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猫同士のなめ合いは「仲良し」とは限らない|2026年の研究が示した2つの文脈と多頭飼いの見立て方

対象の目安: 成猫中心(多頭飼い)

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猫同士のなめ合いは「仲良し」とは限らない|2026年の研究が示した2つの文脈と多頭飼いの見立て方

2匹の猫が寄り添って、片方がもう片方の頭をペロペロとなめている。多頭飼いの飼い主にとって、これほど「うちの子たちは仲良しだ」と安心できる光景はありません。実際、猫の行動学の教科書でも、なめ合い(アログルーミング)は仲間である証拠として長く紹介されてきました。ところが2026年、ベルギーのゲント大学と英リンカーン大学のグループが53ペア106頭の家庭内の動画を解析したところ、なめ合いには「絆」の文脈だけでなく「緊張」の文脈もあることが示されました。なめ合いそのものは同じでも、その前後で何が起きているかによって、意味は正反対になりうるというのです。ここでは、この研究が実際に何を測って何を言っているのかを丁寧にほどきながら、家庭で愛猫たちの関係を見立てるための観察ポイントに落とし込んでいきます。

そもそもアログルーミング(なめ合い)とは何か

アログルーミングは、日本語では社会的グルーミング、相互グルーミングなどと呼ばれる行動です。今回の論文では、猫のアログルーミングを「他の猫の頭や体の毛をなめる、口で扱う、噛むこと(またはそうしようとすること)」と定義しています。霊長類やウシ、ウマ、鳥、さらには昆虫にも見られる、動物界に広く存在する行動です。

その機能としては、衛生的な機能(毛やフケ、寄生虫、汚れを取り除く)、生理的な機能(なめられる側の心拍数が下がる、ストレスが和らぐ)、社会的な機能(絆をつくる、緊張を和らげる)の3つが、互いに排他的でない説明として挙げられてきました。

猫については、このうち社会的な機能の説明がとくに強調されてきました。獣医行動学の文献では、なめ合いは家庭内の猫の「社会的グループ」を見分ける特徴のひとつとして挙げられ、親和的・友好的な行動、あるいは満足のサインとして分類されるのが一般的です。実際、国際的な猫の福祉団体International Cat Careも、どの猫同士が同じ社会的グループを作っているかを見分ける手がかりとして、一緒に過ごす・なめ合う・近くで寝る・一緒に遊ぶ・あいさつのときに鼻を触れ合わせる、といった行動を挙げています。

International Cat Careは、どの猫が社会的グループを形成しているかは観察でわかるとし、一緒に過ごす・互いをなめ合う・近くで寝る・一緒に遊ぶ・あいさつで鼻を触れ合わせる猫はどれか、という視点を挙げています。出典:International Cat Care「Multi-cat households」

一方で、これに異を唱える研究も古くからありました。今回の論文が引くVan den Bos(1998)の実験室猫25頭の研究では、血縁の有無はなめ合いの発生に影響せず、なめ合いのやりとりの35%で攻撃的な行動が起きていたと報告されています。ここから、なめ合いは絆づくりというより、逃げ場のない状況で本格的な攻撃が起きるコストを避けるために緊張を下げる仕組みではないか、という見方も提示されてきました。つまり、猫のなめ合いについては「友好の証拠」と「攻撃の代替」という、ほぼ正反対の仮説が併存したまま決着がついていなかったのです。

なお、猫が人間をなめる行動も、この仲間同士のなめ合いに由来すると考えられています。人に向けられるペロペロの理由と対処は

で扱っているので、そちらを参照してください。この記事は猫同士のなめ合いに絞ります。

2026年の研究:市民科学で集めた53ペアのなめ合い動画

今回の研究は、ゲント大学(ベルギー)の動物行動・福祉研究グループを中心に、英リンカーン大学、フランダース農水産食品研究所(ILVO)の研究者が参加した国際共同研究です。論文はApplied Animal Behaviour Science誌の301巻、論文番号107038として掲載され、2026年2月16日に投稿、5月5日に受理、5月7日にオンライン公開されました。オープンアクセス(CC BY-NC)なので、誰でも全文を読むことができます。

