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折れ耳猫の骨軟骨異形成症とTRPV4変異|2026年の国内8,610頭解析でわかったこと

対象の目安: 全ライフステージ

ソラ編集長 / 住環境・多頭飼い担当
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折れ耳猫の骨軟骨異形成症とTRPV4変異|2026年の国内8,610頭解析でわかったこと

ぺたんと前に倒れた小さな耳、まるい顔、床にお尻をつけて後ろ足を投げ出す座り方。スコティッシュ・フォールドのかわいらしさには、たしかに人を惹きつける力があります。ただ、その折れ耳をつくっている遺伝子の変異は、耳の軟骨だけでなく手足や尾の軟骨にも同時に働いています。骨軟骨異形成症と呼ばれる、痛みをともなう関節の病気です。

2026年6月、麻布大学とアニコムグループが国内の猫8,610頭を対象にした大規模な遺伝子解析の結果を公表しました。重症リスクが高いとされる遺伝子型の割合が、この数年で大きく下がっていたという内容です。この記事では、その研究を手がかりに、折れ耳とTRPV4変異の関係、いま一緒に暮らしている折れ耳猫のために飼い主ができること、これから猫を迎える人が知っておきたいことを整理します。遺伝子検査そのものの考え方や他の遺伝性疾患については

で扱っているので、ここでは折れ耳と骨軟骨異形成症にしぼって読み解いていきます。

折れ耳はなぜ生まれるのか — TRPV4という遺伝子

スコティッシュ・フォールドは、1961年にスコットランドの農場で見つかった、突然変異で耳の折れた猫が起源とされています。折れ耳の子猫も生まれたときは立ち耳で、生後3〜4週ごろから耳介が前方に折れはじめ、3〜4か月で形が決まっていくと解説されています。同じ猫種でも立ち耳のまま育つ個体があり、スコティッシュ・ストレートと呼ばれます。

この折れ耳の正体は、耳の軟骨の形成異常です。2016年に、TRPV4遺伝子のc.1024G>T変異が、スコティッシュ・フォールドの折れ耳形質および骨軟骨異形成症と関連することが報告されました。TRPV4は細胞内外のカルシウムの流れを調整し、軟骨細胞が刺激に応答するしくみに関わる遺伝子で、猫では耳や関節などの軟骨の発達に関与していることが分かっています。

つまり、耳がかわいらしく折れているという見た目は、耳だけで完結した現象ではありません。21動物病院の解説では、耳が折れる時点ですでに前肢・後肢や尾の関節でも骨軟骨の変性が生じており、折れ耳の発生は他の部位にも異常が起きているサインになる、と説明されています。またTRPV4が軟骨細胞のメカノセンサー(力学的なストレスを感知するしくみ)として働くことから、四足歩行の猫では体重のかかる手根関節(手首)や足根関節(足首)に影響が出やすいと考えられているそうです。

スコティッシュ・フォールドが1961年にスコットランドの農場で見つかった突然変異の猫を起源とすること、立ち耳で生まれ生後3〜4週で耳介が折れはじめ3〜4か月で完成すること、立ち耳のままの個体がスコティッシュ・ストレートと呼ばれること、耳が折れる時点で四肢や尾でも骨軟骨の変性が生じており折れ耳が他部位の異常のサインになること、TRPV4のメカノセンサー機能により手根関節・足根関節に影響が出やすいと考えられること、症状として骨瘤・スコ座り・ぎこちない歩行・ジャンプの減少・爪切りを嫌がるなどが挙げられること、診断は身体検査とレントゲン検査、さらに遺伝子検査で行われること、治療は変形性関節症に対する対症療法が中心となることについて。21動物病院-おおたかの森-(獣医師監修)より。

ホモ接合とヘテロ接合で何が違うのか

折れ耳は常染色体顕性(優性)で遺伝します。両親から受け継ぐ一対の遺伝子のうち1つでも変異があれば、折れ耳という形質が現れるということです。ここで押さえておきたいのが、変異を1つ持つ状態(ヘテロ接合)と、2つ持つ状態(ホモ接合)の違いです。

