ニャレッジ
健康・病気・ケア

猫のオンライン診療と往診の使いどころ|国の指針から読む「画面越しで済むこと・病院でないとできないこと」

対象の目安: 全ライフステージ

ソラ編集長 / 住環境・多頭飼い担当
・ 約31分で読めます
猫のオンライン診療と往診の使いどころ|国の指針から読む「画面越しで済むこと・病院でないとできないこと」

キャリーを出しただけで姿を消す。車の中でずっと鳴き続ける。待合室で固まったまま動かない。猫との通院は、診察そのものよりも「連れて行くまで」と「連れ帰ったあと」のほうが大変だと感じている方は多いはずです。そんななか、ペットの獣医療でも画面越しの診療を整理するルールが国レベルで整ってきました。ただし、何でも画面で済むわけではありません。ここでは農林水産省の指針を一次資料として読み込み、どこまでがオンラインで完結し、どこからは往診や来院が必要になるのかを、飼い主の視点で線引きします。

猫にとっては「通院そのもの」が負担になりやすい

そもそもなぜ、猫で遠隔の選択肢が話題になるのか。前提として、猫は環境の変化に敏感で、病院に着く前からストレスが積み上がっていく動物だという事情があります。

国際猫医学会(ISFM)と米国猫獣医師会(AAFP)による2022年のガイドラインは、「stressor stacking(ストレス要因の積み重なり)」という考え方を示し、猫の対処能力はストレス要因の数と、それにさらされる時間の両方に左右されると説明しています。しかもストレスは病院に入ってから始まるのではなく、自宅で通院の準備を始めた時点から積み上がり始めるとされています。

2022 ISFM/AAFP Cat Friendly Veterinary Environment Guidelinesは、猫の対処能力はストレス要因の数と曝露時間の両方に影響されるとして「stressor stacking」の概念を示し、ストレス要因は自宅での通院準備の段階から蓄積し始めるとしています。また、キャリーに入れられた猫は安全が脅かされるという知覚から恐怖・不安に動機づけられ、逃げられないことへのフラストレーションが加わることがあり、その否定的な連合は次にキャリーを見たときに再び呼び起こされうると述べています。さらに、帰宅後にも同居猫が戻ってきた猫に対して好ましくない反応を示すなど、ストレスの積み重なりが続きうるとしています。Journal of Feline Medicine and Surgery掲載版(PMC)より。

ここで見落とされがちなのが、帰宅後です。同じガイドラインは、帰宅した猫に対して同居猫が好ましくない反応を示すなど、家に戻ってからもストレスの積み重なりが起こりうると指摘しています。多頭飼いの家庭で「病院から帰ったら猫同士の関係がぎくしゃくした」という経験があるなら、それは決して気のせいではありません。

つまり猫の通院コストは、移動時間と待ち時間だけではないということです。キャリー慣らしなどの日常の準備で下げられる部分については

にまとめています。そのうえで、そもそも移動しない選択肢がどこまで使えるのかを次に見ていきます。

2026年時点の前提: 国の指針とQ&Aが整った

農林水産省は令和6年12月27日付(6消安第5557号)で「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」を発出しました。同省のページによれば、この指針は、飼育者の利便性向上や適切な獣医療への迅速なアクセス向上の観点からニーズの高まりが想定されるなか、不適切な実施によって普及が阻害されることのないよう策定されたものです。あわせて公開されているQ&Aは令和6年12月作成・令和8年3月更新となっており、ページの最終更新は令和8年3月4日です。

農林水産省「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針について」のページには、指針本体(6消安第5557号・令和6年12月27日)、指針の概要、指針に関するQ&AのPDFが掲載されています。Q&Aには「令和6年12月作成/令和8年3月更新」と記載され、ページの最終更新日は令和8年3月4日です。農林水産省より。

指針が定義するオンライン診療は、情報通信機器を通して愛玩動物の診察および診断を行い、診断結果の伝達、処方等の診療行為を映像と音声を用いてリアルタイムで行うものです。逆に言えば、リアルタイムの映像と音声がなければオンライン診療にはあたりません。Q&Aも、チャット、写真、録画動画などのみによる診療は認められないと明記しています。

