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猫の肥大型心筋症(HCM)の見つけ方と最新の治療|安静時呼吸数で気づく・新薬の現在地

対象の目安: 成猫〜シニア猫

ミオ食事・健康担当
・ 約26分で読めます
猫の肥大型心筋症(HCM)の見つけ方と最新の治療|安静時呼吸数で気づく・新薬の現在地

猫の心臓病と聞いても、多くの飼い主にとってはあまり実感のわかないテーマかもしれません。咳き込むわけでもなく、散歩で息切れするわけでもなく、いつもどおり毛づくろいをして、いつもどおり窓辺で丸くなっている。それでも、肥大型心筋症(HCM)は猫でもっとも多い心臓病として知られ、しかも初期には「元気に見える」まま静かに進むことがあります。この記事では、家庭で気づけるサインと安静時呼吸数の数え方、動物病院での診断の流れ、そして2026年時点で新しい薬がどこまで来ているのかを、出典を確認しながら落ち着いて整理します。診断と治療は必ず動物病院で行うものですが、まず全体像を知る手がかりにしてください。

猫の肥大型心筋症(HCM)とは|猫でもっとも多い心臓病

肥大型心筋症は、心臓のポンプ室である左心室の壁(心筋)が厚くなっていく病気です。壁が厚くなると内腔が狭くなり、心臓が拡張して血液をため込む働きがうまくいかなくなります。その結果、左心房に血液がうっ滞し、進行すると肺に水がたまる肺水腫や胸水、心臓の中にできた血のかたまりが飛ぶ動脈血栓塞栓症といった合併症につながります。

コーネル大学猫健康センターの解説では、肥大型心筋症は猫でもっとも多く診断される心臓病であり、HCMの猫の多くは具合が悪そうには見えないと説明されています。大塚駅前どうぶつ病院の解説では、健康に見える猫のうち約15%がこの病気にかかっているという報告があり、年齢別では3〜9歳で18.8%、9歳以上で29.4%、1歳未満でも4.3%で診断されているとされています。「シニアだけの病気」ではなく、若い成猫にも起こりうる点は押さえておきたいところです。

肥大型心筋症が猫でもっとも多く診断される心臓病であること、HCMの猫の多くは具合が悪そうに見えないこと、確定診断に心エコー(echocardiography)が用いられることについて。Cornell Feline Health Centerより。

健康に見える猫の約15%がこの疾患にかかっているという報告、3〜9歳で18.8%・9歳以上で29.4%・1歳未満で4.3%という年齢別の割合について。大塚駅前どうぶつ病院・心臓メディカルクリニックより。

初期は「元気に見える」まま進む|家庭で気づきたいサイン

この病気がやっかいなのは、心臓が無理をしている段階では猫がほとんど不調を見せないことです。猫はもともと弱っている姿を隠す動物ですし、室内で暮らす猫は運動量を自分で調整できるので、「最近あまり走らなくなった」程度の変化は年齢のせいと受け止められがちです。

もうひとつ、犬の心臓病と大きく違うのが咳です。MSD/Merck獣医マニュアルでは、猫の心不全では呼吸が速くなる(頻呼吸)・呼吸が苦しくなる(呼吸困難)がみられる一方で、咳はまれであると説明されています。「咳をしていないから心臓は大丈夫」とは言えない、ということです。猫の心臓のサインは、咳ではなく呼吸の速さと深さ、そして元気のなさに表れます。

心不全の猫では頻呼吸や呼吸困難がみられる一方で咳はまれなこと、HCMの猫の少なくとも3頭に1頭で心雑音が聴取されず聴取時は収縮期雑音やギャロップ音であること、確定診断に心エコーが必要なこと、NT-proBNPが重症例とくに心不全の猫でしばしば上昇すること、クロピドグレルが猫の全身性血栓塞栓症の発生を減らすと示された唯一の薬であること、SAMが重度の場合にアテノロールなどのβ遮断薬が検討されACE阻害薬は心不全発症前には明らかな有益性が認められないこと、急性の後肢麻痺に強い痛みと大腿動脈の脈の減弱・消失を伴うこと、軽度の猫の長期予後は良好なことについて。MSD/Merck Veterinary Manualより。