麻布大学のプレスリリースでは、次のように整理されています。この変異を1つ有するヘテロ接合個体では折れ耳形質が認められるが、臨床症状の程度には個体差がある。一方、2つ有するホモ接合個体では重度の臨床症状が認められることが多く、動物福祉の観点から、ホモ接合個体を生じる可能性のある交配を避けることが重要とされている、というものです。

遺伝子型耳の見た目骨軟骨異形成症との関係(報告されている整理)
野生型(変異なし)立ち耳この変異による折れ耳形質は認められない
ヘテロ接合(変異1つ)折れ耳折れ耳形質が認められ、臨床症状の程度には個体差があるとされる
ホモ接合(変異2つ)折れ耳重度の臨床症状が認められることが多いとされる

折れ耳形質が常染色体顕性(優性)で遺伝すること、2016年にTRPV4遺伝子c.1024G>T変異が折れ耳形質および骨軟骨異形成症と関連すると報告されたこと、TRPV4が細胞内外のカルシウムの流れを調整し軟骨細胞が刺激に応答するしくみに関わり猫では耳や関節などの軟骨の発達に関与すること、ヘテロ接合個体では折れ耳形質が認められるが臨床症状の程度に個体差があること、ホモ接合個体では重度の臨床症状が認められることが多く該当する交配を避けることが重要とされることについて。麻布大学プレスリリース(2026年6月8日)より。

一方で、家庭向けの解説では「折れ耳のスコティッシュ・フォールドは全て発症している」という、より踏み込んだ書き方をしているものもあります。アニコム損害保険の獣医師監修記事は、重症度は症状をほとんど示さないものから関節が正常に動かないものまでさまざまだとしたうえで、すべての折れ耳型のスコティッシュ・フォールドで骨軟骨異形成症を発症しているとしています。海外でも、RSPCAのナレッジベースが、1990年代のオーストラリアの獣医学研究により、耳の折れたすべての猫がさまざまな程度で骨軟骨異形成症の痛みを生じることが示されたと説明しています。

言い方に幅があるのは、「レントゲンで捉えられる骨の変化」と「日常生活で表に出る痛みや歩行の異常」を、どこまで同じ言葉で語るかの違いだと考えると理解しやすくなります。RSPCAは、この病気が生後7週という早い時期からレントゲンで確認できるとしています。つまり画像上の変化はごく若いうちから存在しうる一方で、それが痛みとしてどれだけ表面化するかには幅がある、というのが現時点で共有されている像です。

メモ

「重症度に幅がある」ことは「軽い子は大丈夫」という意味ではありません。猫は痛みを隠すのが上手な動物で、静かに耐えている時間が長く続くことがあります。折れ耳の猫と暮らしているなら、症状がなくても関節の状態を一度確認しておく価値がある、という位置づけで受け止めてください。

2026年の国内解析が示した変化 — ホモ接合が14.2%から1.9%へ

ここからが今回の本題です。2026年6月8日、麻布大学はアニコム パフェ、アニコム先進医療研究所と共同で、国内の猫8,610頭を対象としたTRPV4変異の大規模な遺伝子解析の結果を公表しました。2017年から2024年に生まれた猫が対象で、スコティッシュ・フォールドを含む14品種、各品種100頭以上を含むデータセットが使われています。

結果は、スコティッシュ・フォールドにおけるホモ接合個体の割合が、2017年の14.2%から2024年には1.9%へと統計的に有意に低下していた、というものでした。一方でヘテロ接合個体と野生型個体の割合には有意な経年変化は認められず、ヘテロ接合は2017年の39.3%に対し2024年は51.5%、野生型は46.4%に対し46.6%でした。

遺伝子型(スコティッシュ・フォールド)2017年2024年
ホモ接合(変異2つ)14.2%1.9%(有意に低下)
ヘテロ接合(変異1つ)39.3%51.5%(有意な変化なし)
野生型(変異なし)46.4%46.6%(有意な変化なし)