Van Belle M.J.R.、Moons C.P.H.、Mills D.S.、Broeckx B.J.G.、Tuyttens F.A.M.、Gajdoš Kmecová N.著「Unravelling feline social dynamics - A video-based observational study on allogrooming in domestic cats」Applied Animal Behaviour Science 301巻107038(2026年)。ゲント大学の学術リポジトリで全文PDFが公開されています。出典:Ghent University Academic Bibliography

特徴的なのは、市民科学(シチズンサイエンス)の手法をとっていることです。実験室や保護施設ではなく、ふだん暮らしている自宅で、飼い主自身がスマートフォンなどで猫の自然なやりとりを撮影して提供しました。

どんな方法で調べたか

  1. 1

    参加者を募る

    SNS経由のオンラインアンケートに312人の飼い主が回答。18歳以上で、健康な1歳以上の猫を2匹飼っていることが条件でした。この基準を満たした213人のうち99人が動画の提供に同意しました。
  2. 2

    家庭で撮影してもらう

    飼い主には、2匹が頭から尾まで全身写ること、やりとりの始まり(近づく)から終わり(離れる、興味を失う)までを通しで撮ること、耳と尾が判別できる明るさで撮ること、撮影中に介入しないことなどを指示した動画とチラシが配布されました。
  3. 3

    品質を選別する

    計160本の動画が集まり、品質を3段階(緑・黄・赤)で評価。文脈違い、やりとりの途中欠け、飼い主の介入、いつもと違う状況などを理由に8本を除外しました。
  4. 4

    23項目のエソグラムで解析する

    最終的に53世帯・53ペア(106頭)分の動画を、訓練を受けた2名の観察者が専用ソフトで秒単位に記録。「猫の社会的やりとりのエソグラム(EFSI)」という23項目の行動リスト(コミュニケーションと相互作用/姿勢と動き/耳の位置/尾の動き)と、なめた体の部位など3つの修飾項目を使いました。
  5. 5

    4つの統計解析にかける

    (1)自分の毛づくろい(オートグルーミング)となめ合いで、なめる部位がどう違うか、(2)なめ合いと一緒に現れる行動は何か(因子分析)、(3)なめ合いの直前・直後に何が起きるか(ラグ逐次分析)、(4)血縁や姿勢のそろい方でやりとりが変わるか(線形混合モデル)、の4本立てで解析しました。

対象となった106頭はすべて避妊去勢済みの健康な猫で、年齢は1歳1か月から15歳2か月(中央値3歳6か月)。オス64頭・メス42頭で、オス同士23ペア、メス同士12ペア、オスメス18ペアという構成でした。1ペアあたりの観察時間は15.0秒から608.1秒(中央値104.3秒)です。

メモ

研究チームが2匹飼いに絞ったのには理由があります。撮影のしやすさ(3匹以上だと画面外の猫の影響が読めない)に加えて、そもそも多頭飼育世帯の多数派が2匹飼いだから、と論文中で説明されています。日本の家庭でも、猫を2匹迎えている家は珍しくありません。

なめる場所は「頭と首」に集中していた

まず分かりやすい結果から。53のやりとりの中で、なめ合いは163回(bout)記録されました。なめられた部位の内訳は次のとおりです。

なめた部位なめ合い(163回中)自分の毛づくろい(83回中)
頭・首142回(87.1%)13回(15.7%)
32回(19.6%)1回(1.2%)
胴体27回(16.6%)50回(60.2%)
前脚11回(6.7%)35回(42.2%)
後脚1回(0.6%)10回(12.0%)
陰部1回(0.6%)6回(7.2%)
0回4回(4.8%)

1回のなめ合いで複数の部位をなめることがあるため、合計は100%を超えます。それでも傾向ははっきりしていて、なめ合いは頭と首、とくに耳まわりに集中する一方、自分の毛づくろいは胴体と前脚が中心でした。統計的にも、両者の分布は偶然では説明できないほど違っていました(カイ二乗検定χ2=99.501、p<0.001。事後検定で胴体・耳・前脚・頭首の4部位に有意差)。

頭や首は、猫が自分の舌では直接届かない場所です。論文は、なめ合いが「相手にとって届かない部位を手入れする社会的サービス」として働いている可能性を指摘しています。加えて、耳のまわりは感覚神経が豊富で、側頭腺という腺があり、人が猫をなでるときにも好まれる場所です。リラックスやかゆみの解消、においの受け渡しといった意味も推測されていますが、この研究では寄生虫の量や皮膚の清潔さを測っていないため、衛生機能の証明にはなっていない、と論文自身が但し書きをしています。

