猫の「腸」と「腎臓」はつながっている?|2026年9月に相次いだ腸内環境と腎機能の新知見を落ち着いて読む
対象の目安: 全ライフステージ


2026年9月は、猫の「おなか」と「腎臓」をつなげて考える発表が続いた月でした。9月3日に不二製油と岩手大学が大豆由来の難消化性タンパク質をめぐる共同研究の成果を、9月中旬には大正製薬が2種類の菌の継続摂取に関する学会発表の内容を公表しています。どちらも「腸内環境を整えることが腎機能の維持につながるかもしれない」という方向を向いた報告で、腎臓病を抱える猫と暮らす方にとっては気になる話題だと思います。ただし、いずれも数頭から十数頭規模の予備的な結果で、今すぐ家庭で再現できる治療法が示されたわけではありません。この記事では、発表元の資料で確認できた範囲に絞って内容を整理し、そのうえで今日から家庭でできることに話をつなげます。数値の評価や治療・サプリメントの判断は、必ずかかりつけの動物病院で行ってください。
そもそも「腸腎連関」とは何を指す考え方か
近年、人の医療でも動物の分野でも「腸腎連関(ちょうじんれんかん)」という言葉を見かけるようになりました。おおまかにいえば、腸内細菌のバランスと腎臓の状態が互いに影響し合っているのではないか、という考え方です。
説明としてよく使われるのが、腸内で作られる腐敗産物の話です。タンパク質が大腸で細菌に分解されると、アンモニアやパラクレゾール、インドールといった物質ができます。こうした物質の一部は腸から吸収され、最終的に腎臓から排泄されます。腎臓の働きが落ちると排泄が追いつかず体内にたまり、それがさらに体に負担をかける、という循環が想定されています。そこで「腸で作られる腐敗産物を減らせば、腎臓の負担も軽くなるのではないか」という発想が生まれます。今回の2つの発表は、どちらもこの発想の延長線上にあります。
メモ
発表1: 不二製油と岩手大学の難消化性大豆タンパク質「MAM」
何が発表されたのか
2026年9月3日、不二製油と岩手大学が、ダイズ由来の難消化性タンパク質をネコに投与したところ腎機能の改善がみられた、という共同研究の成果を発表しました。不二製油の公式ニュースリリースによると、役割分担は岩手大学(獣医学部共同獣医学科)が臨床試験の実施、不二製油がMAMの製造および試験用フードの提供です。日経バイオテクの記事(2026年9月上旬公開)では、研究チームがこの難消化性タンパク質はネコの腸内細菌叢の変化を介して腎機能を改善させた可能性がある、と考察していると報じられています。
素材の名前は「MAM(マム)」で、Microbiota Accessible Macropeptideの略です。公式リリースによれば、大豆たん白由来の難消化性成分で、大腸まで到達して腸内環境に作用することが期待される素材だと説明されています。日本経済新聞の記事でも、一般的なたんぱく質に比べて消化されにくく、小腸で吸収されずに大腸まで届く性質を持つ素材だと説明されています。
報告された試験の規模と結果
不二製油の公式ニュースリリースによると、対象は臨床上健常な猫2頭と慢性腎臓病(CKD)ステージ2の猫5頭の計7頭で、MAMと市販のペットフードを30日間給与し、血液検査、尿検査、糞便分析を実施しています。結果として、全頭で血中クレアチニン値が低下し、慢性腎臓病の猫3頭で病期の改善、糞便中の腐敗産物の減少、血中尿毒素の低下、便臭の改善が認められたと報告されています。
数字としてはインパクトがありますが、7頭という規模は予備的な検討にあたります。プラセボ(偽薬)を与える対照群を置いた比較なのか、査読を経た論文としてどこまで公表されているのかは、公式リリースにも記載がなく、本記事で確認できた範囲では分かりませんでした。この点は未確認として扱います。
同じ系統の素材を扱った原著論文はもう少し控えめな書き方
同じ系統の難消化性大豆タンパク質については、ペット栄養学会誌29(1):15-22(2026年)に「難消化性大豆タンパク質によるネコの腎臓および下部尿路ケアの可能性」という原著論文が掲載されています。なお、この論文の抄録に「MAM」という名称は出てきません。素材は分離大豆タンパク質(SPI)を特定のプロテアーゼで分解して得た難消化性大豆タンパク質と記載されており、9月に発表されたMAMと同一の素材かどうかは本記事では未確認です。想定されている機序も、論文では大豆リン脂質による腎臓での抗炎症効果であり、9月の発表で語られた腸内細菌叢を介した経路とは別の説明になっています。著者は平野啓太氏、太田聡氏、橘伸彦氏で、所属は不二製油グループ本社株式会社未来創造研究所です。J-STAGEで全文PDFが公開されており、2025年9月29日受理、2026年4月10日発行と記載されています。