発表では、この結果はホモ接合個体を生じる可能性のある交配を避けるなど、遺伝子検査を活用した慎重な繁殖判断が行われている可能性を示唆しているとされています。減少の時期がTRPV4変異を対象とした検査が利用可能になった時期と一致しており、検査の普及や繁殖管理への活用が影響している可能性がある、という説明です。

数字だけを見ると小さな変化に見えるかもしれません。けれど、重い症状が出やすいとされる遺伝子型で生まれてくる子猫が7分の1程度から50頭に1頭程度まで減ったということでもあります。誰かを責めるためのデータではなく、検査という道具が実際の繁殖の現場で使われるようになった結果として読み取れる変化です。

ヒント

この研究は日本国内の猫集団を対象としたもので、国や地域によって品種集団の遺伝的背景や繁殖の慣行は異なる可能性があると発表でも述べられています。海外の情報をそのまま日本にあてはめたり、逆に日本の数字を世界の状況として受け取ったりしないほうが正確です。

まだ残る課題 — 品種を越えた広がりと「隠れ折れ耳」

数字が下がったからといって、話が終わったわけではありません。同じ2026年に公表された研究からは、まだ手つかずの論点も見えてきました。

変異はスコティッシュ・フォールドだけのものではない

同じ研究のもう一つの成果が、品種を越えた分布の確認です。14品種のなかでTRPV4変異の頻度が最も高いのはスコティッシュ・フォールドでしたが、それ以外にもアメリカン・カール、ノルウェージャン・フォレスト・キャット、マンチカン、ミヌエットでヘテロ接合個体が検出されました。さらにマンチカンではホモ接合個体が3頭確認されています。

アメリカン・カールやマンチカンでは、過去にスコティッシュ・フォールドとの交雑が疑われる報告があり、今回の結果もそうした歴史的な交雑の影響を反映している可能性があると考察されています。発表では、スコティッシュ・フォールド以外の品種におけるTRPV4変異の臨床的な影響は現時点で十分に明らかになっていないとして、今後の追加研究が必要だとも述べられています。

2017年から2024年に生まれた14品種8,610頭(各品種100頭以上)を対象とした解析であること、スコティッシュ・フォールドのホモ接合個体が2017年の14.2%から2024年の1.9%へ有意に低下し、ヘテロ接合(2017年39.3%、2024年51.5%)と野生型(2017年46.4%、2024年46.6%)には有意な経年変化がなかったこと、減少がTRPV4変異を対象とした検査が利用可能になった時期と一致すること、アメリカン・カール・ノルウェージャン・フォレスト・キャット・マンチカン・ミヌエットでヘテロ接合個体が検出されマンチカンではホモ接合個体3頭が確認されたこと、他品種における臨床的影響は十分に明らかになっていないこと、本研究は日本国内の集団を対象としており国や地域で状況が異なる可能性があることについて。麻布大学プレスリリース(2026年6月8日、『Animal Genetics』2026年5月10日オンライン公開)より。

「うちの子はスコティッシュ・フォールドではないから関係ない」と言い切れないケースがある、ということです。ただし、変異が検出された品種でも頻度はスコティッシュ・フォールドより低く、過度に心配する話ではありません。繁殖を考えている場合や、関節に気になる変化がある場合に、選択肢として遺伝子検査を思い出せるとよい、という程度に覚えておけば十分です。

見た目が立ち耳でも変異を持つ「隠れ折れ耳」

もう一つ、その1週間前の2026年6月1日に公表された研究が、外見での判断の限界を示しました。ブリーダーや獣医療の現場では、外見上は立ち耳に見えても折れ耳に関連する遺伝的要因を持つ個体がいるのではないかと経験的に指摘されてきました。この現象を、保険契約時や更新時に蓄積された写真データとDNAサンプルを使って検証したのがこの研究です。

写真の品質などの条件を満たした114頭を解析した結果、TRPV4変異のヘテロ接合体55頭のうち7頭(12.7%)で、子猫のときには折れ耳だったにもかかわらず、成長に伴って外見上は立ち耳様に変化する現象が確認されました。研究ではこうした個体を「隠れ折れ耳(cryptic fold)」と呼んでいます。正面写真が得られた14頭の解析では、隠れ折れ耳群の耳介サイズが野生型の立ち耳群より有意に小さいという結果も出ましたが、その差は大きくなく、外見のみで正確に判別することは難しいとされています。

