その猫動画、本当に「じゃれ合い」ですか|2026年の研究が示した拒否のサインと、家での見分け方
対象の目安: 全ライフステージ

タイムラインを流れてくる猫の動画。飼い主が手をワシャワシャ動かし、猫が耳を伏せて口を開け、前足で押し返す。コメント欄は「かわいい」「じゃれてる」で埋まっている。わたしも以前は同じように笑って見ていました。けれど2026年に公表されたある研究を読んでから、その笑いが少し止まるようになりました。動画に写っている猫の多くは、遊んでいたのではなく、拒否していたかもしれないからです。この記事は、その研究を一次情報に沿って読み解きながら、自宅の遊びで同じ勘違いをしないための見分け方に落とし込みます。
「猫が同意していない遊び」を分析した研究
研究のタイトルは「Exploring Viewer Perceptions of Videos Depicting Cat-Dissented "Play" and Their Potential to Contribute to Harmful Interactions」。直訳すれば「猫が拒否している『遊び』を写した動画に対する視聴者の受け止め方と、それが有害なやりとりを助長する可能性の探索」です。2026年にAnthrozoös誌で公表されました(DOI: 10.1080/08927936.2026.2708478)。筆頭著者はJulia Sophie Lyn Henning氏で、所属はアデレード大学の動物獣医科学部(School of Animal and Veterinary Sciences)です。
研究チームは、YouTube・TikTok・Instagram・Facebook上で公開されていた動画のうち、投稿者自身が「遊び(play)」とラベルを付けており、かつ猫の明確な苦痛のサインが写っているものを11本集めました。サインの内訳は、シャー(hissing)、噛みつき、その場から逃げようとする動き、そして人に目に見えるケガを負わせる、といったものです。プレスリリースによれば、やりとりの中で猫自身が身体的に傷つけられている場面を含む動画もありました。
そのうえで、各動画に付いたコメント計1,100件を、reflexive thematic analysis(内省的テーマ分析)という質的研究の手法で分析しています。
結果は、はっきりしていました。これだけのサインが写っていたにもかかわらず、全動画でコメントの75〜93%が、そのやりとりに対して肯定的だったのです。しかも、11本のうち7本では人のケガが観察できたにもかかわらず、コメント欄ではそれも軽く扱われていました。
コメントは「拒否」をどう読み替えていたか
分析で浮かび上がった9つのテーマが、この研究のいちばん面白いところです。単なる読み違いではなく、拒否を積極的に別の意味へ置き換える語り口が並びます。
| テーマ | 中身 |
|---|---|
| 本当に嫌ならわかるはず | 嫌なら逃げるはず、もっと強く抵抗するはず、という思い込み |
| 伝わっていない | 猫のサインそのものを別の意味に取り違える |
| 猫はわかっている | 人が本気ではないと猫は理解している、という前提 |
| そのうち慣れる | 嫌がっても続ければ最後には受け入れる、という信念 |
| これが猫の愛情 | 噛む・引っかくを愛情表現として美化する |
| 内なるハンターを満たす | 狩猟本能の発散だから必要なのだ、という正当化 |
| だってかわいい | かわいさが他のシグナルを上書きする |
| 笑えるからいい | 猫の苦痛そのものを面白がる |
| 口出しはお呼びでない | 懸念を書いた人を「猫を知らない人」として退ける |
飼い主として耳が痛いのは、上から4つ目までがそのまま自宅の遊びにも当てはまることです。「うちの子は本気で嫌なら逃げるから」「じゃれてるだけだから」「慣れれば平気になるから」。この3つの言い分は、そっくりそのまま動画のコメント欄にありました。
アデレード大学の発表は、コメントの多くが単なる誤読を超えて、認知的不協和とその低減のためによく使われる対処(否認・軽視・防衛的になること)を示していたと述べています。さらに、猫の性別に関係なく猫へ向けられる女性蔑視的な表現や、「なぜ逃げなかったのか」「なぜ抵抗しなかったのか」といった、親密な関係における暴力の被害者を責める言い回しとの並行性にも触れています。かなり踏み込んだ指摘です。