この論文で報告されているのは2つの試験です。
| 試験 | 頭数 | 期間 | 与えた量 | 主な測定指標 |
|---|---|---|---|---|
| 試験1 | 10頭 | 7日間 | 1g/頭/日 | 尿素窒素、クレアチニン、尿タンパク、尿pH、ストルバイト結晶 |
| 試験2 | 8頭 | 30日間 | 0.2g/kg体重/日 | 尿素窒素、クレアチニン、SDMA(対称性ジメチルアルギニン) |
結果として、どちらの試験でも腎機能マーカーは基準範囲内を維持し、試験1では一般観察における有害事象、試験2ではその他の異常所見が認められなかったと報告されています。試験1では、臨床上健康な猫を対象としたにもかかわらず開始前に一部で尿タンパクやアルカリ尿、ストルバイト結晶がみられましたが、試験終了時にはそれらの所見は認められなかったとされています。論文は2つの試験結果から、この素材が腎臓に大きな負担をかけることなく、アルカリ尿を中性化することで下部尿路における尿結石の生成リスクを低減する可能性を示唆した、と結論しています。腎臓そのものというより、下部尿路ケアに軸足のある結論です。
注目したいのは、この論文の書き方が「悪化させなかった・安全だった」という方向で、9月の発表で強調された「改善した」という表現とはトーンが異なる点です。論文の試験は不二製油の研究者によるもので、試験1・試験2ともに対象はいずれも臨床上健康な猫です。一方、9月に発表された岩手大学の試験はCKDステージ2の猫を含む別の試験です。同じ素材でも、対象とする猫の状態が違えば見え方は変わります。ニュースの見出しだけで判断せず、どの試験の話なのかを分けて読むのが安全です。
今すぐ買えるのか
買えません。不二製油の公式ニュースリリースに実用化や採用の時期は記載されておらず、「今後の展開」として研究を進める旨が書かれているだけです(日本経済新聞は2027年度のペットフードメーカー採用を目指すと報じていますが、有料記事のため本記事では内容を確認できていません)。いずれにせよ現段階では、ペットフードや療法食に配合される「原料」として研究開発が進んでいる段階で、飼い主が店頭で選べる製品になっているわけではありません。「大豆たんぱくが腎臓によいらしい」と解釈して、人用の大豆食品を猫に与えるような応用も避けてください。MAMは特定の加工を経た難消化性成分であり、一般的な大豆製品とは別のものです。
注意
発表2: 大正製薬のビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13
何が発表されたのか
2026年9月15日、大正製薬が「猫の腸内環境改善が腎機能維持に寄与する可能性」と題したプレスリリースを公表しました(日経バイオテクのプレスリリース欄への掲載は9月17日)。内容は、第169回日本獣医学会学術集会(2026年9月8日から11日開催)での発表にもとづくものです。
報告された試験の規模と結果
プレスリリースによると、対象は健康な猫17例で、ビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13を56日間継続摂取させています。結果として、血中尿素窒素(BUN)が摂取前と比較して28日後および42日後に有意に低下したこと、複数の細菌群の構成割合、つまり腸内菌叢の構成に変化が確認されたことが報告されています。また、腸内腐敗産物であるアンモニアとパラクレゾールの減少は過去の研究で確認済みとされています。ここでいう過去の研究は、同社が2026年7月14日に公表した「ビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13による猫の腸内環境改善作用を確認」のリリースで、同じ猫17例を対象にした試験です。そちらでは56日間の継続摂取で腸内菌叢の有意な変化、糞便中アンモニアとパラクレゾールの有意な減少、便臭スコアの低下が報告されています(日本ペット栄養学会第27回年次大会で発表)。
同社はこの2つの菌株について、さらにさかのぼる2025年7月24日に「犬の腸内環境を改善することを確認」というリリースも出しています。犬での検討から猫の腸内環境、そして今回の腎機能関連指標へと段階的に検討を広げてきた流れが読み取れます。
この結果の読み方
押さえておきたい点が3つあります。
1つ目は、対象が健康な猫17例だということです。腎臓病の猫で治療効果を確かめた試験ではありません。「腎機能維持に寄与する可能性」という表現は、あくまで可能性の提示です。