メモ

指針はあくまで「適切な実施に関する基本的な考え方」を示すものです。実際にオンライン診療を提供しているかどうか、対応できる範囲や料金は動物病院ごとに異なります。この記事は制度の枠組みを整理するもので、特定のサービスやアプリをすすめるものではありません。

画面越しのやりとりは一段階ではない

人の医療では、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が、医師と患者の間の遠隔医療を「オンライン診療」「オンライン受診勧奨」「遠隔健康医療相談」に整理しています。診断や処方といった医学的判断を含むのがオンライン診療、受診勧奨をリアルタイムで行うのがオンライン受診勧奨、一般的な情報提供にとどまり医学的判断を伴わないのが遠隔健康医療相談、という整理です。この指針は、令和8年4月に施行された医療法等の一部を改正する法律でオンライン診療に関する総体的な規定が新設されたことを踏まえ、同年4月に改訂されています。なお、かかりつけ以外の医師が初診からオンライン診療を行おうとする場合の「診療前相談」は、令和4年1月の一部改訂版にもすでに同じ定義が置かれており、令和8年4月の改訂で新しく生まれた概念ではありません。令和8年4月改訂版では、この診療前相談が指針の対象であることが明記されています。

厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月・令和8年4月改訂)は、冒頭で「令和8年4月に施行された医療法等の一部を改正する法律において、オンライン診療に関する総体的な規定が新設されたため、本指針もかかる法改正を踏まえて改訂を行った」と述べています。用語の定義では、オンライン診療を医師-患者間で情報通信機器を通して患者の診察および診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムにより行う行為、オンライン受診勧奨を医療機関への受診勧奨をリアルタイムにより行う行為、遠隔健康医療相談(医師以外)を一般的な医学的情報の提供や一般的な受診勧奨に留まり医学的判断を伴わない行為としています。また「診療前相談」を、かかりつけの医師以外の医師が初診からのオンライン診療を行おうとする場合に映像を用いたリアルタイムのやりとりで患者の症状および医学的情報を確認する行為と定義し、診断・処方その他の診療行為は含まないとしたうえで、本指針の対象としています。厚生労働省より。

同指針の令和4年1月一部改訂版(令和4年2月28日の第86回社会保障審議会医療部会の参考資料1)にも、「診療前相談は、日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師(かかりつけの医師)以外の医師が初診からのオンライン診療を行おうとする場合に、医師-患者間で映像を用いたリアルタイムのやりとりを行い、医師が患者の症状及び医学的情報を確認する行為」という同じ定義と、「なお、診療前相談は、診断、処方その他の診療行為は含まない行為である」との記載があります。厚生労働省より。

ここは正確に押さえておきたいところですが、愛玩動物の指針はこの整理をそのまま採用していません。愛玩動物の指針に出てくるのは「オンライン診療」と、その前段に置かれる「診療前相談」という言葉です。人の医療の指針が診療前相談を定義しているのに対し、愛玩動物の指針本体とQ&Aを読むかぎり、診療前相談そのものの定義は示されておらず、初診からのオンライン診療を例外的に行う際に必要な獣医療情報を把握する手段として登場します。人の医療の用語をそのまま猫にあてはめて考えると、線引きを誤りかねません。

実務上の感覚としては、次の3段階で捉えるとわかりやすいと思います。

  • 一般的な情報提供にとどまる相談: この子の症状を診断するのではなく、猫全般の飼い方や受診の目安など一般論を伝えるもの。診療行為ではありません。
  • 診療前相談: 初診からのオンライン診療を行うにあたり、既往歴や予防情報、健康診断結果などの必要な獣医療情報を把握するためのやりとり。獣医師は診療前相談で得た情報を診療簿に記載する必要があるとされています。
  • オンライン診療: リアルタイムの映像と音声で診察・診断を行い、診断結果の伝達や処方まで行うもの。獣医師がその全ての責任を負います。