ヒント

「うちの子はいつも相手の頭ばかりなめている」というのは、この研究の結果からすればごく標準的なパターンです。ただし、部位だけで絆か緊張かを見分けることはできません。論文の集計では頭と首は「頭・首」という1つの区分にまとめられており、頭・耳と首を分けた定量的な比較は行われていません。耳への集中は親和の文脈で、首をなめる形は敵対のシグナルでもありうる、という対比は、統計結果ではなく考察で述べられた解釈です。

見つかった2つの文脈:社会的絆と社会的緊張

4種類の解析を総合した結果、研究チームは、なめ合いが起きる文脈として大きく2つがある、と結論づけました。(1)社会的な絆・親和、(2)社会的な緊張です。同じ「なめる」でも、その周辺で起きている行動が正反対になるというのがこの論文の核心です。

(1)社会的な絆・親和の文脈

因子分析では、なめ合いが「長く続く体の接触(体をくっつけて寄り添うハドリング、すり寄り、鼻先を寄せる)」と一緒に現れる因子が見つかりました。逐次分析では、体の接触を求める行動が互いに向けられ、そのあとになめ合いが続くという流れが確認されています。ゲント大学の発表を紹介したPhys.orgの記事では、「猫用ベッドで一緒に丸くなるといった体の接触を求める行動のあとになめ合いが起きた割合は41%だった」と報告されています。

Phys.orgは、体の接触を求める行動(猫のベッドで寄り添うなど)のあとになめ合いが続いたケースが41%であること、猫が姿勢を同調させている(2匹とも横になる、座る)場合はポジティブな状況を示すこと、なめ合いが遊びの誘いとして首まわりで起きることもあると報告しています。出典:Phys.org(2026年6月22日)

もうひとつの鍵が「姿勢のそろい方(行動の同調)」です。研究では、最も長いなめ合いの間の2匹の体勢を、同調(2匹とも同じ姿勢のまま)・非同調(異なる姿勢)・動的(途中で姿勢が変わる)に分類しました。53ペアのうち同調23ペア、非同調21ペア、動的5ペア、分類不能4ペアという内訳です。そして、同調していたペアは、体の接触に費やす時間の割合が49.0%に達したのに対し、非同調のペアは6.6%にとどまりました。姿勢がそろっているほど、長く触れ合っていたわけです。

さらに、なめ合いのあとに互いに取っ組み合う遊び(mutual wrestling)へ移行する流れも観察されました。この「両者がノリノリの取っ組み合い」は、先行研究で親和的な社会的遊びの特徴とされているものです。研究チームは、なめ合いが遊びの誘い、あるいは遊びを続けるための行動として働いている可能性を挙げています。

論文が絆・親和のサインとしてまとめているのは、次のような組み合わせです。なめ合いの前や最中に2匹が体をくっつけて長く寄り添っている(ハドリング)、なめる場所がとくに相手の耳である、なめ合いのあとに互いに遊びの取っ組み合いをする。そしてやりとりの終わり方が、2匹とも自分の毛づくろいを始める、近くで眠る、あるいは家じゅうを追いかけっこして遊ぶ、というものです。

(2)社会的な緊張の文脈

一方で、まったく別の顔も見えてきました。因子分析では、なめ合いが「耳の回転」「口まわりの動き(舌なめずり、あくび)」「相手のにおいをかぐ」と同じ因子にまとまり、これは社会的緊張と名づけられました。逐次分析では、なめ合いに対して、なめられた側が耳を後ろ・横に回すという反応が強く現れました。

耳が回るのは、舌の感触に対する敏感さの表れかもしれませんし、いらだち・不満・恐れといったネガティブな感情の表現でもあります。実際この研究では、耳の回転がその後、弓なりの背中や低い姿勢といった「意思表示の姿勢」や、前足で叩く・噛むといった行動につながる連鎖が見られました。

さらに重要なのが、転位行動(displacement behaviour)です。転位行動とは、その場にそぐわない文脈で出てくる正常行動のことで、動機の葛藤やフラストレーションを示すとされます。猫では、舌なめずり、あくび、頭や脚を振る、自分を掻くなどが挙げられます。この研究では、体を掻く・振る行動から口まわりの動きへの遷移確率が29%(p<0.01)と高く、姿勢が非同調・動的だった猫ほど体を掻く・振る行動が多く(動的1.25回/分、非同調0.66回/分、同調0.22回/分、p=0.045)、その場を離れようとする動きも多い(動的0.95回/分、非同調0.79回/分、同調0.24回/分、p=0.023)という結果でした。