2つ目は、BUNという指標の性質です。BUNは血液中の尿素窒素の量で、腎機能の指標のひとつとして使われますが、食事に含まれるタンパク質の量や脱水、消化管内の出血などでも変動します。腸内での尿素の処理が変われば、腎臓の働きそのものが変わらなくてもBUNが動くことはありえます。プレスリリースではクレアチニンやSDMAといった他の腎機能指標の結果には言及がなく、本記事では未確認です。
3つ目は、発表形態です。学会発表の段階であり、査読を経た原著論文として公表されているかどうかは、本記事で確認した資料の範囲では分かりませんでした。学会発表は速報性が高い一方、論文化の過程で解釈が変わることもあります。
2つの発表に共通する「読み方の注意点」
新しい研究ニュースを読むときのチェックポイント
- 何頭を対象にした試験か(7頭、17頭のような規模は予備的な段階)
- 対象は健康な猫か、病気の猫か
- 比較する対照群やプラセボがあるか
- 期間はどれくらいか(7日、30日、56日は短期の評価)
- 見ている指標は何か(BUNだけか、クレアチニンやSDMAも見ているか)
- 査読を経た論文か、学会発表か、プレスリリースのみか
- 製品として買えるのか、原料や研究段階か
この7点に当てはめると、今回の2つの発表はどちらも「規模が小さく、期間が短く、健康な猫または少数の患猫を対象にした、初期段階の報告」だと分かります。方向性としては興味深く、今後の研究に期待したい内容ですが、いま治療方針を変える根拠にはなりません。
家庭で今日からできること
研究の進展を待つあいだにも、飼い主にできることはあります。むしろ、こちらのほうが確実に役に立ちます。
- 1
飲水量をざっくり記録する
毎日きっちり量る必要はありません。給水器に入れた量と残った量を週に2、3回メモするだけでも、増減の傾向が見えます。多飲多尿は腎臓のトラブルで早めに出やすい変化のひとつです。 - 2
体重を月1回はかる
猫用の体重計でなくても、抱っこして一緒に乗り、自分の体重を引く方法で十分です。ゆるやかな体重減少は見た目では気づきにくく、数字が最初に教えてくれます。 - 3
尿のかたまりの大きさと回数を見る
猫砂のかたまりが急に大きくなった、回数が増えた、逆にトイレに行っても少ししか出ていない。こうした変化は腎臓や下部尿路のサインになりえます。 - 4
定期健診に尿検査を加えてもらう
血液検査だけでなく尿検査、とくに尿比重を見てもらうと情報が増えます。シニア期は健診の間隔についても獣医師に相談しておきましょう。 - 5
気になる記事は病院で見せる
サプリや療法食を自己判断で始めず、「こういう話を見たのですが、うちの子にはどうでしょう」と相談する形にすると、いまの治療と矛盾しない答えがもらえます。
飲水量や多飲多尿のサインの見分け方は あわせて読みたい 猫の多飲多尿のサインの読み方|水を飲む量・おしっこが増えたときの受診の目安 あわせて読みたい 健康診断の「尿比重」が低いと腎臓病に近づく?|2026年8月JAVMA掲載、11歳以上のシニア猫を2年追った研究の読み方 あわせて読みたい 猫の療法食の基本|総合栄養食との違い・切り替え方と「食べてくれない」ときの工夫
注意
サプリメントを検討したくなったら
今回の報道を見て、乳酸菌やビフィズス菌のサプリメントを考えた方もいると思います。腸内環境を整えること自体は、便の状態や便臭の面で意味がある場合があります。ただし、次の点は押さえておいてください。
- 研究で使われた菌株と、市販品に入っている菌株は同じとは限りません。菌は「ビフィズス菌」という大きなくくりではなく、株のレベルで働きが違うと考えられています。
- 腎臓病の治療中の猫では、療法食による栄養管理が土台になります。サプリメントを足すことで、カロリーやリン、ナトリウムなどの摂取量が計算から外れてしまうことがあります。
- 人用のサプリメントを猫に流用しないでください。含有成分や添加物が猫に適さない場合があります。
- 効果をうたう表現は、動物用のサプリメントでは「健康補助」の範囲にとどまります。薬の代わりにはなりません。
選び方の基本は あわせて読みたい 猫用サプリメントの選び方と比較|腸内環境・関節・皮膚被毛の3タイプを中立に整理
慢性腎臓病そのものの背景を知っておく
慢性腎臓病は、高齢の猫で問題になりやすい代表的な慢性疾患として広く知られています。具体的な有病率の数値については、本記事で一次資料を確認できていないため記載しません。かかりつけの獣医師に、その子の年齢と状態にあわせた検査の頻度を聞いておくのが確実です。