ヒント

申し込む前に「これは診療にあたるものか、相談にとどまるものか」を病院側に確認しておくと、期待とのずれが減ります。診断や処方まで求めるならオンライン診療の枠組みが必要で、そうでなければ相談として案内されることもあります。

初診はどう扱われるのか

指針は具体的適用の第一項で、初診からのオンライン診療は原則として「かかりつけの獣医師」が行うこととしています。Q&Aによれば「かかりつけの獣医師」とは、その猫と飼い主が日頃より対面で受診しているなど直接的な関係があり、既往歴や予防情報、健康診断結果等を把握している獣医師のことです。

注意したいのが「初診」の定義です。Q&Aは、診療施設で初めて診察を行う場合だけでなく、継続的に診療している場合でも新たな症状等に対する診察を行う場合(既に診断されている疾患から予測された症状等を除く)や、疾患が治癒した後・治療が長期間中断した後に再度同一疾患について診察する場合も「初診」に含むとしています。つまり、通いなれた病院であっても、これまでとは違う症状で相談するときは「初診」の扱いになりうるということです。

農林水産省「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針Q&A」は、「かかりつけの獣医師」を、当該愛玩動物及びその飼育者が日頃より対面で受診している等直接的な関係があり、既往歴や予防情報、健康診断結果等を把握している獣医師と定義しています(A1)。また「初診」には、診療施設において初めて診察を行う場合のほか、継続的に診療している場合の新たな症状等に対する診察(既に診断されている疾患から予測された症状等を除く)、疾患が治癒した後又は治療が長期間中断した後に再度同一疾患について診察する場合も含むとしています(A4)。農林水産省より。

では、かかりつけが休みのときはどうなるのか。指針は例外を用意しています。かかりつけの獣医師が休日夜間等で対応できないとして飼い主から依頼があった場合等には、診療前相談をするなどして必要な獣医療情報を把握し、かつ猫の状態に応じて実施可能と獣医師が判断した場合は、この限りではないとされています。この場合、獣医師は診療前相談で得た情報を診療簿に記載する必要があり、実施後は診療記録を正確かつ詳細に共有して、迅速かつ的確に対面診療につなげられる体制を整えておく必要があるとされています。

Q&Aは、かかりつけ以外の獣医師が初診からオンライン診療を行う場面として、休日夜間等でかかりつけがオンライン診療に対応できない場合や、かかりつけがオンライン診療を行っていない場合を想定しているとも述べています。

メモ

オンライン診療で完結することもあり得ますが、Q&Aは、触診等を行うことができない等の理由により診療に必要な情報が十分得られない場合もあることから、オンライン診療は対面診療と適切に組み合わせて行うことが基本だとしています。また、オンライン診療を中断して対面に切り替える場合、別の診療施設で対応することも可能とされており、その際は診療記録を正確かつ詳細に共有する必要があるとされています。

薬の処方には明確な制限がある

飼い主として一番気になるのが「薬をもらえるのか」だと思います。ここは指針がかなり具体的に線を引いています。

まず、オンライン診療全般で処方してはならないとされているのが「特に安全管理が必要な医薬品」です。Q&Aはその具体例として、人または動物に使用された場合にその機能に危害を与えるおそれがある劇薬または毒薬、生物学的製剤、ならびに麻薬および向精神薬を挙げています。生物学的製剤にはワクチン類が含まれるため、画面越しに予防接種を済ませるといったことはできません。

次に、初診に限って処方できないとされているのが、獣医師の特別の指導を必要とする医薬品や、安全性・有効性についてのエビデンスが評価されていない医薬品です。Q&Aは具体例として、要指示医薬品、承認された動物用医薬品等以外の医薬品、動物用医薬品であっても効能外のものを挙げ、要指示医薬品の多くは体重や基本的な健康状態、専門的な検査の結果等から処方の可否を判断するため、対面による診療を経て処方される必要があるとしています。