スコティッシュ・フォールド114頭を解析対象とし、TRPV4変異ヘテロ接合体55頭のうち7頭(12.7%)で子猫のときは折れ耳でも成長に伴い外見上は立ち耳様に変化する現象が確認されたこと、こうした個体を「隠れ折れ耳(cryptic fold)」と呼ぶこと、正面写真が得られた14頭では隠れ折れ耳群の耳介が野生型の立ち耳群より有意に小さかったがその差は大きくなく外見のみでの判別は難しいこと、繁殖管理に活かすには遺伝子検査の実施が重要と考えられること、本リリースが特定の交配を推奨するものではないことについて。麻布大学プレスリリース(2026年6月1日、『Animal Genetics』2026年5月6日オンライン公開)より。

科学技術振興機構のScience Portalの記事では、解析対象114頭の内訳がオス63頭・メス51頭であることや、研究に携わった麻布大学の松本悠貴特任准教授が、繁殖を予定している猫で耳の形に違和感があれば遺伝子検査を受けることを検討してはどうか、と述べていることが紹介されています。

解析対象114頭の内訳がオス63頭・メス51頭であること、隠れ折れ耳群の耳介が変異を持たない立ち耳より小さかったこと、麻布大学の松本悠貴特任准教授が繁殖を予定している猫で耳の形に違和感があれば遺伝子検査の受診を検討してはどうかと述べていることについて。Science Portal(科学技術振興機構)より。

飼い主の立場では、この話は「立ち耳だから何もしなくていい、とは限らない」という一点に集約されます。とはいえ、家庭で暮らしていて避妊・去勢も済んでいる猫にとっては、遺伝子型を知ることより、歩き方や動きの変化に気づいて必要なときに受診できることのほうがずっと実際的です。

いま一緒に暮らす折れ耳猫のために — 気づきたい変化

骨軟骨異形成症の症状は、手首(手根関節)と足首(足根関節)、そして尾に集中して現れるのが特徴です。関節の周囲にコブ状の骨瘤や骨棘ができ、関節が硬くなって可動域が狭くなっていきます。肩や肘、膝、股関節といった体幹寄りの関節には基本的に異常が起きないとされる点も、他の関節疾患との違いとして知っておくとよいでしょう。

家庭で気づけるサインは、次のようなものが挙げられています。

折れ耳猫で気にかけたい日常のサイン

  • 手首や足首を触られるのを嫌がる、痛がる
  • 手首・足首にコブのようなふくらみや腫れがある
  • 歩き方がぎこちない、ゆっくりになった、足を引きずる・挙げる
  • キャットタワーや棚など高いところに登らなくなった、飛び降りをためらう
  • 尾が硬い・動きが鈍い、尾を触られるのを嫌がる
  • 爪切りを嫌がるようになった
  • 遊ぶ時間が減り、寝ている時間が増えた
  • 毛づくろいが減って毛並みが乱れる、毛玉が目立つ
  • フローリングを歩くときにコツコツと音がするようになった

なお、床にお尻をつけて後ろ足を前に投げ出す、いわゆる「スコ座り」については、リラックスしているときにも見られる姿勢である一方、変形した関節に負担がかからないようにしているのではないかと言われています。この座り方をしているから必ず痛みがある、と決めつけられるものではありませんが、他のサインと合わせて見るときの材料にはなります。

発症の時期については、骨が成長する子猫期から進行が始まり、1歳以下で症状が見られることが多いとされています。成猫になって筋肉がつくと一時的に落ち着くこともありますが、症状が出ていなくても進行し、高齢になって筋肉量が落ちると再び強い痛みとして現れることがある、とも説明されています。「若いころは平気そうだったのに、シニアになって急に動かなくなった」という経過は、この病気ではめずらしくないということです。

