ニャレッジ
住環境・お留守番

災害のあと、猫の行動はどう変わるのか|令和8年熊本地震の行動ログ分析が示した「睡眠」と「おしっこ」

対象の目安: 全ライフステージ

ソラ編集長 / 住環境・多頭飼い担当
・ 約29分で読めます
災害のあと、猫の行動はどう変わるのか|令和8年熊本地震の行動ログ分析が示した「睡眠」と「おしっこ」

大きな地震のあと、猫が食べなくなった、隠れて出てこなくなった、という話はよく聞きます。けれど数日たって食欲が戻り、いつもの場所で丸くなっているのを見ると、飼い主はほっとして「もう大丈夫」と考えます。本当にそうでしょうか。2026年9月1日の防災の日に、猫用スマート首輪『Catlog』を提供する株式会社RABOの研究機関「Catlog総合研究所(Catlog総研)」が、令和8年熊本地震の前後で猫の行動ログがどう動いたかを分析したレポートを公開しました。熊本県に住むと思われる猫約170匹と、同時期の全国数万匹を比べたこのレポートが示したのは、「見た目が落ち着いた後も、睡眠と排泄はしばらく戻っていなかった」という事実です。この記事では、防災グッズの準備ではなく、災害の「後」の数日から2週間に焦点を当てて、飼い主が何を観察し、どう環境を立て直すかを整理します。

令和8年熊本地震と、この分析がなぜ珍しいのか

まず前提となる地震の事実を、気象庁の資料で確認しておきます。令和8年熊本地震は、2026年7月28日16時27分に熊本県熊本地方の深さ16kmでマグニチュード7.1の地震が発生し、熊本県宇城市および八代郡氷川町で震度7を観測したものです。九州地方から中部地方にかけて震度6強から1を観測し、気象庁は同日16時29分に有明・八代海へ津波注意報を発表(18時10分解除、津波は観測されず)しました。その後も活発な地震活動が続き、8月12日8時までに震度1以上を観測した地震は622回に達しています。

気象庁「地震・火山月報(防災編)令和8年7月」の特集は、2026年7月28日16時27分に熊本県熊本地方の深さ16kmでM7.1の地震が発生し、熊本県宇城市及び氷川町で震度7を観測したこと、8月12日8時までに震度1以上を観測した地震が622回(震度7:1回、震度5弱:5回、震度4:22回、震度3:61回、震度2:155回、震度1:378回)発生したこと、この地震及び以降の一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と名称を定めたことを記載しています。

Catlog総研のレポートは、この期間に熊本県で暮らしていたと思われる猫の行動ログを、同時期の全国の猫と並べて比較しています。レポート自身が説明しているとおり、地震のような予測できない出来事の前後で同じ個体の日常行動を高い頻度で記録し、直後から数週間の変化を一貫して追跡し、さらに同時期の大規模な比較対象群まで揃えられた例は、Catlog総研が調べた限りなかったとされています。

この「比較対象群がある」という点が重要です。たとえば8月に猫がぐったりしていたとしても、それが地震のせいなのか単に暑かっただけなのかは、その猫だけを見ていてはわかりません。同じ夏を過ごした全国数万匹と重ねてはじめて、熊本の猫に特有の変化が浮かび上がります。

メモ

この記事で扱うのは、あくまで「観察された行動ログの傾向」です。レポートも記事本文も、地震が特定の病気を引き起こしたと結論づけているわけではありません。数値は集団の平均であり、個々の猫の反応は大きく異なります。

本震当日、元気スコアと睡眠スコアが同時に落ちた

Catlogには、猫の状態を要約する2つのスコアがあります。元気スコアは、活動量や食事・水飲みの回数など複数の行動指標をもとに総合的な体調や活動状態を表すもので、過去1カ月間を基準に、その日の行動が平常時と同程度なら100点になる設計です。睡眠スコアは、睡眠時間や睡眠回数などの指標から、睡眠の量と質(途中で目覚める頻度など)が平常時からどれだけ離れているかを評価します。