そして初診では、処方日数制限を1回7日分を限度とし、それで症状が改善しない場合は飼い主に対面での診療を促すこととされています。なお、初診をオンライン診療で実施し2度目以降もオンライン診療で実施した場合、初診の場合に制限されている薬剤処方の扱いは初診と同等に取り扱うことが妥当だとQ&Aは述べています。

医薬品の区分オンライン診療での扱い
劇薬・毒薬、生物学的製剤、麻薬・向精神薬(特に安全管理が必要な医薬品)初診・再診を問わず処方不可
要指示医薬品初診では処方不可(対面診療を経て処方される必要があるとされる)
未承認の医薬品、承認された医薬品の効能外処方初診では処方不可
上記以外の医薬品初診では1回7日分が上限。改善しなければ対面での診療を促す

農林水産省「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」は、獣医師は医薬品の処方に際して管理・投与方法・副作用・指示の遵守等について事前に十分な指導を行う等、医薬品の適正使用に努めなければならず、特に安全管理が必要な医薬品を処方してはならないとしています(3(5))。また初診においては、獣医師の特別の指導を必要とする医薬品、安全性・有効性についてのエビデンスが評価されていない医薬品等を処方してはならず、処方日数制限を1回7日分を限度とし、それで症状が改善しない場合は対面での診療を促すこととしています(3(6))。農林水産省より。

農林水産省が公開している指針の概要資料でも、「初診・再診問わずオンライン診療全般で処方不可」の区分として劇薬・毒薬・生物学的製剤・麻薬・向精神薬が、「初診のみ処方不可」の区分として要指示医薬品および未承認医薬品・承認された医薬品における効能外の処方が図示され、初診における処方日数は7日間を上限とすることが示されています。農林水産省より。

獣医師法との関係を正確に押さえる

オンライン診療であっても、獣医師法や獣医療法その他の関係法令に規定される獣医師の任務や職責を果たさなければならない、というのが指針の立場です。

獣医師法第18条は、獣医師は自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方等をしてはならないと定めています(いわゆる無診察処方等の禁止)。また第17条は、獣医師でなければ飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他政令で定めるもの)の診療を業務としてはならないと定めています。

獣医師法(昭和24年法律第186号)第18条は「獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(略)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない」と定めています。第17条は、獣医師でなければ飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る)の診療を業務としてはならないと定めています。e-Gov法令検索より。

日本獣医師会が令和4年にまとめた「愛玩動物における遠隔診療の適切な実施に関する指針」も、この第18条を関係法令として掲げ、あわせて農林水産省の過去の通知を引いて、第18条の「診察」とは触診・聴診・打診・問診・望診その他手段のいかんを問わないが、現代の獣医学的見地からみて疾病に対して一応の診断を下しうる程度の行為でなければならないと解されていることを紹介しています。手段は問わないが、診断を下しうる水準の情報が要る。これが画面越しの診療における実質的なハードルです。

北海道石狩振興局の石狩家畜保健衛生所も、愛玩動物オンライン診療指針についてリアルタイムのビデオ通話等での実施が必須であり、チャット・写真・録画動画では不可であること、産業動物向けの遠隔診療通知は愛玩動物には適用されないことを整理して公開しています。

北海道石狩振興局 石狩家畜保健衛生所の「獣医師法の概要(Topic:愛玩動物オンライン診療指針)」は、愛玩動物のオンライン診療について、リアルタイムのビデオ通話等での実施が必須でチャット・写真・録画動画では不可であること、産業動物向けの遠隔診療通知は愛玩動物には適用されないこと、カルテにはオンライン診療であることと対面診察に代替し得る程度の情報を記載する必要があることを整理しています。北海道石狩振興局より。

注意

「診察を受けずに薬だけ送ってもらう」ことは、この枠組みでは想定されていません。個人輸入した動物用医薬品や、他の猫に処方された薬の使い回しも、体重や状態に合わない量・成分で健康を損なうおそれがあります。薬については必ず獣医師の指示のもとで使ってください。