骨や軟骨が異常に増殖して関節にコブやトゲができ、指や関節の変形による痛み・手足の腫れが生じること、手足を触られるのを嫌がる・スコ座り・歩き方がゆっくりになる・ジャンプや飛び降りをしなくなる・遊ぶ時間が減る・寝ている時間が増えるといった変化が見られること、1歳以下の成長期での発症が多く成猫期に一時的に落ち着いても進行し高齢で筋肉量が落ちると再び強い痛みとして現れること、診断は身体検査とレントゲン検査で行われること、猫は症状を隠す習性があるため元気そうでも早めに検査して状態を把握することがすすめられることについて。イース動物病院より。

折れ耳がかわいくて迎えた子でした。1歳を過ぎたころから爪切りをひどく嫌がるようになって、性格が変わったのかと思っていました。健診のついでに相談したら足首を診てもらうことになり、そこで初めてこの病気の名前を知りました。もっと早く知っていればと思う一方で、今から一緒にできることがあると分かって少し気持ちが軽くなりました。
飼い主

危険

歩き方の変化や足先の腫れ、触られるのを嫌がるといった様子が続くときは、様子見を長く続けないでください。人用の解熱鎮痛薬や市販の痛み止めを自己判断で猫に与えることは、少量でも重い中毒につながるため絶対に避けてください。痛みを和らげたいときは、動物病院で猫に使える薬を相談してください。

診断と治療の考え方 — 根治ではなく痛みの管理が中心

動物病院での診断は、身体検査とレントゲン検査が基本になります。身体検査では折れ耳かどうかや各関節の状態、痛みや腫れの程度を確認し、レントゲン検査では手根関節・足根関節・尾の骨や軟骨の状態、骨瘤や骨棘の有無、変形の程度を確認します。必要に応じて遺伝子検査で変異の有無を調べることもあります。他の関節疾患との鑑別も含めて判断されるため、家庭で見えている変化を具体的に伝えられると診察がスムーズです。

治療については、遺伝子に由来する病気であるため、現時点で根治させる方法はないというのが各所に共通する説明です。目標は、痛みを和らげて生活の質を保つことに置かれます。

アプローチ内容押さえておきたい点
痛みの管理(内科)消炎鎮痛薬(NSAIDs)や、月1回の皮下投与で使う抗NGF抗体製剤などどの薬を使えるかは腎臓など全身の状態次第。長期使用の可否は獣医師の判断
サプリメント抗炎症作用のある脂肪酸や関節の保護成分を含むもの医薬品ではなく、劇的な改善を期待するものではないと説明されている
外科手術痛みの原因となる骨瘤・骨棘の切除全ての骨瘤を取り除くのは難しく、術後に進行が早まる例も指摘されている
放射線療法疼痛の緩和を目的に照射する実施できる施設が限られ、費用も高額になる
理学療法・リハビリ運動機能の維持や改善を目的に行う対応している施設で内容を相談する

猫の変形性関節症の痛みに対しては、2023年2月に国内で販売が始まった抗NGF抗体製剤(ソレンシア)という選択肢も加わりました。1か月に1回の皮下投与で、肝臓・腎臓・消化器への負担を最小限に抑えた設計とされ、慢性腎臓病の症例にも使いやすいと案内されています。骨軟骨異形成症の痛みに対して、この薬を疼痛管理の中心に据えている動物病院もあります。

ソレンシアが2023年2月20日に販売開始された猫の変形性関節症治療薬で、NGF(神経成長因子)に結合する抗NGFモノクローナル抗体製剤であること、1か月に1回の皮下投与で、肝臓・腎臓・消化器への負担を最小限に抑え慢性腎臓病の症例にも使いやすいとされることについて。ゾエティス・ジャパンのニュースリリースより。

骨軟骨異形成症の進行を止めることはできず、治療は鎮痛によってQOLを維持することを目的とすること、外科・放射線・鎮痛薬やサプリメントの長期使用が挙げられ、外科や放射線は治療成績のエビデンスが少なく実施できる病院も限られるため一般には内科管理が中心となること、NSAIDsは腎臓病の猫には使いづらく別の鎮痛薬を検討する必要があること、進行は満1歳ごろまでの若齢期から始まり進行の程度は関節のレントゲン撮影で判断できること、立ち耳タイプだから発症しないとは限らないことについて。たかつきユア動物病院より。