コーネル大学の解説では、心不全に至った猫のサインとして呼吸が苦しそう・速い、口を開けての呼吸、元気消失が挙げられています。こざわ犬猫病院の解説では、口を開けて苦しそうに呼吸する状態は非常に危険で肺水腫や胸水が強く疑われること、突然ぐったりして倒れる・失神するのは不整脈や血圧低下によるもので心停止に至るリスクが極めて高いこと、突然後ろ足が動かなくなって痛がるのは血栓塞栓症の典型症状で足が冷たくなり激しく鳴くことがあると説明されています。

開口呼吸が非常に危険で肺水腫や胸水が強く疑われること、失神や突然倒れるのは不整脈や血圧低下によるもので心停止リスクが極めて高いこと、突然後ろ足が動かなくなり痛がるのが血栓塞栓症の典型症状で足が冷たくなり激しく鳴くことがあること、うっ血性心不全発症後の生存期間が診断後12〜18か月と報告されていること、軽度の猫は何年も通常の生活を送れることについて。こざわ犬猫病院より。

家庭で気づきたい猫の心臓のサイン

  • 寝ているときの呼吸が速い・浅い、お腹の動きが目立つ
  • 口を開けてハアハアと呼吸している(遊んだ直後以外)
  • 以前より遊ばない、高い所に登らない、すぐ休む
  • 食欲が落ちてきた、体重が減ってきた
  • 突然ぐったりして倒れた、意識が飛んだように見えた
  • 突然後ろ足を引きずる、動けずに鳴き叫ぶ、後ろ足が冷たい

安静時呼吸数を数える|家庭でできるいちばん確かな見守り

家庭でできる見守りのなかで、もっとも実用的なのが安静時呼吸数(RRR)の記録です。PetVoiceの解説では、健康な猫がリラックスしているときの呼吸数は約20〜30回/分で、子猫はこれより1〜2割速いとされています。そして、心不全に陥ると安静時呼吸数が増えるため、循環器疾患をもつ猫のモニタリング指標としてとくに優れていると説明されています。

健康な猫がリラックス時に約20〜30回/分であること、子猫はこれより1〜2割速いこと、1分間の測定が難しい場合は20秒×3または30秒×2で換算できること、40回/分超は要注意で受診を検討・60回/分超は緊急で即受診が必要であること、心不全時に安静時呼吸数が増えるため循環器疾患をもつ猫のモニタリング指標としてとくに優れていることについて。PetVoiceより。

  1. 1

    眠っている・完全にくつろいでいるときに測る

    遊んだ直後や暑い部屋、動物病院の待合室では呼吸が速くなります。家で寝ているとき、あるいは横になってじっとしているときに測るのが基本です。
  2. 2

    胸かお腹の動きを1回として数える

    息を吸って胸(またはお腹)がふくらみ、吐いてへこむまでを1回と数えます。触らず、離れたところから静かに見るだけで十分です。
  3. 3

    20秒×3、または30秒×2で1分あたりに換算する

    1分間じっと数えるのが難しければ、20秒測って3倍、30秒測って2倍でかまいません。スマホで胸元の動画を10〜20秒撮っておくと、あとから落ち着いて数えられます。
  4. 4

    日付と数値をメモに残す

    スマホのメモやカレンダー、体重と同じノートで構いません。週に数回でも記録が続くと、「いつもは24回なのに今週は38回」という変化に気づけます。
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    増えていたら受診、明らかに速ければ夜でも連絡する

    PetVoiceの解説では40回/分を超えるなら要注意で受診を検討、60回/分を超えるなら緊急で即受診が必要とされています。迷ったら数値を持ってかかりつけに電話しましょう。