往診はオンライン診療とは別の選択肢

ここを混同している方が意外と多いのですが、往診とオンライン診療は制度上まったく別のものです。指針のQ&Aは、往診を「飼育者の求めに応じて愛玩動物が飼育されている場所に獣医師が直接赴き診療を行うもの」と説明し、オンライン診療は情報通信機器を介したやりとりで物理的な接触や直接的な診察を行わないため往診ではない、と明確に切り分けています。

猫にとっての往診の利点は、移動そのものが消えることです。往診専門獣医師の解説によれば、動物が住み慣れた環境で検査や治療を受けられること、移動時間や待ち時間がないことがメリットとされ、シニアの猫、仕事や育児で時間が取れない飼い主、移動手段がない家庭、多頭飼いの家庭、そして病院自体がストレス源になっている動物などが利用者として挙げられています。

一方で限界もはっきりしています。同じ解説は、往診では精密検査やレントゲン検査、外科手術ができないとし、往診でできることとして一般的な内科診察(視診・触診・聴診)、体重・体温測定、尿検査、糞便検査、血液検査、超音波による簡易検査、怪我の手当て、健康診断、ワクチン、点滴・注射、薬の処方を挙げています。逆にできないこととしては、レントゲン検査、超音波による精密検査、麻酔、外科手術などが挙げられています。費用面では、診察費や治療費とは別に往診料が生じ、距離に応じて設定されることが説明されています。

ペトコトの記事(獣医師・原野亮氏/ホームズ動物往診所院長)は、往診のメリットとして動物が住み慣れた環境で検査治療を受けられること、移動時間や待ち時間がないことを挙げ、デメリットとして精密検査やレントゲン検査、外科手術ができないこと、往診料が別途発生することを挙げています。往診でできることとして一般的な内科診察(視診・触診・聴診)、体重・体温測定、尿検査、糞便検査、血液検査、超音波による簡易検査、怪我の手当て、健康診断、ワクチン、点滴・注射、薬の処方を、できないこととしてレントゲン検査、超音波による精密検査、麻酔、外科手術などを挙げています。ペトコトより。

なお、往診で対応できる範囲は病院ごとに大きく異なります。設備を積んだ車で訪問する形態もあれば、内科診察中心の形態もあります。「うちの子の場合、その症状で往診は使えますか」と事前に問い合わせるのが確実です。

メモ

飼い主が動物病院へ行けない事情がある場合の選択肢として、愛玩動物看護師が飼い主と猫に対面している状況で、オンラインで獣医師の指示のもと診療の補助を行うことも、Q&Aでは一定の条件下で可能とされています。ただし予測されていない新たな症状等について新たな疾患の診断や治療を行う場合は「初診」の扱いになるとされており、どこでも受けられる体制が整っているかどうかは確認できていません。

5つの選択肢を比べる

猫の体調が気になったときに取れる手段を、指針の整理と実務の観点から並べてみます。できることの範囲は病院ごとに異なるため、あくまで枠組みの目安として見てください。

手段獣医師ができること猫の移動向く場面主な限界
一般的な相談(情報提供にとどまるもの)猫全般の一般論、受診の目安の説明なし受診すべきか迷う段階、飼い方の疑問この子の診断・処方はできない
診療前相談既往歴・予防情報・健康診断結果等の把握(初診からのオンライン診療の前段)なしかかりつけが休日夜間等で対応できないときそれ自体は診療ではない。得た情報は診療簿に記載される
オンライン診療リアルタイムの映像と音声で診察・診断、診断結果の伝達、処方(制限あり)なし経過の確認、慢性疾患のフォロー、軽微な相談触診・体温測定・採血・画像検査ができない。処方に制限。急病急変は対面が基本
往診内科診察、体重・体温測定、尿・糞便・血液検査、簡易な超音波、点滴・注射、処方など(病院により異なる)なし通院が難しいシニア猫、キャリーが苦手な子、多頭飼い、移動手段がない家庭レントゲン、精密な超音波、麻酔、外科手術、入院はできない。往診料が別途
来院(対面診療)全身の身体検査、画像検査、麻酔下の処置、手術、入院管理まであり診断を確定したいとき、緊急時、処置や手術が必要なとき移動と待ち時間のストレスがかかる