この2つが、本震を境に同時に崩れました。

指標本震前の熊本群の平均最も落ち込んだ日と値その後
元気スコア98.9本震当日(7/28)に91.7(-7.2%)速やかに回復し、7/31にかけて本震前の水準に近づいた
睡眠スコア87.7本震翌日(7/29)に82.5(-6.0%)回復に転じ、8/2にはほぼ地震前平均まで戻ったが、日によって全国平均と比較して小さな落ち込みが見られた

Catlog総研第18回レポーティング(前編)は、元気スコアが本震前の熊本群平均98.9から本震当日に91.7(-7.2%)へ低下し7/31にかけて回復したこと、睡眠スコアが本震前平均87.7から翌日7/29に82.5(-6.0%)と期間中の最低値をつけ8/2にほぼ地震前平均まで戻ったことを報告しています。

注目したいのは、落ち込みのタイミングがずれていることです。元気スコアは本震当日に底を打ったのに対し、睡眠スコアの底は翌日でした。地震の日は活動そのものが止まり、その夜からの眠りが崩れる。半日から一日遅れて睡眠に響いてくる、という順序です。

数字だけを見ると、7.2%や6.0%という下げ幅は小さく感じるかもしれません。ただしこれは約170匹の平均値です。全員が少しずつ落ちたのか、一部の猫が大きく落ちたのかまではこの数字からはわかりませんが、集団の平均が動くというのはそれなりに大きな出来事です。

何が減り、何が増えたのか — 食べる・水を飲む・毛づくろい・歩く

では、スコアの低下は具体的にどんな行動の変化によるものだったのでしょうか。レポートは、猫種や年齢、飼育環境による個体差が大きいことを踏まえ、猫ごとに本震前7日間の平均を基準とした変化率を出したうえで、群ごとの平均を比較しています。

行動本震当日(7/28)の変化率その後の動き
食べる回数-16.9%数日から1週間程度かけて本震前の水準まで回復
水飲み回数-13.4%同上
毛づくろい時間-22.0%翌日には本震前の水準へ。さらに7/30から8/2にかけて本震前より+10%以上の高い水準が続き、全国平均より高値
歩く+走る時間当日の大きな減少は見られず本震翌日に+23%と増加。この増加傾向は本震後1週間程度続き、全国平均より高い水準が継続

同前編は、食べる回数と水飲み回数が本震当日にそれぞれ-16.9%、-13.4%まで低下したこと、毛づくろい時間が本震当日に-22.0%と減少した後7/30から8/2にかけて本震前より+10%以上高い水準が続いたこと、歩く+走る時間が本震翌日に+23%増加し1週間程度高い水準が続いたことを報告しています。

この表は、飼い主の実感とよく合うのではないでしょうか。地震の日は食べない、飲まない、毛づくろいもしない。翌日には食べ始めるので「戻った」と感じる。ところが実際には、そこから歩き回る時間が2割以上増え、毛づくろいも平常より多い状態が1週間続いていたのです。

レポートはこの変化について、二つの可能性を挙げています。ひとつは、本震で生活環境が大きく変わり、飼い主が普段どおりの食事や給水をできなくなった可能性。もうひとつは、本震直後の1日100回を超える高頻度な余震によるストレス反応として、食べる・水を飲む・毛づくろいといった自然な行動全般が少なくなった可能性です。そしてその後は、生活環境が元に戻る一方で余震が続いた結果、ストレスや恐怖から自分を落ち着かせるために毛づくろいが増え、警戒による落ち着きのなさが歩く・走るの増加として表れたと考察されています。

「落ち着きがない」「やたら毛づくろいしている」は、一見すると元気が戻ったようにも見えます。でもデータの文脈では、それは回復のサインではなく警戒が続いているサインとして読まれています。

ヒント

災害後に「よく動くようになったから元気になった」と判断しないでください。日中うろうろする、夜に歩き回る、毛づくろいが増えるといった変化は、落ち着きのなさや自分をなだめる行動の可能性があります。増えた行動も、減った行動と同じくらい丁寧に見る価値があります。