メモ
「逃げないから同意」は成り立たない
この研究の核心を一文にすると、こうなります。猫が逃げないこと、強く抵抗しないことは、猫が同意している証拠にはならない。
なぜなら、猫の拒否表明はもっと手前から始まっているからです。研究チームは、猫の初期の拒否シグナルが認識されなかったり無視されたりすると(この研究に含まれたすべての動画がそうでした)、猫は急性のストレスを経験し、望まないやりとりが繰り返されればそれが慢性化しうる、と書いています。慢性化すれば健康と福祉に深刻な結果をもたらしうる、とも。
International Cat Care(英国拠点の猫の福祉団体)が示す基準も、同じ方向を向いています。同団体は、猫にやさしいやりとりとは猫が主導するものであり、猫が「耐えられること」ではなく「望んでいること」に焦点を当てたときにはじめて成立する、としています。耐えている状態を同意と読み替えないこと。動画でも自宅でも、判定基準はこれ一本です。
撫でる場面での「やめどき」については、こちらでより詳しく整理しています。遊びの場面と共通する部分が多いので、あわせて読んでみてください。
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猫が喜ぶ撫で方|好かれる場所・触られたくない場所と、やめどきのサインの読み方
人は、猫の拒否をどれくらい見分けられないのか
「自分は動画のコメント欄の人たちとは違う」と思いたくなりますが、同じ研究チームが2025年にFrontiers in Ethology誌へ発表した別の研究が、その自信をやんわり崩してきます。
オーストラリア在住の成人368名に、人と猫のやりとりの動画を見せ、猫の様子を「全体として肯定的」「全体として否定的」「わからない」の3つから選んでもらった無作為化比較試験です。参加者の多くは猫と長く暮らしており、猫と暮らした年数の中央値は20年でした。
結果はこうです。シャーやうなりのようなはっきりした否定的サイン(overt)の動画を、正しく「否定的」と判定できた割合は76.7%。悪くない数字に見えますが、裏を返せば、明らかに嫌がっている猫の約4頭に1頭が読み違えられていたことになります。そして、動きが小さくじっくり見ないとわからない微妙なサイン(subtle)になると、この数字は48.7%まで落ちました。研究チーム自身も、これを偶然に近い水準(approximating chance)と評しています。
さらに厳しいのが「わかっていても手を出す」という結果でした。微妙な否定的サインを正しく否定的と判定できた人のうち、44.4%が、それでもその猫に関わっていく(触る・遊びを続けるなど)選択肢を選んでいます。研究チームはこれを認識と行動のギャップ(recognition-response gap)と呼んでいます。
もうひとつ、教育の難しさを示す結果もあります。2分半の解説動画を見せた群は、全体の成績はわずかに改善した一方で、微妙な否定的サインの判定はかえって悪化しました。研究チームは、猫のボディランゲージの読み方を正すだけの短い教育介入は、長期的な行動の変化には不十分か、場合によっては逆効果になりうると結論づけています。
注意
猫の「もうやめて」のサイン
見分けの精度を上げるより先に、リストを手元に置いておきましょう。はっきりしたものと、見落とされやすいものを分けて挙げます。
はっきりした拒否のサイン(すぐ中断する)
- シャー(威嚇音)、うなり、低い声で鳴く
- 口を開けて噛む、前足で強く押し返す・叩く
- 背中の毛が逆立つ(立毛)、体を大きく反らす
- 身をよじる、腕や手から抜け出そうとする
- その場から離れる、逃げ場へ向かう
見落とされやすい拒否のサイン(ここで止めたい)
- 耳を横に回転させる・後ろへ伏せる(いわゆるイカ耳)
- しっぽを速く左右に振る、先だけを小刻みに打ちつける
- 背中の皮膚がさざ波のように波打つ
- 追いかけるのをやめて体がこわばる、動きが止まる(フリーズ)
- おもちゃではなくこちらの手のほうへ顔をさっと向ける、鼻をなめる、短く頭を振る
- 遊びを中断して急に短く激しく毛づくろいを始める