表を横に読むと、猫の移動ストレスが小さい手段ほど、獣医師が得られる情報が少ないという関係が見えてきます。指針が繰り返し「対面診療と適切に組み合わせて行うことが基本」としているのは、まさにこのトレードオフがあるからです。

画面越しで様子を見てはいけないサイン

もっとも大切なのがここです。指針も、飼育動物の診療中における急病急変への対応は直接の対面診療が基本であり、獣医師は飼い主が速やかにアクセスできる診療施設において直接の対面診療を行える体制を整えておく必要があるとしています。飼い主の側でも、画面越しで粘ってはいけない状態を知っておく必要があります。

注意

次のような様子があるときは、オンラインや往診の手配より前に、動物病院へ連絡してすぐに来院してください。夜間であれば救急対応の動物病院へ。

  • 口を開けて呼吸している、舌の色が紫色や青紫色になっている、お腹を大きく動かして苦しそうに呼吸している
  • 尿がまったく出ない、トイレに何度も行くのに出ない(とくにオス猫)
  • けいれんが止まらない、呼びかけに反応しない、意識がない、ぐったりして動かない
  • 出血が止まらない
  • 中毒のおそれがあるもの(人用の薬、ユリ科の植物、ネギ類、チョコレート、ぶどうなど)を口にした、異物を飲み込んだ
  • 頻繁な嘔吐が続く、急にお腹が張ってきた、難産

日本動物医療センターは、猫の緊急疾患として呼吸速迫、糖尿病性ケトアシドーシス、尿道閉塞、異物・中毒、急性腎不全、仔猫の下痢・嘔吐、痙攣発作を挙げています。とくに尿道閉塞については、特に雄猫に多く見られ、まったく尿が出ない状態が続くと急性腎不全や尿毒症になり、無治療だと数日で重篤化し死に至るとしています。呼吸については、口をあけて呼吸をしているときは注意が必要で、舌が青紫色になっているときは十分に酸素が取り込めていない可能性があるとし、正常な呼吸数の目安を1分間で15〜30回程としています。

日本動物医療センターは、猫の緊急疾患として呼吸速迫、糖尿病性ケトアシドーシス、尿道閉塞、異物・中毒、急性腎不全、仔猫の下痢・嘔吐、痙攣発作を挙げています。呼吸速迫については、口をあけて呼吸をしている時は注意が必要で強い痛み・ストレス、あるいは呼吸・循環器疾患の重篤化のサインであること、舌が青紫色になっている時は十分に酸素が取り込めていない可能性があること、正常呼吸数は1分間で15〜30回程が目安であることを説明しています。尿道閉塞については、特に雄猫に多く見られ、全く尿がでない状態が続くと急性腎不全や尿毒症になり、無治療だと数日で重篤化し死に至るとしています。日本動物医療センターより。

ノヤ動物病院は、猫の呼吸器症状のうち重度のサインとして、口を開けて呼吸をする、舌の色が紫色になる、お腹を大きく動かしながら呼吸するといった様子を挙げ、舌の色が変わっている場合は身体の中の酸素が足りなくなっているためとても危険な状態で、そのまま放置すると突然死に至ることもあるためすぐに動物病院を受診するよう促しています。ノヤ動物病院より。

ガーデン動物病院は、夜間救急受診が必要な症状として、けいれん・発作が止まらない、血が止まらない、意識がない・ぐったりしている・いつもより明らかに元気が無い、難産、頻繁な嘔吐、呼吸が苦しそう、急にお腹が張ってきた、誤食を挙げています。ガーデン動物病院より。