治療の面では、AIMという分子に着目した猫用の新薬FeliAIMの承認申請など、日本発の動きも報じられています。こちらの現在地は あわせて読みたい 猫の慢性腎臓病(CKD)と新薬FeliAIMの最新状況|今できる早期発見と日々のケア
MAM入りのキャットフードはもう売っていますか。
研究で使われた菌が入ったサプリを買えば同じ効果が出ますか。
BUNが下がったのなら腎臓がよくなったということですか。
腸内環境をよくするために、家庭で何か食べさせたほうがよいですか。
健康診断ではどんな検査をお願いすればよいですか。
まとめ
2026年9月に相次いだ2つの発表は、「腸内環境を整えることが猫の腎臓の負担を軽くするかもしれない」という同じ方向を指しています。不二製油と岩手大学のMAMは7頭に30日間、大正製薬のビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13は健康な猫17例に56日間という規模で、どちらも予備的な段階です。MAMはペットフード向けの原料として研究開発が進む段階で、実用化の時期は公表されておらず、店頭で買えるものではありません。
新しい話題を追いかけること自体は悪いことではありませんが、その子のためにいま効くのは、飲水量と体重と尿の記録、そして定期健診です。気になるニュースは、次の受診のときにかかりつけの獣医師と一緒に読んでみてください。
出典・参考
- 難消化性大豆たん白「MAM(マム)」、猫の腎機能維持を支える新たなペットフード素材として期待(不二製油ニュースリリース、2026年9月3日)
- 難消化性大豆タンパク質によるネコの腎臓および下部尿路ケアの可能性(平野啓太・太田聡・橘伸彦、ペット栄養学会誌29(1):15-22、2026年、J-STAGE)
- 難消化性大豆タンパク質によるネコの腎臓および下部尿路ケアの可能性(同論文のPDF全文、J-STAGE)
- ネコの腎機能改善する新素材、不二製油が開発 大豆たんぱく「MAM」(マイナビニュース、2026年9月4日)
- 不二製油・岩手大などがダイズ由来難消化性蛋白質投与でネコの腎機能改善を報告、腸内細菌叢が変化している可能性(日経バイオテク、2026年9月上旬公開、有料記事)
- 猫の腎臓負担減らす素材開発 不二製油、大豆たんぱくが腸内環境改善(日本経済新聞、有料記事)
- 猫の腸内環境改善が腎機能維持に寄与する可能性〜ビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13の新知見〜(大正製薬、PR TIMES、2026年9月15日)
- 大正製薬、猫の腸内環境改善が腎機能維持に寄与する可能性〜ビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13の新知見〜(日経バイオテク・プレスリリース欄、2026年9月17日)
- ビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13による猫の腸内環境改善作用を確認(大正製薬、2026年7月14日)
- ビフィズス菌G9-1と乳酸菌KS-13が犬の腸内環境を改善することを確認(大正製薬、2025年7月24日)
- IRIS Guidelines(International Renal Interest Society、ガイドライン一覧ページ)
- 日本獣医学会(第169回日本獣医学会学術集会の主催団体)
関連する記事
猫の慢性腎臓病(CKD)と新薬FeliAIMの最新状況|今できる早期発見と日々のケア
高齢猫に多い慢性腎臓病(CKD)について、AIM医学研究所が承認申請したAIM猫薬FeliAIMの現在地(まだ未承認)を正確に整理しつつ、多飲多尿など初期サインの見つけ方、定期健診・水分・療法食といった今すぐできる管理を、出典を確認しながら落ち着いてまとめます。
健康診断の「尿比重」が低いと腎臓病に近づく?|2026年8月JAVMA掲載、11歳以上のシニア猫を2年追った研究の読み方
2026年8月にJAVMAで公開された研究では、一見健康な11〜15歳の猫で尿比重1.035未満だと、2年以内に推定CKDと判断される割合が高く、診断までの期間も短めでした。尿比重の意味、オッズ比の読み方、IRISステージとの関係、健診で飼い主ができることを整理します。
猫用サプリメントの選び方と比較|腸内環境・関節・皮膚被毛の3タイプを中立に整理
猫用サプリメントは薬ではなく、ペットフードの分類でいう「その他の目的食」にあたり、病気の治療や予防をうたうことはできません。腸内環境ケア・関節ケア・オメガ3(皮膚被毛)の3タイプについて、エビデンスの強さの差や成分表示の見方、剤形・カロリー・価格まで中立に比較します。