見落とされがちなのは、なめている側の緊張です。106頭のうちなめる側が66頭、なめられるだけの側が40頭に分類されましたが、なめる側のほうが自分の毛づくろいをする時間が長く(8.44%対0.54%)、頻度も高く(0.47回/分対0.11回/分)、相手のにおいをかぐことも多い一方で、意思表示の姿勢は少なめでした。論文は、なめる側の頻繁な自己グルーミングを、緊張の表れである可能性が高い転位行動として解釈しています。

論文は、社会的緊張の場面では、姿勢が非対称(一方の猫がもう一方に覆いかぶさる)であること、耳が後ろに回ること、転位行動(舌なめずり、頭を振るなど)や明らかな攻撃行動(叩く、噛む)が頻繁に現れることを挙げ、この文脈でのなめ合いはエスカレートを防ぐなだめ行動、または争いを目立たせずに解決する控えめな敵対シグナルでありうると述べています。出典:同論文本文(オープンアクセス)

なめる場所が首に向かうケースについても、論文は先行研究を引きながら、獲物を捕らえるときや本気のけんかで噛む場所と重なることを指摘しています。そのため、首をなめる行為は、実際に傷つけ合うリスクを避けながら「私のほうが上だ」と伝える、控えめな敵対シグナルとして使われている可能性がある、というのが研究チームの読みです。

研究を主導したゲント大学の獣医師Morgane Van Belle氏は、Smithsonian Magazineの取材に、自身の猫での経験としてこう語っています。窓辺で寝ていた猫にもう1匹が近づいて首をなめ、すぐに軽く噛みつき、もとの猫が窓辺の場所を明け渡した、という場面です。同氏は「解析してすぐに、なめ合いがすべての文脈で同じ意味を持つわけではないことがはっきりした」と述べる一方で、「猫は争いをとても優雅に解決している。とても繊細なやり方で衝突をおさめていて、単に意地悪なのではなく、賢く柔軟なのだと思う」とも語っています。

Smithsonian Magazine(2026年7月17日、Margherita Bassi記者)は、研究を主導したゲント大学のMorgane Van Belle獣医師のコメントとして、窓辺の場所をめぐるなめ合いと軽い噛みつきの実体験、「解析してすぐに、なめ合いがすべての文脈で同じ意味を持つわけではないと分かった」という発言、猫は繊細な方法で衝突を解決しているという見解を紹介しています。出典:Smithsonian Magazine

同居の2匹がなめ合っていると、いつも「仲良しでよかった」と思っていました。でも録画して見返したら、なめられた子がすぐ耳を倒して、そのあとそっと窓際の特等席から降りていたんです。ずっと仲裁が要らないと思っていたので、まず寝床を増やすところから見直しました。
飼い主

家庭で見立てるための観察ポイント

この研究のいちばんの実用的な示唆は、「なめ合いが起きたかどうか」ではなく「なめ合いの周辺で何が起きているか」を見る、という視点の転換です。論文が絆と緊張の判別材料として挙げているのは、行動の同調があるかどうか、転位行動が出ているかどうか、耳を含む顔の表情、そして関連する行動が相互的かどうかの4点です。これを家庭の観察に翻訳すると、次のような見方になります。

見るところ絆・親和でよく見られる緊張でよく見られる
なめ合いの前2匹が自分から近づき、体をくっつけて長く寄り添う片方だけが近づく。日なた・寝床など場所の取り合いの直後
体の姿勢2匹の姿勢がそろっている(どちらも座る、どちらも伏せる)姿勢がそろわない。片方がもう片方に覆いかぶさる
なめる部位頭・耳まわりが中心首を狙う形になりやすい
なめられる側力を抜いて受け入れている耳を後ろ・横に回す、背の毛を立てる、前足で叩く、逃げようとする
最中のしぐさ落ち着いている舌なめずり、あくび、頭や脚を振る、体を掻く(転位行動)
なめる側のしぐさ落ち着いている前脚や胸を短くくり返しなめる(自分の毛づくろいが増える)
終わり方互いに毛づくろい、近くで眠る、取っ組み合いの遊びや追いかけっこ短い小競り合いのあと離れる。片方が場所や資源を明け渡す