とくに厄介なのが、行動が「増える」のではなく「消える」タイプのサインです。2022年のAAFP(米国猫獣医師会)とISFM(国際猫医学会)の合同ガイドラインも、抑制(inhibition)は受動的な反応であるがゆえに、猫と接している人にしばしば気づかれないと指摘しています。じっと動かない猫は、受け入れているのではなく固まっているのかもしれない。動画のコメント欄で「されるがままでかわいい」と書かれがちな場面が、まさにここです。
しっぽ・耳・瞳孔など、部位ごとのサインの読み方はこちらにまとめてあります。
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猫の気持ちの読み方|しっぽ・耳・目・ゴロゴロ・スリスリが表すサイン
自宅の遊びで同じ勘違いをしないための手順
読み取りの精度に頼らず、手順で安全側に倒します。
- 1
手や足をおもちゃにしない
これが最大の予防です。猫じゃらしなど棒状のおもちゃを間に挟み、人の皮膚と爪・歯の距離を保ちます。手でじゃれさせて育てた猫は、成長後も人の手を獲物として狩り続ける可能性があります。 - 2
狩りの流れを最後まで通す
探す、忍び寄る、追う、飛びかかる、捕まえる。この一連を途切れさせないことが満足感につながります。レーザーポインターは「捕まえる」が欠けるため、最後は実体のあるおもちゃに切り替えて終わらせます。 - 3
短く、こまめに
猫は長距離走者ではなく短距離走者です。1分の全力が良い結果、という水準で考え、1回を長引かせるより回数を増やします。 - 4
10秒に一度、手を止める
遊びの最中に短く動きを止め、猫が自分から向かってくるかを見ます。向かってくれば続行、来なければ終了。読み取りが苦手でも、猫の選択そのものが答えを教えてくれます。 - 5
興奮が上がりきる前に降ろす
瞳孔が開ききる、しっぽが速く振れる、動きが荒くなってきたら、そこがピークの手前です。おやつや食事に切り替えて、静かに終わらせます。
遊びをやめる、が答えではない
ここまで読むと「遊ばないほうが安全なのでは」と思えてきますが、それは逆です。同じHenning氏らが2023年にAnimal Welfare誌へ発表した研究は、55か国1,591名の飼い主の回答を分析し、猫の遊び好き度スコアの高さと、遊ぶゲームの種類の多さが猫のQOL(生活の質)の高さと有意に関連していたこと、1日の遊び時間の長さやゲームの種類の多さ、猫と飼い主の双方が遊びを始めることが、猫と飼い主の関係性スコアの高さと関連していたことを報告しています。遊びがない場合には、苦痛に関連する行動の変化が報告されたともあります。
つまり、必要なのは「遊びを減らすこと」ではなく「猫が主導する遊びに変えること」です。猫じゃらしを使った具体的な動かし方は、こちらにまとめています。
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猫が夢中になる猫じゃらしの遊ばせ方とコツ
人のケガも「かわいい」で流さない
Anthrozoös誌の研究では、11本のうち7本で人の受傷が観察できました。コメント欄ではそれも軽く扱われがちでしたが、猫の咬み傷は見た目より侮れません。済生会は、パスツレラ属菌が猫の口腔内に100%近く常在しており、咬まれたり引っかかれたりすると早ければ数時間で傷口に発赤や腫脹が現れるとしたうえで、まず傷口をよく洗浄して病院を受診すること、症状が出たら様子を見ずに早めに受診して動物との接触があったことを医師に伝えることをすすめています。
研究チームも、猫の拒否を尊重することと並べて、猫の咬み傷・引っかき傷が人にとって深刻な健康リスクになりうることを公衆に伝える必要がある、と結論に書いています。猫のためだけの話ではない、ということです。
SNSに猫の動画を上げる前に
この研究がもうひとつ指摘しているのが、プラットフォーム側の構造です。研究チームは、ソーシャルメディアが、問題のある内容かどうかにかかわらずエンゲージメントに報酬を与えるアルゴリズムを通じて、こうした受け止め方を増幅しうると述べています。そして、そうした動画の数と人気が、「猫にとって何がOKで何が楽しいのか」という人々の感覚に影響し、有害なやりとりを常態化させうる、とも。