眠っているのに休めていない1週間 — 睡眠の断片化

レポートの前編でいちばん示唆に富むのが、睡眠の中身の分析です。Catlogは、猫が特に活動していない時間を「睡眠」と、眠ってはいないが特に動いていない「くつろぐ」時間に分けて記録しています。さらに、まとまった睡眠の回数を1回30分以上の長い睡眠と30分未満の短い睡眠に分けることで、睡眠が細切れになっていないか(断片化)を見ています。

結果は次のとおりです。

  • 睡眠時間は本震当日から減少し、翌日の7/29に最も大きな下落幅(-9.6%)を記録。ただし本震2日後(7/30)には地震前と同程度まで回復した
  • 「くつろぐ」時間は対照的に本震当日から大幅に上昇し、翌日に+23.8%と最大の増加。この増加はすぐには戻らず、8/2から8/3に再び増えるなど1週間程度高い水準が続いた
  • 長い睡眠(1回30分以上)の回数は本震当日に-11.5%と最も減少し、3日から4日かけて回復。ただし8/2から8/3にかけて再び一過性の減少が見られた
  • 短い睡眠(1回30分未満)の回数は本震翌日の7/29に+16.5%と一過性に増加し、8/2にも10%以上の一過性の増加が見られた

同前編は、睡眠時間が7/29に-9.6%と最大の下落幅を記録し7/30には回復したこと、「くつろぐ」時間が7/29に+23.8%と最大の増加を示し1週間程度高値が継続したこと、長い睡眠回数が本震当日に-11.5%、短い睡眠回数が7/29に+16.5%となったことを報告しています。

睡眠時間そのものは2日で戻っているのに、長い睡眠が減って短い睡眠が増え、覚醒に近い「くつろぐ」時間が高止まりしている。これが「睡眠の断片化」です。合計時間だけを見ていると「いつもどおり寝ている」ように見えるのに、中身はまとまりを失っている。人でも、細切れの睡眠では疲れが取れないことは想像がつくと思います。

レポートは、余震によってまとまった睡眠が中断されやすくなり、その代わりに細切れの短い睡眠や、覚醒に近い「くつろぐ」時間が増えたと考察しています。さらに8月2日から3日にかけて同じ傾向が再び現れた点について、熊本市が酷暑日を迎えたタイミング(8月3日に最高気温40.3℃、観測史上初の酷暑日)と重なることから、余震に加えて気温上昇によりぐっすり眠れない期間が続いたと述べています。

食欲もトイレも戻って見た目には落ち着いていたのに、夜中にふと目が覚めると部屋の隅で座っていたり、廊下をゆっくり歩いていたりした。あとから振り返って、あの時期はまとまって眠れていなかったのかもしれない — こうした気づきは、引っ越しや工事のあとにもよく語られます。
大きな環境変化のあとによく聞かれる声(特定の個人の体験談ではありません)

おしっこの回数と量が減っていた

後編は、トイレの下に置いて排泄を記録する『Catlog Board』のデータを扱っています。おしっこは1日あたりの回数が少なく、日によって0回になる猫も少なくないため、後編では猫ごとの変化率ではなく、猫1匹あたりの数値の群平均で比較しています。

指標地震前の平均最も減った日(7/31)の値変化率
1日あたりのおしっこ回数1.93回1.71回-11.2%
1日あたりのおしっこの合計重量85.4g66.5g-22.1%

一方、1日あたりのうんちの回数と重量については、本震後に一過性の上昇は見られたものの、おしっこのように地震前を大きく下回る減少は見られませんでした。つまり、排泄全般が止まったのではなく、おしっこに特有の落ち込みだったということです。

Catlog総研第18回レポーティング(後編)は、1日あたりのおしっこ回数が7/31に-11.2%(地震前平均1.93回、7/31は1.71回)、おしっこの合計重量が7/31に-22.1%(地震前平均85.4g、7/31は66.5g)の減少のピークを迎えたこと、うんちの回数と重量には地震前を大きく下回る減少が見られなかったことを報告しています。

