猫とSFTS(重症熱性血小板減少症候群)|人にもうつるマダニ感染症の最新状況と現実的な予防
対象の目安: 全ライフステージ

ニュースで「猫から人にうつるマダニの感染症」という言葉を見て、不安になった飼い主も多いのではないでしょうか。ここで取り上げるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニが媒介する人と動物の共通感染症で、発症した猫の致死率が高く、まれに猫から人へ感染した事例も報告されています。ただし、正しく理解すれば過度に怖がる必要はありません。この記事では、診断や治療を代替するものではないという前提で、SFTSの基礎、なぜ今注意されているのか、猫の症状と人への感染経路、そして室内飼育を中心とした現実的な予防と受診の目安を、国や自治体・獣医師会の情報をもとに落ち着いて整理します。
SFTSとは — マダニが媒介する人と動物の共通感染症
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、SFTSウイルス(フェヌイウイルス科バンダウイルス属)を病原体とする感染症です。主にウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染し、人にも動物にも起こる人と動物の共通感染症(人獣共通感染症)に位置づけられます。国内では2013年1月に初めて患者が確認され(この患者は2012年秋に発症)、その後、西日本を中心に報告が積み重ねられてきました。
媒介役となるマダニは、食品に発生する小さなコナダニや、寝具にいるヒョウヒダニ(チリダニ)とは別のグループで、野山や草むら、河川敷などの屋外に生息するかたまりの大きなダニです。春から秋にかけて活動が活発になり、草むらを通った動物や人に取りつきます。屋外に出る猫が草むらでマダニをつけて帰ってくる、というのが猫の感染で想定される典型的な経路です。
なぜ今あらためて注意されているのか — 猫の症例報告
SFTSはこれまで主に「マダニに咬まれて人が感染する病気」として知られてきましたが、近年は猫の症例や、猫から人への感染事例が報じられ、飼い主にも身近な話題になりつつあります。
その一例として、富山県では2025年8月25日に、県内で初めて猫のSFTS感染が確認されました。感染したのは3歳の猫で、約1か月間、屋外に逸走(脱走)していたと報告されています。屋外でマダニに咬まれたことが感染の背景として考えられるケースです。こうした県内初の症例は各地で確認されており、これまで報告の少なかった地域でも「まったく無縁ではない」という認識が広がってきています。
まれな事例ではありますが、発症した犬や猫から人へ感染した事例も報告されています。だからこそ、猫と暮らす家庭でもSFTSの基本と予防を知っておく意味があります。とはいえ、次の章でふれるように、リスクは限られた条件で生じるものです。過度に不安になるのではなく、正しく備えることが大切です。
猫が発症したときの症状と高い致死率
猫がSFTSを発症すると、発熱・食欲不振・消化器症状(嘔気・嘔吐)などが主な症状としてみられ、黄疸(皮膚や粘膜が黄色くなる)が高い頻度で現れるとされています。血液検査では血小板減少・白血球減少・肝酵素の上昇といった変化がみられます。これらは猫風邪など他の体調不良でも起こりうる症状のため、見た目だけで判断するのは難しく、屋外に出る猫でこうした急な不調があれば、経緯とあわせて動物病院で相談することが大切です。
とくに知っておきたいのが、猫の致死率の高さです。東京都獣医師会のガイダンスによると、猫の致死率は6割以上(ある集計では57.7パーセント)と報告されており、人や他の動物と比べて非常に高いとされています。厚生労働省の資料でも、感染して発症した場合に猫は約6割、犬は約4割が死亡するとされています。人のSFTS患者の致命率が27パーセントとされるのと比べても、発症した猫の予後は厳しいことがうかがえます。
注意
人のSFTS患者の致命率が27パーセントとされること、発症した動物では猫が約6割、犬が約4割が死亡するとされることについて。厚生労働省「SFTSに関するQ&A」より。
猫から人へうつるのか — 感染経路と過度に怖がらないための前提
「猫から人にうつる」という点が最も気になるところだと思います。ここは事実を正確に押さえておきましょう。
人がSFTSに感染する主な経路は、あくまでウイルスを保有するマダニに咬まれることです。そのうえで、発症した動物からの咬傷や、発症した動物との濃厚接触によって、飼い主や獣医師など動物に近い立場の人が感染しうるとされています。厚生労働省の資料には、ネコに咬まれてSFTSに感染した事例や、患者から医療従事者へのヒト-ヒト感染事例(2024年3月報告)が記載されています。
一方で、過度に怖がらないための重要な前提もあります。厚生労働省の情報では、発症していないネコなどの動物からヒトが感染した事例は報告されていないとされています。つまり、リスクが生じるのは主に「SFTSを発症している猫との濃厚接触や咬傷」、そして「自分自身がマダニに咬まれること」です。健康に室内で暮らしている猫との日常的なふれあいで人がSFTSに感染する、というものではありません。ここを取り違えず、必要な場面で気をつける、という姿勢が現実的です。