尿が出ないときの緊急性については

もあわせて確認してみてください。

使うときの実務チェック

オンライン診療・往診を検討する前に確認したいこと

  • まずかかりつけの動物病院がオンライン診療や往診に対応しているかを確認する(指針はかかりつけの獣医師が行うことを基本としています)
  • 対応している場合、どの症状・どの段階なら画面越しで受けられるのか、その病院の運用を聞いておく
  • 予約方法、当日の流れ、所要時間、費用の考え方を事前に確認する(費用は動物病院ごとに異なります)
  • リアルタイムの映像と音声でやりとりできる通信環境と、猫が映る明るさを用意する(指針は通信が不安定な場合はオンライン診療を行わないとしています)
  • 直近の体重、食事量と飲水量、排泄の回数と様子、症状が始まった日時、投薬中の薬を書き出しておく
  • 歩き方や呼吸の様子など、当日は出ないかもしれない症状は事前に動画で撮っておくと伝わりやすい(ただし動画のみのやりとりで診療は完結できません)
  • オンライン診療の結果や説明を、あとから見返せる形(文書やメール)で受け取れるか確認しておく
  • 急変したときにすぐ行ける対面の動物病院と、夜間救急の連絡先を控えておく

このうち通信環境と記録については、指針にも根拠があります。指針は、ネットワークが不安定でオンライン動画が途切れる等、適切な診療が困難な場合はオンライン診療を行わないこととしています。またQ&Aは、オンライン診療を実施する旨の合意やその際の説明、実施可否についての獣医師の判断は診療録等に記載したうえで、情報を正確に伝えるために診療の結果とともに文書やメール等で飼い主に伝えることが望ましいとしています。

ヒント

指針は、オンライン診療は飼育者がその実施を求める場合に実施されるべきもので、獣医師側の都合のみで行ってはならないとしています。また、飼い主が受けるメリットと生じるおそれのある不利益等のデメリットについて事前に説明するなど、インフォームド・コンセントを徹底する必要があるとしています。説明が足りないと感じたら、遠慮なく質問して構いません。
16歳の子が慢性の病気で通院していますが、片道30分の車移動のあと2日くらい食欲が落ちるのが悩みでした。かかりつけに相談したところ、検査が必要な日は来院、経過を見るだけの日は画面越し、という組み合わせで様子を見ることになりました。採血の日はどうしても連れて行きますが、月に何度も往復していた頃よりは、家での過ごし方が落ち着いています。

シニア期の健康管理では、どの検査をどの頻度で受けるかという設計そのものが重要になります。来院が必要な検査と、画面越しでも足りる確認を仕分けておくと、通院の回数そのものを見直しやすくなります。