なお、表の「なめる部位」の行だけは性質が異なります。論文の集計では頭と首が「頭・首」という1つの区分で扱われているため、頭・耳と首を分けた定量的な比較結果はありません。この行は論文の考察で示された解釈にもとづく目安として、ほかの行と合わせて見てください。

注意

耳の動きは1つだけで判断しないでください。論文でも、耳が後ろに回る動きはネガティブな感情の表れであると同時に、遊びの興奮を示すこともあると説明されています。耳・姿勢・終わり方・声を組み合わせて見るのが基本です。しぐさ全般の読み取り方は

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猫の気持ちの読み方|しっぽ・耳・目・ゴロゴロ・スリスリが表すサイン

で部位ごとに整理しています。

なお、研究チームは、論文で説明した場面の実例動画をOSF(オープンサイエンス基盤)で公開しています。文章では想像しにくい「姿勢がそろっている状態」「覆いかぶさる非対称な姿勢」の違いを、実際の映像で確かめることができます。

1週間、なめ合いを観察してみるときのメモ項目

  • いつも同じ猫がなめる側か、日によって入れ替わるか
  • なめ始める前の30秒間、2匹はどこで何をしていたか
  • 2匹の姿勢はそろっていたか、片方が覆いかぶさっていなかったか
  • なめられた側の耳と背中の毛はどうなったか
  • 舌なめずり・あくび・体を掻く・頭を振るが出ていないか
  • なめ合いのあと、遊びに移ったか、それとも一方が場所を離れたか
  • なめ合いの場面がいつも同じ場所(日なた・寝床・トイレの近くなど)で起きていないか

短い動画で撮っておくと、その場では見えなかった耳や尻尾の動きに気づけます。研究自体が飼い主の撮影した動画で成り立っていることからも、スマートフォンでの記録は十分に有効な観察手段だといえます。

緊張のサインが続くときに整えたいこと

観察して緊張のサインが繰り返し出ているようなら、猫を叱ったり、無理に仲良くさせようとしたりするのではなく、争う理由そのものを減らす方向で環境を整えます。基本は資源の分散です。

International Cat Careは、猫は異なる社会的グループの相手と重要な資源を共有しないとしたうえで、資源の数の目安として「猫の頭数プラス1」を別々の場所に配置する方式を紹介しています。ここでいう資源とは、食器、水の容器、トイレ、寝床、高い休息場所、こもれる場所、爪とぎ、出入り口、おもちゃまでを含みます。

International Cat Careは、資源の適切な数としてよく使われる目安は「1匹につき1つ、プラス1つ余分に、別々の場所に配置する」ことだと説明しています。またトイレを1か所にまとめて並べると猫は1つの資源とみなすため、使用をためらわせたり、互いに使用を妨げたりする原因になるとしています。出典:International Cat Care「Multi-cat households」

具体的には、次のような整え方が挙げられています。

緊張を下げる資源の配置

  • 食器・水・トイレ・寝床・爪とぎ・高い場所を、頭数プラス1の数だけ用意する
  • トイレを一列に並べない。別々の部屋・別々の場所に分散させる
  • 食器を隣同士に並べない。部屋を分ける、高さを変えるなどして視線を遮る
  • 水は食事場所から離れた別の場所に置き、器は縁までたっぷり満たす
  • 器を壁や隅に密着させない。食べながらどの方向も見渡せるようにする
  • トイレは掃き出し窓・猫用ドア・洗濯機など騒がしい家電・人の通り道から離す
  • 高い休息場所は家じゅうに複数用意し、可能なら出入り口を2方向確保して追い詰められないようにする
  • 暗くて暖かい、ひとりになれる隠れ場所を用意する
  • 食事は少量ずつ回数を分ける、マイクロチップ対応の給餌器で個別化するなど、時間差を活用する

もうひとつ有効なのが、家の見取り図を書いて、どの猫がどの部屋をよく使い、どこを避けているかを書き込んでみることです。International Cat Careはこれをハウスマップと呼び、資源の位置と猫の動線が交差して問題が起きやすい場所を見つけるのに役立つとしています。緊張が起きる場所が特定できれば、そこを避けて資源を置き直すだけで、衝突の回数が減ることがあります。