数値そのものより、その猫のふだんの値からどれだけ増えたかが大事です。健康なうちに何度か測って「うちの子の平常値」を知っておくと、いざというときの判断がぐっと楽になります。

一刻を争うサイン|開口呼吸と、突然の後ろ足の麻痺

注意

次の状態は様子を見てはいけません。すぐに動物病院へ連絡してください。1)遊んだ直後でもないのに口を開けて呼吸している、2)呼吸が速く浅く、お腹を大きく使って苦しそう、3)突然後ろ足が動かなくなり、鳴き叫んで痛がる・足が冷たい、4)倒れて意識がなくなった。夜間や休日に起こることも多いので、通えるエリアの夜間救急動物病院の電話番号と場所を、平時のうちに冷蔵庫やスマホに控えておきましょう。移動の際は無理に抱きしめず、キャリーに入れて静かに運びます。

動脈血栓塞栓症(ATE)は、心臓の中でできた血のかたまりが動脈に詰まる合併症です。コーネル大学の解説では、血栓は後肢への血流を遮断することが多く、急性の後肢の痛みや、重度の場合は後肢の麻痺を引き起こすとされています。MSD/Merck獣医マニュアルでも、急に後肢の不全麻痺や麻痺が起こり、強い痛みと大腿動脈の脈の減弱・消失を伴うと説明されています。「腰を抜かした」「高いところから落ちて足を痛めた」ように見えることもありますが、外傷ではなく心臓が原因のことがあるのです。

通院そのものが苦手な猫では、いざというときに慌てないためのキャリー慣らしも役に立ちます。ふだんの練習は

も参考にしてください。

診断は心エコーが中心|聴診やNT-proBNPだけでは決まらない

「健康診断で心雑音を指摘されなかったから大丈夫」と思いたくなりますが、猫ではそう単純にいきません。MSD/Merck獣医マニュアルでは、HCMの猫の少なくとも3頭に1頭では心雑音が聴取されないと明記されています。異常が聞こえるときは収縮期雑音やギャロップ音がみられますが、無音だからといって心臓が健康だとは言えないわけです。

確定診断の中心になるのは心エコー(心臓超音波検査)です。MSD/Merck獣医マニュアルではHCMの確定診断に心エコーが必要とされ、コーネル大学の解説でも診断の柱に挙げられています。大塚駅前どうぶつ病院の解説では、超音波検査で左心室壁の厚さを測り、正常では5mm未満のところ6mmを超えていればこの病気と診断すると説明されています。

検査分かること位置づけ
聴診心雑音・ギャロップ音・不整脈の有無手がかりにはなるが、少なくとも3頭に1頭は雑音がない
心エコー左心室壁の厚さ、左心房の大きさ、血流の異常確定診断の中心。無麻酔で行えることが多い
NT-proBNP(血液)心臓にかかっている負荷の目安スクリーニング向き。重症例でとくに上昇し、単独では確定できない
胸部レントゲン肺水腫・胸水の有無、心臓の大きさ心不全の評価に有用。初期のHCMは写らないことがある
血圧測定・血液検査高血圧や甲状腺の異常、脱水など「似て見える心肥大」を除外するために重要

血液バイオマーカーのNT-proBNPは、採血だけで心臓の負荷を推し量れる検査です。MSD/Merck獣医マニュアルでは重症の猫、とくに心不全の猫でしばしば上昇するとされ、大塚駅前どうぶつ病院の解説でも、重症度を反映して上昇し呼吸器疾患との鑑別に有効で、結果が出るまで2〜3日かかると説明されています。ただし「もう少し詳しく調べたほうがよさそうか」を判断するための検査であり、これだけで診断は確定しません。