どの治療が向いているかは、年齢や持病、痛みの程度によって変わります。ここに挙げたのは「こういう選択肢が語られている」という地図であって、処方の指示ではありません。実際の判断は必ずかかりつけの動物病院で、猫の状態を診てもらったうえで相談してください。関節の痛み全般の見つけ方や治療の考え方は

でも詳しく扱っています。

家庭でできる環境の工夫

治療と並行して効いてくるのが、家の中を「がんばらなくても動ける」状態に整えることです。関節に負担をかけない動線をつくるだけで、日々の痛みの総量は変わってきます。

  1. 1

    床の滑りをなくす

    フローリングは踏ん張りがきかず、手首や足首に余計な負担がかかります。よく通る動線にマットやカーペットを敷きます。
  2. 2

    段差を小さく刻む

    ソファやベッド、窓辺など、よく登る場所にはステップやスロープを置き、一段の高さを低くします。高い場所を取り上げるのではなく、そこへ届く道を作る発想です。
  3. 3

    食器の高さを調整する

    かがんだ姿勢が続くと首や前肢に負担がかかります。自然な体勢で食べられる高さの食器台に替えます。
  4. 4

    トイレの縁を低くする

    またぐ動作がつらいと排泄を我慢したり失敗したりすることがあります。入り口の低いタイプが入りやすくなります。
  5. 5

    体重を適正に保つ

    体重が増えるほど関節にかかる荷重は増えます。減量が必要かどうかも含め、健診で相談しておきます。
  6. 6

    爪切りとブラッシングを続ける

    爪が伸びると歩き方が崩れます。ただし手首や足首を触られるのを嫌がるようなら無理に押さえず、動物病院に任せる選択も有効です。

骨軟骨異形成症では手首や足首の関節に大型の骨瘤が形成され、関節が硬く固定されて可動域が狭くなること、尾椎にも変形が見られることがあり、骨軟骨の変形は手先・足先・尾に限定され肘・肩・膝・股関節には異常が起きないこと、骨異常は進行性であること、軽症でも痛みを感じておりジャンプをしない・走る距離が短いといった形で現れること、爪切りを嫌がることがあること、いわゆるスコ座りが関節の痛みを和らげるための姿勢ではないかと言われていること、治療は関節炎や痛みの緩和といった対症療法が主体で消炎鎮痛薬やサプリメント、重度例では放射線療法や骨棘の外科的除去が挙げられること、予防法はなく体重管理・登る場所へのステップ・床の敷物といった工夫がすすめられること、歩き方の異常や手足を触られるのを嫌がる様子があれば早めに動物病院に相談することについて。アニコム損害保険「猫との暮らし大百科」(獣医師監修)より。

段差を埋めるステップやスロープは、猫の体格と実際の高さに合わせて選ぶことが大切です。選び方の具体的なポイントは

にまとめています。

International Cat Careも、低い場所に出入りしやすい寝床を用意する、食器や水入れを持ち上げて痛む関節を曲げずに済むようにする、縁の低いトイレを使う、お気に入りの場所へのスロープを設けて滑る床に敷物を置く、といった家庭での工夫を挙げています。同時に、痛みのサインとして、動きたがらない、姿勢や歩き方が不自然で丸くなって寝られない、跛行、家具への上り下りが難しい、短く変形した四肢といった項目を示し、痛みから隠れる・食欲が落ちる・トイレの外で失敗する・毛づくろいが減るといった変化も起こりうるとしています。

折れ耳をつくる軟骨の異常が全身の骨の軟骨にも重い異常を引き起こし、それが骨軟骨異形成症と呼ばれること、重症度は個体差があること、動きたがらない・不自然な姿勢や歩き方・跛行・家具への上り下りの困難・短く変形した四肢といった徴候が見られること、痛みにより隠れる・食欲が落ちる・トイレの外で失敗する・毛づくろいが減ることがあること、診断は品種・身体検査・レントゲンに基づくこと、病気そのものへの治療はなく痛みの管理と家庭での工夫が中心になること、低い位置の寝床やステップ・食器を高くする・縁の低いトイレ・スロープや敷物といった具体的な工夫、そして重い痛みをともなう疾患の原因となる遺伝子変異を持つ猫の繁殖を続けることは倫理的でないとiCatCareが考えていることについて。International Cat Careより。