見逃せないのは、回数の減り方(-11.2%)より重量の減り方(-22.1%)のほうが大きいことです。1回あたりの量が減っている、つまり出る尿そのものが少なくなっていた計算になります。しかもレポートによれば、おしっこの回数・量は本震後1週間では地震前平均を下回る水準が続き、猛暑のピークと重なった8月3日から4日の時点でも回復途上でした。

なぜ減ったのか。レポートは、本震直後に水飲み回数が減って水分摂取量が少なくなり、その影響でおしっこが減った可能性を挙げています。加えて、余震が繰り返し発生することで、地震に対して不安を強く感じる猫は我慢してしまう傾向にあるのかもしれない、とも述べています。いずれも断定はされておらず、考察として示されているものです。

猫が排泄を我慢する状況は、災害時にはいくらでも起こりえます。トイレが倒れた、置き場所が変わった、砂が飛び散って足元が変わった、部屋に人が増えて落ち着かない、余震のたびに中断される。どれも猫にとっては「安心して用を足せない」理由になります。

あわせて読みたい

猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは|特発性膀胱炎・尿路結石のサインと家庭でできる予防

猛暑が重なり、泌尿器トラブルのアラートが再び増えた

Catlogには、トイレまわりの異変を知らせる2種類のアラートがあります。ひとつはトイレの入室回数に関するアラートで、膀胱炎や尿道閉塞、下痢などで見られるように猫が頻繁にトイレに入っている場合に出るもの。もうひとつは排泄時間、つまり排泄時にじっと静止している時間に関するアラートで、「おしっこを出したくても出ない」ような場合に見られる排泄時間の増加を検知するものです。

レポートによると、トイレ入室回数アラートの発生率は本震発生直後と8月3日から4日に一過性の増加が見られ、1日あたりのトイレ入室回数の平均値も同じタイミングでピークを示したほか、8月6日以降にも複数のピークが見られました。排泄時間アラートの発生率も同様に本震直後と8月3日から4日に増加し、1日あたりの排泄時間を含めて8月3日から4日に顕著に増加しています。

同後編は、トイレ入室回数アラートと排泄時間アラートの発生率がいずれも本震発生直後と8/3-4に一過性の増加を示したこと、1日あたりのトイレ入室回数の平均値に8/6以降も複数のピークが見られたことから、影響が本震から1週間を過ぎても残っていた可能性を指摘しています。

レポートはこの重なりについて、地震による水分摂取量の減少とその後の気温上昇により尿量が減少し尿が濃縮されたことで、泌尿器トラブルのリスクが高まった可能性が示唆される、と述べています。ここでも「示唆される」という慎重な書き方です。アラートは異変の可能性を知らせるもので、病気の診断ではありません。

ただ、この考察は獣医学の一般的な知見とも整合します。コーネル大学猫健康センターは、猫の下部尿路疾患(FLUTD)のうち特発性膀胱炎(FIC)の発症においてストレスが重要な要因とみられること、環境の変化・食事スケジュールの変化・家庭内の動物の数の変化などがストレス源になりうることを解説しています。2022年にFrontiers in Veterinary Science誌に掲載されたFICのレビュー論文も、短期または長期にわたる異常な外的出来事への曝露が猫に不安や恐怖をもたらし、FICや下部尿路症状につながりうると述べています。災害と余震は、まさにその「異常な外的出来事」に当たります。

コーネル大学猫健康センターは、特発性膀胱炎(FIC)の発症においてストレスが重要な要因とみられること、猫のストレス源として環境の変化、食事スケジュールの変化、家庭内の動物の数の変化などがありうることを解説しています。

注意

尿道が完全にふさがる尿道閉塞は緊急事態です。コーネル大学猫健康センターは、完全な尿路閉塞から死に至るまでの時間が24時間から48時間未満のこともあると記載しています。トイレに何度も行くのにまったく尿が出ない、いきんで鳴く、ぐったりしているといった様子があれば、災害の混乱のさなかであっても、可能なかぎり早く動物病院に連絡してください。とくにオス猫は尿道が細く、閉塞が起こりやすいとされています。