同院の解説では、胸部レントゲン検査は心筋症の猫の18〜21%で異常所見がみられないことにも触れられています。また、心筋が厚く見える原因はHCMだけではなく、高血圧、甲状腺機能亢進症、左室流出路狭窄、腫瘍、脱水などを除外する必要があり、そのために血圧測定に加えて血液検査を行うとされています。とくにシニア猫では甲状腺機能亢進症が隠れていることがあり、こちらは

にまとめています。

確定診断が超音波検査による左心室壁厚の測定で行われ正常5mm未満に対し6mm超で診断されること、心雑音が聞こえないケースがあること、NT-proBNPが重症度を反映し呼吸器疾患との鑑別に有効で結果に2〜3日かかること、胸部レントゲンでは心筋症猫の18〜21%で異常所見がみられないこと、高血圧・甲状腺機能亢進症・左室流出路狭窄・腫瘍・脱水などの除外のため血圧測定と血液検査を行うこと、治療にフロセミドなどの利尿薬・アテノロールなどのβ遮断薬・ピモベンダン・クロピドグレルなどの抗血小板薬・ACE阻害薬が用いられること、短毛雑種猫が患者の39.8%で好発年齢が5〜7歳であること、心不全発症後および血栓症併発後の中央生存期間について。大塚駅前どうぶつ病院・心臓メディカルクリニックより。

好発とされる猫種と遺伝子検査|雑種でも起こる

この病気には遺伝的な背景が知られています。コーネル大学の解説では、メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、アメリカンショートヘア、スフィンクス、ベンガル、ノルウェージャンフォレストキャット、ペルシャなど特定の品種で多くみられ、いくつかの品種では原因となる遺伝子変異が同定されていると説明されています。メインクーンとラグドールでは心筋のタンパク質をつくるMYBPC3遺伝子の変異が知られ、この2品種では遺伝子検査が実用化されています。

ただし、純血種だけの病気ではありません。大塚駅前どうぶつ病院の解説では、もっとも発生が多いのは短毛の雑種猫で患者の39.8%を占め、好発年齢は5〜7歳とされています。「うちの子は雑種だから関係ない」は成り立たない、ということです。

遺伝子検査の位置づけにも注意が必要です。HALU代官山動物病院の解説では、変異があっても必ず発症するとは限らず、変異がなくても発症しない保証にはならないこと、まだ解明されていない原因もあること、そして遺伝子検査では診断や評価はできず実際の心臓の動きや壁の厚さは心エコーで直接確認する必要があることが説明されています。遺伝子検査は繁殖の判断や「気をつけておく理由」を知るための補助情報であり、心エコーの代わりにはなりません。猫の遺伝子検査全般については

もあわせてどうぞ。

変異があっても必ず肥大型心筋症を発症するとは限らないこと、変異がなくても発症しない保証にはならないこと、まだ解明されていない原因もあること、遺伝子検査では診断や評価はできず心エコーで直接確認する必要があることについて。HALU代官山動物病院より。

治療の現在地|症状を抑える薬と、新しい薬の話

まず正直なところをお伝えすると、肥大した心筋そのものを元に戻して病気を治す方法は、まだ確立していません。現在の治療の中心は、うっ血性心不全の症状を抑えること、血栓を作らせないこと、心臓の負担を減らすことです。

薬の種類ねらい
利尿薬フロセミドなど体内の余分な水分を尿として出し、肺水腫や胸水を軽くする
抗血小板薬クロピドグレルなど心臓の中で血栓ができるのを抑え、動脈血栓塞栓症を防ぐ
β遮断薬アテノロールなど心臓の過剰な興奮・収縮を抑える。適応は猫の状態による
強心・血管拡張薬ピモベンダン、ACE阻害薬など心不全症状の軽減を図る。使いどころは慎重に判断される