ヒント

3匹以上の家では、全員が1つの社会的グループになるとはかぎりません。International Cat Careは、2匹・3匹といった小グループがいくつかでき、単独の猫がいることも多いと説明しています。「全員が仲良し」を目標にするより、グループごとに資源をそろえて、無理に共有させないほうが現実的です。喧嘩が続くときの原因の整理や仕切り直しの手順は

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この研究で分かっていないこと

新しい知見に触れるときほど、何が示されていて何が示されていないかを分けておくことが大切です。この論文自身が挙げている限界を整理します。

  • 観察研究であり、因果関係を示すものではない。なめ合いが緊張を「引き起こす」とも「解消する」とも証明されていません。
  • 対象は53ペア106頭で、基本的に1ペアにつき1場面の解析です。同じペアの複数場面を追って個体差や関係性の変化を見るのは今後の課題だと明記されています。
  • 「健康」の判定は飼い主の申告に基づいており、獣医師の診察を経ていません。慢性的な痛みや未診断の病気が行動に影響した可能性は排除できません。
  • 参加者は自発的に応募した人たちで、便宜的抽出です。仲の良い猫の飼い主ほど参加しやすい、機器の扱いに慣れた人が集まりやすいといった偏りがありえます。ただし論文は、こうした偏りは主にランダム誤差として働き、統計的な関係はここで示された以上に強い可能性があるとも述べています。
  • 血縁や12週齢以前の社会化の有無で、なめ合いの起こり方に有意な差は見つかりませんでした。研究チームは、血縁・早期社会化という指標が社会的グループを判定する物差しとして不十分だった可能性と、逆になめ合いが強い絆のない猫同士でも使われている可能性の両方を挙げています。実際、対象の45.2%(24ペア48頭)は血縁も早期の社会化もない組み合わせでしたが、すべてのペアがなめ合いを行っていました。

つまり、この研究は「なめ合いは友好のサインではない」と言っているのではありません。「なめ合いだけを根拠に、その2匹が社会的な絆で結ばれていると判断するべきではない」と言っているのです。EveryCat Health Foundationも、この研究の意義として、なめ合いが必ずしも調和のしるしではないと認識することが、多頭飼い家庭の社会的ストレスに気づき、飼育管理を改善する助けになる、とまとめています。

EveryCat Health Foundationは同研究の要約で、なめ合いが必ずしも調和のしるしではないと認識することが、多頭飼い家庭の社会的ストレスの発見と、猫の福祉を高める飼育管理の見直しに役立つとしています。出典:EveryCat Health Foundation

受診・専門家に相談する目安

慢性的な社会的緊張は、猫にとって長く続くストレス源になります。International Cat Careは、家庭内で緊張が生じたり、重要な資源が不足したりすると、猫は互いを避けるか、本来の行動を抑え込んで衝突を避けようとし、適応できない場合は慢性ストレスに至って、尿スプレー、特発性膀胱炎、過剰グルーミングなどの問題につながりうるとしています。

注意

次のような様子が続くときは、行動の問題と決めつけず、まずかかりつけの動物病院に相談してください。シャー・うなり声・追いかけ回し・叩き合い・けががあるけんかがくり返される/いつも同じ猫が隠れて出てこない、食事やトイレに行けていない/トイレの失敗、頻尿、血尿、排尿時に鳴くなどの様子がある/体の同じ場所をなめ続けて毛が薄くなっている/食欲が落ちた、体重が減った、急に性格が変わった。痛みや病気が背景にあることもあり、診断は動物病院でしかできません。必要に応じて、獣医行動学や臨床動物行動学の専門家への紹介についても相談できます。

International Cat Careは、シャーという威嚇・追いかけ回し・前足で叩く・けんかといった、よりはっきりした兆候は猫同士の緊張と衝突を示すものであり、その場合はかかりつけの獣医師に相談し、獣医行動学または臨床動物行動学の専門家への紹介が必要になることもあるとしています。出典:International Cat Care「Multi-cat households」

関係がこじれてしまったときに、においの交換から段階を踏んで距離を縮め直す手順は

で詳しく扱っています。新しい猫を迎えるかどうか迷っているときも、すでに衝突がある状態や、どれかの猫に健康上の問題があるうちは見送るほうがよい、というのがInternational Cat Careの助言です。