これから猫を迎える人へ — 遺伝子検査と繁殖をめぐる議論

折れ耳の猫を迎えようとしている方にとって、ここは避けて通れない話題です。国際的には、この形質をめぐって厳しい見解が示されてきました。

International Cat Careは、重い痛みをともなう病気を引き起こすと分かっている遺伝子変異を持つ猫の繁殖を続けることは倫理的でないとし、英国獣医師会(BVA)と連携して啓発を行っていると述べています。RSPCAも、痛みをともなう変形や病気を引き起こす遺伝子変異を持つ動物からの繁殖は倫理的でないとの立場で、この品種が身体的な変形を理由に1974年に英国のキャットファンシー(GCCF)の公認品種から除外され、国際猫連盟(FIFe)でも禁止されたこと、オーストラリアのビクトリア州では動物福祉関連法令のもとで繁殖が禁じられていることを紹介しています。

折れ耳がTRPV4の単一遺伝子変異によるもので軟骨の発達に影響すること、顕性形質でありTRPV4変異を受け継いだ子猫は影響を受けるとされること、生後7週という早い時期からレントゲンで病変が確認できること、関節や骨の発達の異常が関節炎・短く硬い尾・脊椎の異常・短く硬い四肢につながること、1990年代のオーストラリアの獣医学研究により耳の折れた猫はすべてさまざまな程度で骨軟骨異形成症の痛みを生じることが示されたとされること、交雑個体では変形が軽い場合もあるが生後6か月という早い時期から重い症状に苦しむ個体もいること、1974年に英国のキャットファンシーの公認品種から除外されFIFeでも禁止されたこと、ビクトリア州では動物福祉関連法令のもとで繁殖が禁じられていること、飼い主にできることとしてこの品種特有の健康・福祉上の問題を理解し獣医師に相談すること、避妊去勢によって次の世代に受け継がせないことが挙げられていることについて。RSPCA Knowledgebaseより。

一方、麻布大学の発表は、遺伝子検査を活用した慎重な繁殖判断が疾患リスクの把握・低減に資する可能性を示すものだとして、特定の交配や繁殖を推奨するものではないと明記したうえで、科学的根拠に基づく繁殖管理の重要性を述べています。立場や射程は違いますが、「見た目の魅力だけで判断せず、体に何が起きているかを踏まえて選ぶ」という点では共通しています。

迎える側にできることを、現実的な形に落とすとこうなります。

  1. 1

    親や同腹子の遺伝性疾患の発生状況を確認する

    販売時に対面で説明されるべき項目に含まれています。「調べていない」という回答であっても、それ自体が判断材料になります。
  2. 2

    遺伝子検査の有無と項目を聞く

    TRPV4が検査項目に入っていたか、親猫と子猫のどちらを調べたのか、結果の書面はあるかを確認します。検査していない項目のことは分かりません。
  3. 3

    折れ耳同士の交配ではないかを確認する

    折れ耳同士の交配はホモ接合個体が生まれる可能性があり、重い症状のリスクが高いとされています。ここは率直に尋ねてよい部分です。
  4. 4

    迎えたあと早めに関節も含めた健診を受ける

    元気に見えても、関節の状態を一度把握しておくと以降の比較ができます。かかりつけを決めておくと相談しやすくなります。
  5. 5

    繁殖しない前提で避妊・去勢を検討する

    家庭で暮らす猫では、次の世代に受け継がせないという選択が、この病気に対して飼い主が取れる最も直接的な行動になります。

子猫を迎えるときの準備全般は

にまとめています。すでに折れ耳の猫と暮らしている方に向けて付け加えるなら、迎えたこと自体を悔やむ必要はまったくありません。目の前の猫の痛みを減らすためにできることは、今日からいくつもあります。