血栓予防については、MSD/Merck獣医マニュアルが、クロピドグレルは猫の全身性血栓塞栓症の発生を減らすことが示されている唯一の薬であると述べています。同マニュアルでは、SAM(僧帽弁前尖の収縮期前方運動)が重度な場合にアテノロールなどのβ遮断薬が検討されること、ACE阻害薬は心不全発症前には明らかな有益性が認められないことも説明されています。どの薬をいつ使うかは猫ごとに大きく変わるため、ここは主治医の判断の領域です。

米国で条件付き承認されたシロリムス徐放製剤

近年もっとも注目されているのが、免疫抑制薬としても知られるシロリムス(ラパマイシン)の徐放製剤です。製品名はFelycin-CA1で、FDA(米国食品医薬品局)の公表資料によると2025年3月14日に条件付き承認を受けました。適応は「潜在性肥大型心筋症の猫における心室肥大の管理」で、対象は左室拡張末期壁厚が6mm以上の左室肥大があり、うっ血性心不全の症状がない猫です。南大阪動物医療センターの解説によると、用法は週1回の経口投与で、糖尿病の猫や既存の肝疾患がある猫には投与禁忌とされています。同解説では、条件付き承認薬であることを踏まえたうえで日本の獣医師が米国から輸入して使用することは不可能ではない、とも述べられています。

ここで誤解しないでおきたいのは、これは日本で承認された薬ではないという点です。日本の動物病院に行けば処方してもらえる、という段階にはありません。コーネル大学の解説でも、ラパマイシンは臨床試験で有望な結果を示しているものの、まだ決定的な治療法(cure)ではないとされています。期待できる材料ではありますが、「これで治る」と受け取るのは早すぎます。

felycin-CA1(シロリムス徐放錠)の承認日が2025年3月14日であること、条件付き承認の適応が潜在性(無症候性)肥大型心筋症の猫における心室肥大の管理であり、左室拡張末期壁厚6mm以上の左室肥大があってうっ血性心不全の症状や動脈血栓塞栓症、重度の左室流出路閉塞などがない猫が対象であることについて。FDA Freedom of Information Summary(申請番号141-604)より。

シロリムス徐放製剤の製品名がFelycin-CA1であること、FDAから条件付き承認された薬であること、用法が週1回の経口投与であること、糖尿病の猫と既存の肝疾患がある猫には投与禁忌であること、日本の獣医師が米国から輸入して使用することは不可能ではないと述べられていることについて。南大阪動物医療センターより。

心筋ミオシン阻害薬は研究段階

もうひとつ、人の肥大型心筋症で使われるようになった心筋ミオシン阻害薬という新しい種類の薬があり、猫でも研究が進んでいます。2024年にScientific Reports誌に掲載された研究では、閉塞性肥大型心筋症の猫6頭にCK-586を単回経口投与する盲検・無作為化のクロスオーバー試験が行われ、用量依存的に左室流出路の閉塞が解消し、収縮機能の低下は最小限だったと報告されています。ただし著者らは、症例数が少なく長期成績のデータがないなどの限界を挙げ、臨床応用にはさらなる検討が必要だと述べています。2026年現在、猫の心筋ミオシン阻害薬は研究段階であり、猫の治療薬として承認された薬ではありません。

閉塞性肥大型心筋症の猫6頭を対象にCK-586を単回経口投与する盲検・無作為化クロスオーバー試験が行われ、用量依存的に左室流出路閉塞が解消し収縮機能の低下は最小限だったこと、著者らが症例数の少なさや長期成績の欠如などの限界を挙げ臨床応用にはさらなる検討が必要としていることについて。Scientific Reports(2024)より。

注意

人用のシロリムス製剤やβ遮断薬、利尿薬、アスピリンなどを飼い主の判断で猫に与えることは絶対にしないでください。猫は薬の代謝が人や犬と大きく異なり、量を誤ると命に関わります。個人輸入品やサプリメントで「心臓によい」とうたわれるものも、心臓病の治療の代わりにはなりません。新しい薬に関心があるときは、まずかかりつけの動物病院で、うちの子に適応があるのか、いま日本で使えるのかを相談してください。