このデータをどう読むか — 3つの注意点

数字が具体的なだけに、読み方を誤らないよう押さえておきたい点が3つあります。

  1. 1

    対象は「自宅に留まれた猫」に偏っている

    レポート自身が明記しているとおり、この分析は震災後もCatlogによるデータ収集が継続できた猫、すなわち自宅に留まり、停電やネットワーク通信の断絶の影響が比較的軽微だった環境の猫を対象としています。停電でデータが取得できなかった猫や、避難所や自宅以外へ避難した猫は含まれていません。レポートは「今回お伝えした内容は熊本地震が猫様に与えた影響の一部であり、実際の影響はこれよりも大きかった可能性がある」と述べています。つまりこの記事の数字は、比較的恵まれた条件の猫たちの姿だということになります。
  2. 2

    観察データであり、因果を証明したものではない

    スコアが落ちたのは地震のせいか、余震のせいか、猛暑のせいか、飼い主の生活が乱れたせいか。これらは重なって起きているため、行動ログだけでは切り分けられません。レポートも一貫して「〜と考えられます」「〜の可能性が考えられます」という書き方をしています。地震が病気を起こしたと読むのではなく、災害後にこういう変化が観察されたと読むのが正確です。
  3. 3

    平均値であり、うちの猫の予測ではない

    熊本群は約170匹の集団です。示されているのはその平均の動きであって、個々の猫が同じように動いたわけではありません。ほとんど影響を受けなかった猫もいれば、平均よりずっと大きく崩れた猫もいたはずです。「平均が-11%だからうちも1割減るだろう」ではなく、「うちの子の普段の値と比べてどうか」を見るための材料として使ってください。

メモ

Catlog総研は前編で、地震が動物の行動に与える影響を調べた過去の研究として、2008年の四川大地震前後のターキン(ウシ科の大型草食獣)の行動を扱ったGeら(2011年)、2011年の東北地方太平洋沖地震後の実験用マウスの行動と生理の変化を報告したYanaiら(2012年)、家畜のモニタリングによる短期地震予測の可能性を検討したWikelskiら(2020年)を引用しています。動物の災害反応を扱った研究自体は以前からありますが、飼い猫を対象に発災前から連続記録した大規模なデータは新しい試みだといえます。

災害の後、飼い主が見るべき5つの観察ポイント

ここからが実践編です。レポートの結論はきわめてシンプルで、大きな災害後はまず飼い主と猫の無事を最優先で確保したうえで、普段の生活環境に立て直すにあたって「猫が安心して睡眠できる環境になっているかどうか、そしていつも通り水を飲んでおり、おしっこもしっかりしているかどうか」に気をつけることが大切だ、というものです。

この2つを、家庭で観察できる形に落とし込むと次のようになります。

災害後の2週間、毎日見たい5項目

  • おしっこの回数(トイレに残る尿の塊の数。前日・平時と比べて減っていないか)
  • おしっこの塊の大きさ(回数が同じでも1回量が減っていないか)
  • 水を飲んでいる様子(水入れの減り方。器の場所が変わっていないか)
  • まとまって眠れているか(日中に何度も起きていないか、夜に歩き回っていないか)
  • 隠れっぱなしになっていないか(食事とトイレのときに姿を見せるか)

とくに大事なのが、おしっこの「回数」だけでなく「量」を見ることです。前述のとおり今回のデータでも、回数より量の落ち込みのほうが大きく出ていました。回数が変わっていないから大丈夫、と判断すると見落とします。固まる猫砂を使っているなら塊の大きさ、シートタイプならシートの濡れ具合を、片付けるときにひと目でいいので見る習慣をつけてください。

記録は難しく考えなくてかまいません。カレンダーの余白に「尿3回・塊小さめ・水よく飲む」と書くだけでも、1週間後に見返すと傾向がわかります。デバイスがあれば自動的に残りますが、なくても紙とペンで十分に機能します。

そして、隠れている時間の長さも重要です。環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」は、平成28年熊本地震の際に避難所などで開設されたペットの健康相談コーナーに寄せられた相談として、全期を通じて消化器(ストレス性の食欲不振、嘔吐、下痢)が多く、発災初期には皮膚や行動(震える、余震の度に怖がる、飼い主から離れない、家に入りたがらない)に関する相談が多かったと記録しています。行動の変化は、当時から現場で確かに観察されていたものです。