オンライン診療なら、初めての病院でもすぐに診てもらえますか。
指針は、初診からのオンライン診療は原則として「かかりつけの獣医師」が行うこととしています。例外として、かかりつけが休日夜間等で対応できないとして飼い主から依頼があった場合等には、診療前相談をするなどして必要な獣医療情報を把握し、猫の状態に応じて実施可能と獣医師が判断した場合は、この限りではないとされています。Q&Aは、かかりつけ以外が初診からオンライン診療を行う場面として、休日夜間等でかかりつけがオンライン診療に対応できない場合や、かかりつけがオンライン診療を行っていない場合を想定しているとしています。まずはかかりつけに相談するのが基本です。
写真やチャットで症状を送って診断してもらうことはできますか。
できません。指針は、オンライン診療を文字、写真あるいは録画動画のみのやりとりで行わないこととしており、Q&Aも、対面診療の代替として認められているオンライン診療は映像と音声を用いてリアルタイムで行うもので、チャット・写真・録画動画などのみによる診療は認められないと明記しています。事前に送る資料としては役立ちますが、それだけで診療は完結しません。
オンライン診療で薬を出してもらえますか。
医薬品によります。劇薬・毒薬、生物学的製剤、麻薬・向精神薬といった特に安全管理が必要な医薬品は、オンライン診療では処方してはならないとされています。加えて初診では、要指示医薬品や、承認された動物用医薬品等以外の医薬品、効能外の処方も行わないこととされ、処方日数は1回7日分が上限で、改善しない場合は対面での診療を促すこととされています。何が処方できるかは症状と医薬品の区分によって変わるため、獣医師の判断に従ってください。
往診とオンライン診療、猫にはどちらが向いていますか。
目的によって変わります。触診や体温測定、採血、簡易な超音波検査など体に触れる診察が必要ならオンライン診療では代替できないため、往診か来院が必要です。逆に、経過の確認や生活面の相談が中心であればオンライン診療で足りることもあります。往診はQ&Aで「飼育者の求めに応じて愛玩動物が飼育されている場所に獣医師が直接赴き診療を行うもの」と整理され、オンライン診療とは別の手段とされています。レントゲンや精密な超音波検査、麻酔を伴う処置、入院は往診では行えないため、その場合は来院が前提になります。
オンライン診療や往診の費用はペット保険の対象になりますか。
保険会社と商品ごとに異なります。ペット保険の補償範囲は各社の約款で定められており、業界共通の決まりがあるわけではありません。ただし近年は動きもあり、たとえば第一アイペット損害保険は2026年6月29日付で公表した商品改定で、オンライン診療および獣医師の指示に基づき適正に行われる対象ペットの同伴を伴わないお薬の処方等を新たに通院補償の対象とし、既存の契約も含めて2026年10月2日以降の診療分から適用するとしています。ただしこれは1社の例で、他社・他商品の扱いは各社の約款によります。往診の扱いを明示した公開情報は確認できていません。加入している保険会社に直接問い合わせて確認してください。なお、往診については診察費や治療費とは別に往診料が生じ、距離に応じて設定されることが一般的だと説明されています。
オンライン診療しかしていない病院というのはあり得ますか。
Q&Aは、オンライン診療であっても獣医師が飼育動物の診療の業務を行う施設は診療施設として開設届出が必要だとしています。また指針は、獣医師は獣医療法第3条の規定に基づき開設の届出がなされた飼育動物診療施設に所属し、その所属と当該診療施設の問合せ先を明らかにしておく必要があるとしています。利用の前に、どの診療施設に所属する獣医師なのか、問い合わせ先はどこかを確認しておくと安心です。実際にどのような形態の施設が運営されているかについては、確認できていません。

まとめ

猫のオンライン診療は、通院ストレスという猫特有の事情に対して確かに有効な選択肢のひとつです。ただし国の指針を読むかぎり、それは対面診療を置き換えるものではなく、対面と適切に組み合わせて使うものとして設計されています。リアルタイムの映像と音声が必須で、初診は原則かかりつけ、処方には明確な制限があり、急病急変への対応は直接の対面診療が基本。この4点を押さえておけば、期待とのずれはかなり減るはずです。

そして、体に触れる診察が必要なら往診、画像検査や麻酔を伴う処置、入院が必要なら来院と、猫の移動ストレスを減らす手段には情報量とのトレードオフがあることも忘れないでください。呼吸が苦しそう、尿が出ない、けいれん、意識がない、中毒の疑い。こうしたサインがあるときは、画面の前で迷わずに動物病院へ向かってください。移動のストレスを避けることより、治療の時間を確保することのほうが優先されるべき場面が、確かに存在します。

まずはかかりつけの動物病院に「オンラインや往診に対応していますか」と一度聞いてみるところから。選択肢を先に知っておくことが、いざというときに猫にとって一番やさしい判断につながります。

出典・参考

この記事をシェア

関連する記事

しつけ・問題行動

猫が動物病院・通院を嫌がる|キャリーに入らない理由と克服のコツ

猫が通院や動物病院を嫌がるのは、縄張りの外へ出る不安や「キャリー=嫌なこと」という記憶が背景にあります。日ごろのキャリー慣らし、入れやすいキャリー選び、当日と移動中の工夫、フェロモン製品や往診の選択肢、そしてやってはいけない関わり方まで、獣医師監修の情報をもとに整理しました。

健康・病気・ケア

猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは|特発性膀胱炎・尿路結石のサインと家庭でできる予防

猫に多い下部尿路疾患(FLUTD)は、特発性膀胱炎や尿路結石などをまとめた膀胱・尿道の病気の総称です。受診の目安になる排尿のサイン、命に関わる尿道閉塞の緊急性、そして水分・トイレ環境・体重管理といった家庭でできる予防を、出典を確認しながら落ち着いて整理します。