家庭でできること|健診の心エコー・麻酔前検査・輸液の相談

治療薬に限りがあるぶん、飼い主にできることの価値は大きい病気です。まずは早く見つけること。HALU代官山動物病院の解説では、2歳ごろから定期的に心エコー検査を受けること、シニア期に入ったら定期的に心臓の状態を確認することが勧められています。健康診断のオプションに心エコーを加えるだけでも、無症状の段階で見つかる可能性は上がります。健診全体の考え方は

、シニア期の見守りは

あわせて読みたい

シニア猫(7歳〜)の老化サインと健康管理、家庭でできる見守りと環境調整

にまとめています。

もうひとつ、意外と見落とされやすいのが麻酔と点滴です。避妊去勢手術や歯石除去、腫瘍の検査など、猫は生涯に何度か全身麻酔を経験します。レラ動物病院の解説では、麻酔管理では過不足のない点滴管理が重要で、心臓病がある場合は過剰な輸液を避けるとされ、術前の評価として心エコー検査・胸部レントゲン・心臓マーカー検査が挙げられています。心臓に不安がある猫、あるいは好発品種の猫では、麻酔をかける前に心臓を評価しておきたい、と伝えておく価値があります。脱水の治療で皮下点滴や静脈点滴を受ける機会も多いので、心臓病があることは受診のたびに共有しておきましょう。

麻酔管理では過不足のない点滴管理が重要で心臓病がある場合は過剰な輸液を避けること、術前評価として心エコー検査・胸部レントゲン・心臓マーカー検査が挙げられていることについて。レラ動物病院・札幌より。

慢性腎臓病を併せもつ猫では、腎臓のために水分を入れたい一方で心臓には負担になる、という難しい判断が必要になります。自己判断で皮下点滴の量を増減させず、必ず主治医と相談してください。腎臓病側の考え方は

も参考になります。

心臓が気になる猫のために、家でできること

  • 寝ているときの呼吸数を週に数回、数えて記録する
  • 健診で心エコーを受けられるか、かかりつけに相談する
  • 麻酔や点滴の前に、心臓の評価をしてほしいと伝える
  • 夜間救急動物病院の連絡先と行き方を、平時に調べて控えておく
  • キャリーに入る練習をして、急な受診に備える
  • 処方された薬は自己判断で増減・中止せず、気になる変化は連絡する

予後は幅が広い|必要以上に怖がらないために

数値だけを見ると不安になりますが、実態は幅がとても広い病気です。MSD/Merck獣医マニュアルでは軽度の猫の長期予後は良好とされ、コーネル大学の解説でも、予後は個体差が大きく無症状の猫は何年も生きることが多い一方、うっ血性心不全や血栓塞栓症、低体温を伴うと悪化すると説明されています。こざわ犬猫病院の解説でも、軽度の猫は何年にもわたって通常の生活を楽しめるとされています。

一方で、心不全や血栓塞栓症を起こした後は厳しくなります。大塚駅前どうぶつ病院の解説では、心不全を発症した猫の中央生存期間が563日、血栓症を併発した猫では184日と報告され、こざわ犬猫病院の解説ではうっ血性心不全発症後の生存期間は診断後12〜18か月と説明されています。報告に幅はありますが、共通するのは「症状が出る前に見つけて備えられた猫のほうが、時間の余裕が大きい」ということです。だからこそ、いま元気な猫にこそ健診と呼吸数の記録が効いてきます。

6歳のアメリカンショートヘアです。健診で心雑音はなかったのですが、オプションで心エコーをお願いしたところ、軽度の肥大型心筋症と言われました。何の症状もなかったのでショックでしたが、いまは半年ごとの心エコーと、週2回の呼吸数のメモを続けています。ふだんは22〜26回くらい。数字が分かっていると、変化があったときにすぐ動けるので、かえって落ち着いて暮らせるようになりました。