環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」は、平成28年熊本地震で設けられたペットの健康相談コーナーへの相談内容として、全期を通じ消化器(ストレス性の食欲不振、嘔吐、下痢)が多かったこと、発災初期(4/24〜4/30)には皮膚や行動(震える、余震の度に怖がる、飼い主から離れない、家に入りたがらない)に関する相談が多かったことを記載しています。

2週間かけて環境を立て直す手順

観察と並行して、環境そのものを整えます。優先順位をつけると次の順になります。

  1. 1

    1日目 — 投薬を続けたうえで、トイレと水から復旧する

    倒れたトイレを起こし、こぼれた砂を補充して、置き場所をできるだけ元に戻します。場所を変えざるをえないときは、人の動線から外れた静かな場所へ。水は複数の場所に置き、器が倒れないよう低く安定したものに替えます。トイレの数は猫の頭数+1個が目安とされており、この時期はとくに「我慢させない」ことが最優先です。なお、持病の投薬や療法食は災害時でも最優先事項です(環境省のガイドラインも備蓄の優先順位1の筆頭に「療法食、薬」を挙げています)。それを続けたうえで、住環境の復旧のなかではトイレと水から手をつける、と決めておくと迷いません。
  2. 2

    2〜3日目 — 隠れ場所を確保し、無理に出さない

    怖がっている猫を引っ張り出すのは逆効果です。段ボール箱やキャリー、押し入れの下段など、狭くて暗い安心できる場所を複数つくり、その近くに水とトイレを置きます。安全な場所を用意すること、食事・水・トイレ・休息場所といった資源を分けて複数置くことは、AAFPとISFMが2013年に公表した猫の環境ニーズガイドラインが掲げる基本的な考え方でもあります。
  3. 3

    4〜7日目 — 音と揺れの刺激を減らす

    余震はコントロールできませんが、家具の固定、ガラスや食器の片付け、重い物を高い場所に置かないといった対策で「大きな音がする」機会は減らせます。厚手のカーテンや、静かな環境音を流すことで屋外の音を和らげる工夫も、家庭でできる範囲の緩衝材になります。生活リズム(食事の時間、消灯の時間)をできるだけ元に戻すことも、睡眠のまとまりを取り戻す助けになります。
  4. 4

    1〜2週目 — 水分と暑さ・寒さの管理を続ける

    今回のデータでは、おしっこの回復途上に猛暑が重なったタイミングでアラートが増えていました。飲水量を増やす工夫(器を増やす、ウェットフードを使う、ぬるま湯にする)と室温管理は、この時期セットで考えたい対策です。FICのレビュー論文でも、水分摂取を増やして尿を薄めることが管理の主要な目標のひとつとされています。
  5. 5

    2週目以降 — 戻らないものを書き出して相談する

    2週間たっても、食欲・飲水・排尿・睡眠のどれかが元に戻らないなら、それは「時間が解決する範囲」を超えている可能性があります。観察メモを持ってかかりつけの動物病院に相談してください。日付入りの記録は、診察室では見えない家での姿を伝える最良の材料になります。

環境省のガイドラインも、ペットはストレスから体調を崩し病気が発生しやすくなるため、飼い主はペットの体調に気を配り、不安を取り除くよう努めると記しています。特別なことではなく、いつもの環境をいかに早く取り戻すか、という話です。

あわせて読みたい

猫の防災・同行避難の備え|地震・台風に慌てないための平時の準備

受診を考える目安と、平時からの備え

災害後は動物病院も被災している可能性があり、すぐに受診できないこともあります。それでも、次のような様子は優先度が高いものとして頭に入れておいてください。

注意

24時間以上まったく食べない・飲まない。ぐったりして呼びかけに反応が薄い。嘔吐や下痢が繰り返される。陰部をしきりに舐める。持病の薬が飲ませられていない。これらは災害の有無にかかわらず受診や相談を検討する状況です。あわせて、前述の「尿が出ない」サインは時間との勝負になりうるため、電話でもよいので動物病院に状況を伝えてください。この記事の内容は診断や治療に代わるものではありません。