自分の猫の動画を投稿するとき、判断はシンプルにできます。投稿前に音を消して見返し、耳・しっぽ・瞳孔・皮膚・体の向きだけを見る。撮影中は笑っていたのに、無音で見ると猫が固まっている、耳が倒れている、逃げようとしている。それに気づいたら、その1本は公開しない。伸びる動画ほど、同じやり方を真似する人が増える構造になっているからです。
ヒント
よくある質問
この研究は「猫の動画を見るのをやめよう」と言っているのですか
うちの猫は嫌なら逃げるので、逃げない時は楽しんでいると考えていいですか
遊びの途中で噛まれます。叱ったほうがいいですか
猫のサインの読み方を勉強すれば見分けられるようになりますか
以前は喜んでいた遊びに乗ってこなくなりました。おもちゃを変えれば済む話でしょうか
まとめ
2026年にAnthrozoös誌へ公表されたアデレード大学の研究は、シンプルだけれど居心地の悪い事実を示しました。投稿者が「遊び」と呼んだ11本の動画には、シャーも噛みつきも逃走も、人の受傷まで写っていた。それでもコメントの75〜93%は、そのやりとりを肯定していた。
視聴者は嘘をついていたわけではありません。「本当に嫌なら逃げるはず」「猫はわかってやっている」「そのうち慣れる」。9つのテーマとして整理されたこれらの語りは、悪意ではなく、わたしたちが猫との関係を思い描くときの標準的な枠組みそのものです。だからこそ、そのまま自宅にも持ち込まれます。
覚えて帰る一文はこれです。逃げないことも、強く抵抗しないことも、同意の証拠にはならない。猫の拒否は、耳の角度や、しっぽの速さや、動かなくなることから始まっています。
そして、読み取りに自信がなくてもできる対策があります。手や足で遊ばせない。棒状のおもちゃを間に挟む。狩りの流れを最後まで通す。短く、こまめに。10秒に一度、手を止めて猫に選ばせる。同じ研究チームの調査が示したとおり、人は微妙なサインの判定が驚くほど苦手です。それなら、読み取りの腕前ではなく、猫が「もう一回」を自分で選べる余白のほうに頼りましょう。遊びをやめる必要はまったくありません。むしろ遊びは、猫のQOLと、猫との関係の質に良い方向で関連しています。変えるのは量ではなく、誰が主導するか、です。
出典・参考
- The internet can't get enough of cats, but cats might have had enough of the internet(アデレード大学発、Phys.org、2026年8月12日)
- We're Not Taking Harmful Cat Behaviors on The Internet Seriously Enough, Researchers Warn(ScienceAlert、2026年8月20日)
- Do you speak cat? Assessing the impact of a training video on human recognition of cat emotions and behaviours during play interactions(Henning JSL, Nielsen T, Hazel S, Atkinson PJ. Frontiers in Ethology 4巻、2025年9月24日)
- Cats just want to have fun: Associations between play and welfare in domestic cats(Henning Jら、Animal Welfare 32巻e9、2023年、PMC全文)
- Cat Friendly Interaction(International Cat Care)
- Playing with your cat(International Cat Care、2025年9月26日更新)
- 2022 AAFP/ISFM Cat Friendly Veterinary Interaction Guidelines: Approach and Handling Techniques(PMC全文)
- 問題行動解決のためにも大切な猫の「遊び」(ONELife行動クリニックグループ)
- パスツレラ症(社会福祉法人 恩賜財団 済生会)
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