よくある質問

健康診断で心雑音を指摘されませんでした。心臓は大丈夫と考えていいですか
残念ながら、そうとは言い切れません。MSD/Merck獣医マニュアルでは、肥大型心筋症の猫の少なくとも3頭に1頭では心雑音が聴取されないとされています。逆に、心雑音があっても病気とは限りません。確定診断は心エコーで行うものなので、好発品種であったり呼吸数の増加など気になる変化があったりする場合は、聴診だけで判断せず心エコーについて相談してみてください。
寝ているときの呼吸数は何回までなら大丈夫ですか
PetVoiceの解説では、健康な猫がリラックスしているときの呼吸数は約20〜30回/分で、40回/分を超えるなら要注意で受診を検討、60回/分を超えるなら緊急で即受診が必要とされています。ただし基準値以上に大事なのは、その猫のふだんの数値からどれだけ増えたかです。元気なうちに何度か測って平常値を知っておきましょう。判断に迷ったら、数値を伝えてかかりつけに電話するのがいちばん確実です。
猫が咳をしていないので、心臓病ではないですよね
猫では、咳がないことが心臓病の否定材料になりません。MSD/Merck獣医マニュアルでは、心不全の猫では呼吸が速くなったり苦しくなったりする一方で咳はまれであると説明されています。犬の心臓病でよく知られる咳とは事情が違います。猫では、呼吸の速さと深さ、口を開けての呼吸、元気や食欲の低下のほうが手がかりになります。
アメリカで承認されたシロリムスの薬は、日本の動物病院で使えますか
日本で承認された薬ではありません。FDAの公表資料によると、シロリムス徐放製剤Felycin-CA1は2025年3月14日に米国FDAから条件付き承認を受けた薬で、適応はうっ血性心不全の症状がない潜在性肥大型心筋症の猫の心室肥大の管理です。南大阪動物医療センターの解説では日本の獣医師が米国から輸入して使うことは不可能ではないとも述べられていますが、どこの病院でも処方される段階ではありません。関心があれば、まずかかりつけで相談を。人用の薬を飼い主の判断で与えることは絶対に避けてください。
雑種の猫でも心エコーを受けたほうがいいですか。何歳から受ければいいでしょう
雑種でも起こる病気です。大塚駅前どうぶつ病院の解説では、もっとも発生が多いのは短毛の雑種猫で患者の39.8%を占め、好発年齢は5〜7歳とされています。HALU代官山動物病院の解説では2歳ごろからの定期的な心エコーと、シニア期の定期的な確認が勧められています。頻度や必要性は猫の状態や品種によって変わるので、健診のタイミングでかかりつけに相談して決めてください。

まとめ

肥大型心筋症(HCM)は猫でもっとも多く診断される心臓病で、その多くは見た目に具合が悪そうではないまま進みます。犬と違って咳が出にくく、心雑音も少なくとも3頭に1頭では聞こえないため、家庭でも聴診でも見逃されやすいのが実情です。だからこそ、寝ているときの呼吸数を数えて記録する習慣と、健診での心エコーが力を発揮します。口を開けての呼吸、突然の後肢麻痺と激しい痛みは一刻を争うサインなので、夜間救急の連絡先を平時に調べておきましょう。診断は心エコーが中心で、NT-proBNPは単独では確定できず、高血圧や甲状腺機能亢進症など「似て見える心肥大」の除外も必要です。治療は病態そのものを治すものではなく、利尿薬や抗血小板薬で症状と合併症を抑えるのが中心。米国では2025年3月14日にシロリムス徐放製剤Felycin-CA1が条件付き承認されましたが、日本では承認されておらず、心筋ミオシン阻害薬はまだ研究段階です。それでも予後の幅は広く、軽度のまま何年も普通に暮らす猫はたくさんいます。過度に怖がらず、今夜眠っている猫の胸の動きを20秒だけ数えるところから始めてみてください。

出典・参考

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