そして、災害の「後」を軽くするいちばんの方法は、やはり「前」の備えです。環境省の一般飼い主向けガイドラインは、備蓄の優先順位1(動物の健康や命に係わるもの)として、療法食・薬、ペットフードと水(少なくとも5日分、できれば7日分以上)、キャリーバッグやケージ、予備の首輪やリード、ペットシーツ、排泄物の処理用具、トイレ用品(猫の場合は使い慣れた猫砂、または使用済み猫砂の一部)、食器を挙げています。

環境省「災害、あなたとペットは大丈夫?人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>」は、備蓄品の優先順位1として療法食・薬、ペットフードと水(少なくとも5日分、できれば7日分以上)、キャリーバッグやケージ、トイレ用品(猫の場合は使い慣れた猫砂、または使用済猫砂の一部)などを挙げ、住まいの防災対策としてケージなどペットの避難場所(隠れ場所)の確保を挙げています。

このリストのなかで、今回のデータを踏まえてあらためて価値が見えるのが「使い慣れた猫砂、または使用済み猫砂の一部」です。おしっこが減るという変化が実際に観察された以上、猫が用を足せる環境をどれだけ早く再現できるかは、単なる衛生の問題ではなくなります。においの手がかりが残った砂を少しだけ持ち出せることの意味は、思っているより大きいかもしれません。同じ理由で、トイレそのものが倒れない配置にしておくこと、砂の予備を切らさないことも、災害後の泌尿器の健康に直結する備えだといえます。

なお、株式会社RABOのプレスリリース(2026年9月1日)には、Catlogを使っていた飼い主から、強い揺れに驚いた猫が家の中で姿を隠して見つからないときに、デバイスが行動を検知し続けていたことで「家のどこかにいて、動いている」と確認でき無事を確信できた、という声が寄せられたことが紹介されています。デバイスの購入をすすめる趣旨ではありませんが、災害時に飼い主がまず知りたいのは「元気かどうか」の前に「無事かどうか」だ、という指摘は、備えを考えるうえで示唆的です。

株式会社RABOのプレスリリース(2026年9月1日)は「災害時、Catlogが果たしたもう一つの役割。猫様の『安否確認』」として、令和8年熊本地震の際に、強い揺れに驚いた猫が家の中で姿を隠してどれだけ探しても見つからないときに、Catlogが行動を検知し続けていたことで「家のどこかにいて、動いている」ことが確認でき無事を確信できたという声が飼い主から寄せられたと記載しています。

