入れやすいものに絞って紹介します。
- 1
処方された抗菌薬は、獣医師の指示どおりに使い切る
同ハンドブックでは、動物病院で処方された抗菌薬は獣医師の指示に従って最後まできちんと飲ませ切ること、途中でやめたり指示された量を守らなかったりする不適切な使用は、ペットに耐性菌を増やすことにつながると書かれています。元気になったように見えても自己判断でやめず、飲ませにくい、吐いてしまったといった場合は、そのままにせず動物病院に相談しましょう。薬を飲ませる道具や工夫はでまとめています。あわせて読みたい
猫の投薬グッズの選び方比較|ピルガン・投薬用おやつ・シリンジをタイプ別に
- 2
残った薬を別の機会や別の猫に使い回さない
以前の残りの抗菌薬を、似た症状だからと自己判断で与えるのは避けましょう。症状の原因が細菌とは限らず、薬の種類や量も猫ごと、病気ごとに違います。これはハンドブックの「指示された量を守らない不適切な使用」を避けるという考え方にもとづく本記事の整理です。手元に薬が残ってしまったときの扱いは、処方した動物病院に確認してください。 - 3
トイレ掃除や世話のあとは、流水と石けんで手を洗う
同ハンドブックでは、ペットを触ったあとや排泄物を処理したあとに必ず手を洗うこと、糞尿は速やかに処理すること、動物の身の回りを清潔にすることが挙げられています。わが家では、トイレ掃除の道具を洗面所の近くにまとめ、終わったらそのまま手洗いへ向かう動線にしておくと習慣にしやすくなります。 - 4
口移しや食器・スプーンの共有をしない
同ハンドブックでは、動物の口の中には細菌やウイルスなどがいることがあるため、口移しでエサを与えたり、スプーンや箸を共用したりするのはやめましょうと書かれています。人の食器で猫に水やおやつをあげる習慣があれば、猫専用の器を用意しておきましょう。 - 5
生肉を与えない
同ハンドブックでは、生肉や加熱不十分な肉には有害な寄生虫や食中毒菌、薬剤耐性菌が存在する可能性があるため、肉を与えるときは十分に加熱するよう呼びかけています。
農林水産省の「愛玩動物(ペット)に使用する抗菌性物質について」のページでは、獣医師向けの手引きに加えて、飼い主向けのポスターや「お薬はきちんと飲ませましょう!」「薬剤耐性菌を増やさない、うつさないためには?」という動画も公開されています。家族で共有するときの材料として使えます。
注意
動物病院に相談したいサイン
- 抗菌薬を飲ませているのに、症状がよくならない、ぶり返す
- 薬を吐いてしまう、うまく飲ませられず指示どおりに続けられない
- トイレに何度も行く、尿に血が混じる、おしっこが出にくい
- 傷や皮膚の化膿がなかなか治らない
- 咳や鼻水、発熱、元気や食欲の低下が続く
尿路の不調は薬剤耐性とは別に急ぎの受診が必要な場合があります。トイレで何度もいきむのにおしっこが出ない様子は様子見をせず、 あわせて読みたい 猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは|特発性膀胱炎・尿路結石のサインと家庭でできる予防 あわせて読みたい 猫に引っかかれた・噛まれたときの対処|猫ひっかき病とパスツレラ症のリスク、受診の目安と防ぐ工夫 あわせて読みたい 猫と鳥インフルエンザ(H5N1)、飼い主が今知っておきたいことと現実的な予防 あわせて読みたい 猫のかかりつけ動物病院の選び方|元気なうちに「猫を診る体制のある病院」を決めておく
よくある質問
うちの猫も薬剤耐性菌を持っているのでしょうか
猫から人に耐性菌がうつるということですか
猫に抗菌薬を使うのは避けたほうがいいですか
猫と一緒に寝るのはやめるべきですか
消毒剤でトイレや部屋を徹底的に除菌したほうがいいですか
まとめ
2026年8月に公開された英国の研究では、公開データベース上の犬猫由来クレブシエラ・ニューモニエ712株の87.2%が人でも見つかる型に属し、3系統以上の耐性遺伝子を持つ株は猫で80.0%、犬で56.3%でした。ただし、同じ型であることは直接うつった証拠ではなく、耐性株ほど登録されやすいという偏りもあり、家庭の猫の80%が耐性菌を持つという意味ではありません。研究者も、ペットが人を病気にしているわけではなく、人と動物をまとめて見るワンヘルスの取り組みにペットを含めることが大切だと伝えています。日本でも2017年度から病気の犬猫を対象にした調査が続けられ(耐性率は2024年分まで公開)、猫由来のクレブシエラ属菌で重要な抗菌薬への耐性が一定の割合で見られています。家庭でできるのは、処方された抗菌薬を指示どおりに使い切ること、口移しや食器の共有を避けること、世話のあとに手を洗うことといった、日々の小さな習慣です。心配な症状や治療の経過で気になることがあれば、かかりつけの動物病院に相談してください。
出典・参考
- Companion Animals Harbour Globally Circulating Human-Associated Klebsiella pneumoniae Lineages and High-Risk Antimicrobial Resistance Clones(Fordham SME, Sheridan E, Drobniewski F. Transboundary and Emerging Diseases、2026年8月28日、PMC全文)
- Dogs and cats carry antibiotic-resistant bacteria also found in people, study finds(Phys.org、Bournemouth University提供、2026年9月11日)
- 愛玩動物(ペット)に使用する抗菌性物質について(農林水産省)
- 薬剤耐性菌のモニタリング(JVARM)(農林水産省 動物医薬品検査所)
- 動物由来薬剤耐性菌の割合(農林水産省 動物医薬品検査所)
- 小動物獣医療における薬剤耐性(AMR)対策検討委員会報告(日本獣医師会、2019年。農林水産省「平成29年度 疾病にり患した愛玩(伴侶)動物(犬及び猫)由来細菌の薬剤耐性モニタリング調査の結果」を別添資料として収録)
- 動物由来感染症ハンドブック2025(厚生労働省)
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