よくある質問

折れ耳のスコティッシュ・フォールドは、必ず骨軟骨異形成症になるのですか
表現に幅があります。アニコム損害保険の獣医師監修記事は、すべての折れ耳型のスコティッシュ・フォールドで骨軟骨異形成症を発症しているとしており、RSPCAも耳の折れた猫はすべてさまざまな程度で痛みを生じるとしています。一方で麻布大学の発表では、変異を1つ持つヘテロ接合個体は折れ耳形質を示すものの臨床症状の程度には個体差があるとされています。レントゲンで捉えられる変化と、日常で表に出る痛みの強さは同じではない、と理解しておくのが実際的です。気になることがあれば動物病院で関節の状態を確認してもらってください。
うちの子は立ち耳のスコティッシュです。心配はいりませんか
外見だけでは判断できない場合があります。麻布大学の研究では、TRPV4変異のヘテロ接合体55頭のうち7頭(12.7%)で、子猫のときは折れ耳でも成長すると外見上は立ち耳様に変化する『隠れ折れ耳』が確認されました。耳介は野生型より小さい傾向があったものの、外見だけで正確に判別することは難しいとされています。過度に心配する必要はありませんが、歩き方や関節に気になる変化があれば動物病院で相談してください。
症状がまったくないのですが、レントゲンを撮る意味はありますか
参照した動物病院の解説では、猫は症状を隠す習性があるため、元気そうに見えても早めに検査して状態を把握し、適切な治療を始めることがすすめられています。RSPCAは生後7週という早い時期からレントゲンで病変が確認できるとしています。撮るかどうか、いつ撮るかは猫の年齢や様子によって変わるので、健診のときにかかりつけの獣医師に相談してみてください。
骨軟骨異形成症は治りますか。治療で進行を止められますか
参照した複数の解説では、遺伝子に由来する病気であり根治させる治療方法はないとされています。治療の目的は、痛みを和らげて生活の質を保つことに置かれます。消炎鎮痛薬や抗NGF抗体製剤による疼痛管理、サプリメント、症例によっては外科手術や放射線療法が挙げられていますが、どれが向いているかは猫の状態によって異なります。自己判断は避け、動物病院で相談してください。
スコ座りをしていたら痛みがあるということですか
必ずしもそうとは言えません。アニコム損害保険の解説では、いわゆるスコ座りはリラックスしているときにも見られる姿勢である一方、変形した関節に負担がかからないようにしているのではないかと言われている、と説明されています。座り方だけで判断せず、歩き方やジャンプ、触られたときの反応など他のサインと合わせて見てください。

まとめ

折れ耳をつくっているTRPV4遺伝子c.1024G>T変異は、耳の軟骨だけでなく手足や尾の軟骨の発達にも関わり、骨軟骨異形成症と関連することが報告されています。変異を2つ持つホモ接合個体では重度の症状が認められることが多く、1つ持つヘテロ接合個体でも症状の程度には個体差があるとされています。

2026年6月に麻布大学らが公表した国内8,610頭の解析では、スコティッシュ・フォールドのホモ接合個体の割合が2017年の14.2%から2024年には1.9%へと有意に低下していました。遺伝子検査が繁殖の判断に使われるようになったことと時期が重なる変化です。一方で、変異は他の品種でも検出され、外見が立ち耳でも変異を持つ「隠れ折れ耳」の存在も確認されました。分かってきたことと、まだ分かっていないことの両方があります。

いま折れ耳の猫と暮らしている方にとって大切なのは、遺伝子型そのものより、目の前の猫の歩き方・ジャンプ・触られたときの反応といった変化に気づけることです。床の滑りをなくし、段差を刻み、体重を保つ。そして気になる変化があれば、様子見を長く続けずにかかりつけの動物病院に相談する。この積み重ねが、痛みを抱えやすい体で生まれてきた猫の毎日を、確実に楽なほうへ寄せていきます。

本記事は一般的な情報提供であり、診断や治療、薬の適否を判断するものではありません。骨軟骨異形成症が疑われる症状や検査・治療の選択については、かかりつけの動物病院で猫の状態を診てもらったうえでご相談ください。

出典・参考

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