うちは被災していませんが、この記事のデータは参考になりますか
なります。今回のレポートが捉えたのは「予測できない大きな環境変化のあとに、猫の睡眠と排泄がしばらく乱れる」という傾向です。引っ越し、リフォーム、来客の多い時期、大きな模様替えなど、猫にとっての環境変化は災害以外にもたくさんあります。そうした後にはしばらく、眠りのまとまりとおしっこの量を意識して見る、という使い方ができます。ただし数値そのものは熊本の猫の平均であり、他の状況にそのまま当てはめられるものではありません。
データを取るデバイスがないと、変化には気づけませんか
そんなことはありません。今回のデータで最も意味があったのは、おしっこの回数と量、そして睡眠のまとまりでした。おしっこは固まる猫砂の塊の数と大きさで、睡眠は「日中に何度も起きていないか」「夜に歩き回っていないか」で、家庭でもおおよそ追えます。大切なのは精度より継続で、平時から数日分でも記録があると、変化があったときの比較対象になります。
地震のあと、猫が急に甘えてくるようになりました。心配すべきですか
環境省のガイドラインには、平成28年熊本地震の際の相談内容として「飼い主から離れない」という行動が記録されています。不安の表れとしてよく見られる変化ですが、それ自体がただちに問題というわけではありません。無理に離さず、そばにいられる場所を用意してあげてください。ただし、甘え方の変化と同時に食欲や排尿が落ちている場合は、体調のサインが紛れている可能性があります。気になるときは動物病院に相談してください。
避難所に連れて行った場合、この記事の内容はどこまで当てはまりますか
今回の分析は自宅に留まった猫が対象で、避難所などへ避難した猫は含まれていません。レポート自身も、実際の影響は分析結果より大きかった可能性があると注意を促しています。避難先ではトイレの場所やにおい、周囲の音や人の出入りがすべて変わるため、排泄の我慢や睡眠の乱れはより起きやすいと考えるほうが自然です。使い慣れた猫砂を少しでも持参する、ケージ内に隠れられる布をかけるといった工夫の重要度は、自宅にいる場合より高くなります。
おしっこが減っているとき、水を無理に飲ませてもよいですか
シリンジなどで無理に飲ませるのは誤嚥のリスクがあり、家庭での自己判断ではおすすめできません。まずは器を増やす、置き場所を静かなところに移す、ウェットフードやぬるま湯を使う、といった「自分から飲みやすくする」工夫を試してください。それでも飲水や排尿が戻らない場合や、まったく尿が出ていない場合は、水分補給の方法も含めて動物病院に相談するのが安全です。
レポート本体は無料で読めますか
読めます。Catlog総研の第18回レポーティングは前編・後編に分かれて公開されており、この記事の出典欄からアクセスできます。図表も掲載されているので、スコアや行動の推移を実際のグラフで確認したい方は原典をご覧ください。

まとめ

令和8年熊本地震の前後で、熊本の猫約170匹の行動ログには一貫した動きが記録されていました。本震当日に元気スコアが98.9から91.7へ、翌日に睡眠スコアが87.7から82.5へ落ち、食べる・水を飲む・毛づくろいが減る。翌日には食事が戻り始めるものの、そこから歩く・走る時間が2割以上増え、まとまった睡眠が減って細切れの睡眠と「くつろぐ」時間が増える状態が1週間ほど続く。そして7月31日には、おしっこの回数が11.2%、量が22.1%減るところまで落ち込み、回復しきらないうちに猛暑が重なって、トイレ関連のアラートが再び増えました。

見た目には落ち着いていても、睡眠と排泄はまだ戻っていない。これがこのレポートから持ち帰れるいちばん大事な一点です。だから災害の後、飼い主が毎日見るべきものは、そう多くありません。まとまって眠れているか。水を飲んでいるか。おしっこが、いつもと同じ回数と量で出ているか。この3つを2週間ほど気にかけるだけで、気づける変化はずいぶん増えます。

同時に、これは約170匹の平均値であり、自宅に留まれた猫に限られたデータであり、因果を証明したものではないことも忘れないでください。数字はうちの猫の未来を予言しません。あくまで「どこを見ればよいか」を教えてくれる地図です。地図を手に、目の前の猫を見る。そして戻らないものがあれば、記録を持って動物病院に相談する。災害の後にできることは、案外それに尽きるのだと思います。

被災された方と猫の、一日も早い日常の回復を願っています。

出典・参考

この記事をシェア

関連する記事

住環境・お留守番

猫の防災・同行避難の備え|地震・台風に慌てないための平時の準備

台風や地震、そして9月1日の防災の日を前に、猫と安全に避難するための現実的な備えを整理します。在宅避難と同行避難の考え方、キャリーへの平時からの慣らし、フードや水・トイレ用品の備蓄とローリングストック、マイクロチップ登録情報の更新や迷子対策、避難所でのマナーまで、環境省ガイドラインなどの出典を確認しながらまとめました。

健康・病気・ケア

猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは|特発性膀胱炎・尿路結石のサインと家庭でできる予防

猫に多い下部尿路疾患(FLUTD)は、特発性膀胱炎や尿路結石などをまとめた膀胱・尿道の病気の総称です。受診の目安になる排尿のサイン、命に関わる尿道閉塞の緊急性、そして水分・トイレ環境・体重管理といった家庭でできる予防を、出典を確認しながら落ち着いて整理します。