現実的な予防 — 室内飼育とマダニ対策が基本
SFTSに有効なワクチンは動物にはなく、予防の中心はそもそもマダニに咬まれさせないことです。猫と人の双方について、無理なくできる基本を整理します。
- 1
猫を室内で飼育する
最も効果的なのは、猫を室内で飼育して屋外のマダニと接触させないことです。屋外に出る猫や脱走した猫はマダニに咬まれる機会が増えます。脱走を防ぐ環境づくりも予防の一部です。 - 2
ノミ・マダニ予防薬は獣医師に相談
屋外に出る機会がある猫では、ノミ・マダニ予防薬の使用を獣医師に相談しましょう。猫に使える製品・用法は動物病院で確認し、人用や犬用の薬を自己判断で流用しないでください。 - 3
ついたマダニは自分で取らない
動物にマダニが付いているのを見つけても、無理に引き抜くと口器が残ったり体液が逆流したりする恐れがあります。動物に付いたマダニは動物病院で適切に駆除してもらいましょう。 - 4
飼い主自身も肌の露出を減らす
草むらや野山に出るときは、長袖・長ズボンや長靴で肌の露出を減らし、帰宅後は体にマダニが付いていないか確認します。猫の散歩や庭作業のときも同様です。 - 5
人がマダニに咬まれたら無理に取らない
自分がマダニに咬まれているのを見つけたら、無理に引き抜かず皮膚科などの医療機関で処置してもらいましょう。咬まれたあと数週間は発熱などの体調変化に注意します。
室内飼育はSFTSだけでなく、ノミやマダニ全般、交通事故や他の感染症のリスクを減らすことにもつながります。マダニ・ノミ対策の具体策は あわせて読みたい 猫の夏のノミ・マダニ対策|室内飼いでも油断できない持ち込みリスクと予防の基本 あわせて読みたい 猫の脱走防止対策|玄関・窓・ベランダの危険と迷子札・マイクロチップ
屋外で活動するときは長袖・長ズボン・手袋・長靴等で肌が露出しないようにすること、人がマダニに咬まれた場合は皮膚科などの医療機関で処置してもらうことについて。富山県の注意喚起より。
もし咬まれた・体調不良のときは — 受診の目安と治療
万一に備えて、人と猫それぞれの受診の目安と、現時点の治療の考え方を知っておきましょう。
人の場合、マダニに咬まれてから発症までの潜伏期間は6日から2週間程度とされています。主な症状は発熱・全身倦怠感に加え、食欲不振・嘔気・嘔吐・下痢・腹痛といった消化器症状です。マダニに咬まれた記憶があり、その後に発熱などの症状が出た場合は、医療機関を受診し「マダニに咬まれた可能性がある」ことを必ず伝えてください。日本のSFTS患者の致命率は27パーセントと報告されており、早めの受診と適切な対応が重要です。人ではSFTS治療薬として抗ウイルス薬のファビピラビルが2024年6月に承認されています。
猫の場合、有効なワクチンはなく、治療は対症療法が基本です。発熱・食欲不振・嘔吐・黄疸などの不調があり、屋外に出ていた経緯やマダニの付着があれば、早めに動物病院へ相談しましょう。受診の際は、発症した猫を看護する家族が咬傷や体液に触れないよう、獣医師の指示に従って接することも大切です。
動物には有効なワクチンがなく治療は対症療法が基本であること、人ではSFTS治療薬としてファビピラビルが用いられることについて。東京都獣医師会「人と動物の共通感染症ガイダンス」より。
猫のSFTS・マダニ対策チェック
- 猫は室内で飼育し、屋外のマダニと接触させないようにしている
- 脱走しやすい窓・玄関・ベランダの対策をしている
- 屋外に出る機会があるなら、ノミ・マダニ予防薬を獣医師に相談した
- 猫にマダニがついていても自分で無理に取らず、動物病院に相談する
- 草むらや野山に出るときは長袖・長ズボンで肌の露出を減らしている
- 屋外に出た猫の発熱・食欲不振・嘔吐・黄疸に気づけるよう様子を見ている
- 自分がマダニに咬まれたら無理に取らず、体調変化があれば医療機関を受診する
よくある質問
完全室内飼いの猫でもSFTSは心配ですか
健康な飼い猫を撫でるだけで人にうつりますか
猫にマダニがついているのを見つけたらどうすればいいですか
屋外に出た猫が発熱や食欲不振です。SFTSでしょうか
まとめ
SFTSはマダニが媒介する人と動物の共通感染症で、国内では2013年(患者は2012年秋に発症)に初めて確認されました。猫が発症すると発熱・食欲不振・嘔吐などがみられ黄疸が頻発し、致死率は6割前後と人や他の動物より非常に高いとされます。人への感染は主にマダニに咬まれることですが、発症した猫の咬傷や濃厚接触で飼い主・獣医師が感染した事例も報告されています。一方で、発症していない動物から人が感染した事例は報告されておらず、健康な室内飼いの猫を過度に怖がる必要はありません。予防の柱は、猫を室内で飼育してマダニに咬まれさせないこと、ついたマダニは自分で取らず動物病院に相談すること、そして人自身も屋外で肌の露出を減らすことです。屋外に出た猫の急な不調や、自分がマダニに咬まれたあとの発熱には早めに対応し、正しい知識で落ち着いて備えていきましょう。
出典・参考
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