うちの2匹は毎日なめ合っています。この研究を読むと不安になったのですが、仲が悪いということですか?
そうとはかぎりません。この研究が言っているのは「なめ合いだけを根拠に絆の有無を判断しないほうがよい」ということで、なめ合いが友好的でないと言っているわけではありません。なめ合いの前後で2匹が自分から寄り添っている、姿勢がそろっている、終わったあとに一緒に遊んだり近くで眠ったりしているなら、絆・親和の文脈でよく見られるパターンです。逆に、耳が後ろに回る、舌なめずりやあくび、片方が場所を明け渡して離れるといった様子が毎回続くようなら、環境を見直す価値があります。
なめ合いのあとに噛みつくのは、けんかですか?
どちらの可能性もあります。研究では、なめ合いのあとに互いに取っ組み合う遊びへ移行する流れが観察されており、これは両者が乗り気な社会的遊びの特徴とされています。一方で、なめたあとに首を噛んで相手を場所からどかす、という緊張の場面も報告されています。見分けの手がかりは、双方向かどうか(どちらも同じくらい仕掛けるか)と、終わったあとに2匹がどうなったかです。片方だけが一方的で、終わったあとに一方が資源を明け渡しているなら、緊張寄りと考えられます。
なめている側は、いつも優位な猫なのでしょうか?
この研究はそこまでは示していません。分かったのは、なめる側は自分の毛づくろいをする時間と回数が多く、相手のにおいをかぐことも多かったという点で、論文はこれを緊張の表れである転位行動として解釈しています。つまり、なめている側が余裕たっぷりとはかぎりません。また、同じペアの複数場面を追っていないため、いつも同じ猫がなめる側なのかどうかも今後の研究課題とされています。
耳が後ろに倒れたら、すぐにやめさせたほうがいいですか?
猫同士のやりとりに人が割って入ると、かえって緊張を高めたり、人に矛先が向いたりすることがあります。血が出るようなけんかでなければ、まずは離れて観察し、記録を残すことをおすすめします。そのうえで、争いが起きやすい場所や時間帯が分かったら、資源の数と配置を変えて、そもそも競合が起きにくい環境に整えていくのが基本の順序です。
論文の原文は読めますか?
読めます。Applied Animal Behaviour Science誌の301巻107038として掲載され、CC BY-NCのオープンアクセス論文としてゲント大学の学術リポジトリで全文PDFが公開されています。また、研究チームは論文で説明した場面の実例動画をOSFで公開しており、姿勢がそろっている状態と非対称な状態の違いを映像で確認できます。

まとめ

猫同士のなめ合いは、長いあいだ「仲間である証拠」として語られてきました。2026年にゲント大学と英リンカーン大学のグループがApplied Animal Behaviour Science誌に発表した観察研究は、市民科学で集めた53ペア106頭の家庭内動画を23項目のエソグラムで解析し、その通説に慎重な但し書きを付けました。なめ合いは、体をくっつけて長く寄り添い、姿勢をそろえ、そのあと一緒に遊びに移るような絆・親和の文脈でも起きますが、姿勢がそろわず、耳が後ろに回り、舌なめずりやあくびといった転位行動を伴い、最後は一方が場所を明け渡すような社会的緊張の文脈でも起きていたのです。なめる部位は頭と首に集中しており(163回のうち頭・首87.1%)、自分では届かない場所を手入れするという意味は共通していますが、その周辺の行動によって意味は正反対にもなりえます。

これは1本の観察研究であり、因果関係を示すものではありません。53ペアという規模で、基本的に1ペア1場面という限界もあります。それでも、飼い主の見方を少し変えるには十分な発見です。なめ合いという「結果」だけを見て安心するのではなく、その前後で2匹がどう動いたか、姿勢はそろっていたか、どこをなめたか、どう終わったかをセットで見る。そうすれば、これまで見過ごされてきた静かな緊張に気づけるかもしれません。そして緊張のサインが続くなら、叱るのではなく、トイレ・食器・水・寝床・高い場所を頭数プラス1で分散させ、隠れ場所と高さを確保し、時間差を使って競合そのものを減らしていく。気になるけんかや体調の変化があるときは、行動の問題と決めつけずに、かかりつけの動物病院に相談してください。

出典・参考

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